第53話 飯田の心
ハンバーグを食べた後、行方不明者について報道されているかネット記事で確認してみたが、それらしきものは無かった。
それは流石ににおかしいと思い松平に確認してみようとすると、松野からメッセージが届いていた。
『明日からまた小西が学校に来るらしい。あいつお前を潰すとか言ってたし、もしかするとまた学校休んだ方が良いかもしれん』
小西か…正直どうでもいいな。あいつが俺に何をやろうと効かないだろうし、絡んで来てもまた返り討ちにしてやる。
それより今は松平さんに話を聞きたい。
松野には適当に返信し、すぐさま松平に連絡をとる。
夜は犠牲者の集計で忙しかっただろうから、もしかすると今はまだ寝ているかもしれないな…
という心配をしていた内野だが、松平からは直ぐに返信が帰ってきて、少し通話したいと言う。
(これ以降「」のセリフが内野、『』が松平です)
『内野君。ごめんね、メッセージじゃなくて普通に話したいってわがまま言っちゃって』
「いえ、大丈夫ですよ」
『改めてお礼を言うよ。ありがとう、君の作戦のお陰で私達は生き残れた』
「まぁ…そもそも僕がフレイムリザードを倒しに行こうだなんて言わなければあんな事にならなかったかもしれないですけどね…」
『君は正しかったと思うし、私もあの時は動くべきだと思ったから賛同したんだよ。
それにあそこで集まった15人は誰も死ななかった訳だし、梅垣さんも黒狼に痛手を負わせられたから結果オーライだよ』
松平の励ましのお陰で自分のした行動に自信を持てたが、内野の中には一つ気掛かりがあった。
「そう言ってもらえると助かります。
ですが皆のQPを使って光の玉を買ってもらったので…松平さんの蘇生石を買う分のQPが…」
実は俺が黒狼捕まえる為に使ったアイテム、大量の光の玉、ポーションは他の人に買ってもらったものでもある。
だから松平さんが飯田さんを生き返らせるために貯めていたQPは前回のクエストでほとんど使ってしまい、蘇生石購入から一歩遠のいてしまった。
『大丈夫、QPの事は全く問題じゃないよ。
だって…黒狼を倒してからじゃないと、多分私は蘇生石を使えないと思うんだ。もしもまた彼が殺されたりなんかしたら…』
黒狼をどうにかしないと、再度大切な人を失うという可能性がある。
いくら蘇生石という希望があっても、そんな経験をしてしまえばきっと心が折れてしまう。
俺も新島達を生き返らせるのなら、黒狼を倒してからにしたい。前回のクエストで梅垣さんは黒狼の足の切断に成功したし、俺が『強欲』でもっと強くなれば勝てる可能性も十分ある…と思う。
『ねぇ、少し昔の話をしていいかな?』
元々内野は松平に聞きたい事があったの連絡したのだが、今はそれを話せる雰囲気ではなかった。
『前のクエストのロビーでも少し言ったけど、彼って手に入ったQPを全てガチャに使うぐらい計画性なく行動する人だったんだ。
その頃はリーダーでも何でもなくて、ただ気まぐれで人を助けてたの。
それが功を奏して、前のリーダーが死んじゃったのをきっかけに次のリーダーとして選ばれたんだ。
前のリーダーは秀でた戦闘の才能があって、高レベルだったし間違いなく一番強かったんだよね。だから皆も彼を慕ってたし、リーダーに選ばれるのも頷けた。
でもね、飯田さんは普通の人だったんだ。特に何か凄い才能があった訳じゃないし、レベルも皆と比べて格段に高かったりもしなかった。
ただこれまでしてきた行為が認められて選ばれただけだったの』
普通の人…か…
もしも俺が飯田さんの立場だったらプレッシャーで潰れそうだ。それに耐え、リーダーとして皆を引っ張っていった飯田さんは凄いな。
「レベルや才能じゃなくて、今までしてきた行為でリーダーに選ばれるって凄いことですよ。
能力が無くてもそれだけ多くの人に支持されたのは、きっと飯田さんにそれだけの魅力があったからですね」
『そうだね、そんな彼だから私も傍で支えようと思ったんだ。
でも…彼は強くなかった、プレッシャーに押しつぶされて心はボロボロだったんだ。『メンタルヒール』を使わないと皆の前で堂々とした姿を見せられないぐらいにね。
そんな彼を見てて思っちゃったんだ…リーダーを辞めてほしいって、元の一人のプレイヤーに戻って欲しいって』
飯田さんの心は既に限界を迎えていたのか…
なんとか松平さんの『メンタルヒール』で心が崩れない様に繋ぎ止めてたんだな。
俺の初クエストの時、ターゲットがスライムだと判明して取り乱したのは、その心が崩れてしまったからなのかもしれない。
…あの時の自分は初クエストで、何が何だか分からなかったから仕方ないと思うが、本当はあの時点で皆気が付くべきだったんだ。飯田さんの心の状態を。
松平から告げられた本当の飯田の姿に、内野は何も言えなかった。少し沈黙が続いたあと、またしても松平が喋りだす。
『ごめんね。まだクエストを数回しか受けてない君に、こんな他の誰にも話してないような事言っちゃって』
「いえ…本当の事を知れて良かったです。
でもどうして僕にこの話をしてくれたんですか?」
内野の疑問に、松平は少し考えてから言葉を返す。
『…君が特別な人だと思ったから。
前のリーダーの様に、人の上に立てる力を持っている人だと思ったから話せたんだ。
黒狼に追われているあの状況で作戦を立て、格上相手に真っ向から立ち向かえる。これは普通の人には出来ない事だよ、それもまだクエスト数回目の人には到底ね』
「と、特別な人って…僕は普通の高校生ですよ。それに自分がリーダーになっても…多分飯田さんと同じ様にプレッシャーに耐えられません」
内野の言葉を聞くと、松平は何か考え直したかのように謝りだした。
『…うん。そうだね…ごめん。
私…今君に最低な事を言おうとしてたかも。飯田さんの代わりにリーダーになってくれ、だなんて言おうとしてた…』
え!俺がリーダー!?
思わぬ松平の言葉に驚く。
「松平さん、それは流石に…」
『大丈夫、少し冷静になれてなかっただけだから。でもこのままの状態で飯田さんを生き返らせるのは…ちょっと抵抗があるんだ…』
確かにそうだ…何も変わらないまま飯田さんを生き返らせても、また辛い思いをさせてしまう。
黒狼の事に続いて解決すべき問題が増えたな…
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