第52話 友人の想い
あれから夜が明けるまで寝ずに新島の返信を待ったいたが、やはり新島からの返信は無かった。
松平が一晩中寝ずに集計を取った結果、今回のクエストでの死者は70人にも上り、残っているのは30人程度。更に、新島だけでなく井上や小田切も死んだという。隠してもどうせバレるので、その生き残った30人には黒狼の事を話してある。
全く寝ずに朝を迎えてしまったので、親には頭痛があると噓をつき学校を休む。学校に連絡してもらった後、父親は仕事で、母親も何処か出掛けたので家には内野一人になる。
内野は布団に
新島の死による悲しみ、黒狼に対する怒り、殺しきれなかった悔しさ、そして幾つかの疑問。それらが内野の中に渦巻いていた。
…そういえばまたあれが起きたな。急に俺の中から恐怖が消えて、頭の回転が早くなるやつ。
あれのお陰で黒狼に立ち向かえた訳だし、もしもあの状態にならなかったら俺達は多分死んでいた。
自分の事だけど…何であんな風になるのか、なれるのか全く分からない。
でも一つ言える事がある、きっとあの状態にいつでもなれるようになれば、常に冷静でいられ、いつでも正しい判断が出来る様になるはずだ。
だがどうすればあの状態になれるのか分からないし、今はそれを考えていても仕方ない、とにかく次のクエストまでに出来る事を考えよう。
あそこで黒狼の動かなかった理由だとか、正体の考察だとかは後回しだ。
内野は自分のステータスを開く
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【レベル10】 SP6 QP22
MP 139
物理攻撃 42
物理防御 28
魔法力 18
魔法防御 52
敏捷性 17
運 6
【スキル】
・強欲lv,3 ()
・バリアlv,3(40)
【パッシブスキル】
・物理攻撃耐性lv,4
・酸の身体lv,2
【アイテム】
・ブレードシューズ
・鉄の剣
・光の玉×9
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黒狼と戦う前に持っていたSPを全て物理攻撃に割り振ったから、今あるSPは全てクエスト終了後に貰ったものだ。
確かSP17ぐらい使った気がするけど、やっぱり物理攻撃も17しか上がってない。
本来ならその3倍ぐらい上がっていたと考えると勿体無い気しかしないが、あの時は出し惜しみ出来るほどの余裕は無かった。
SP6で出来る事を見てみると、ステータスを6上げるか『酸の身体』のスキルレベルを上げることぐらいしか無いな。
それは分かっているのだが、内野が見つめているのはステータスボードにある『強欲』という文字だった。
俺は前回このスキルを使ったが…特に何も悪い事は起きなかった。黒狼の雷が痛すぎて気が付かなかっただけという可能性もあるが、少なくとも気絶してない。
いや、これも雷に触れたショックのせいで気絶しなかっただけかもしれないが…
内野は前回のクエスト終了後に、強欲スキルには反動があると考えていた。
だが今回の事で、希望的観測ではあるけどそれが間違いかもしれないという考えが生まれる。
俺が黒狼に対抗出来る様になるのには、このスキルが使えないといけないと思う。SPでちまちまステータスを上げてる暇なんて無い。
…分からない事が多いが、次のクエストでは魔力水があるだけ何回でも使ってやろう。黒狼に対抗する為にこのスキル…強欲を。
強欲を使うと決意を固めた途端、少し肩の力が抜けたからかいきなり睡魔が襲ってくる。
内野は布団に包まったいたので、気が付けば熟睡していた。
一階から鳴るインターホンの音で目が覚める。
既に日が暮れており、時計を見て自分が十時間程寝ている事に気が付く。
寝すぎた…それに腹も減った。
新島の返信を待っている間に軽く食べたとはいえ、朝と昼に何も食べていなかったから流石にお腹が空いたな。
その間もインターフォンは鳴っており、誰だか分からないが取り敢えず一階に下りて玄関を開ける。
そこにいたのは、内野の幼馴染である佐竹正樹であった。
「お前大丈夫なのか?全く返信が無いから心配したんだぞ」
あ、そういえば頭痛って言って学校休んだんだよな。
「うん、もう治ったし問題無い。明日は普通に行ける」
「それなら良いのだが……小西との事があって学校に来にくいから休んだのかと思ってな」
まぁ…普通はそう思うか。あれだけヤンキー達に目を付けられてたら、普通の人ならまともに学校行けないだろう。
「そういう訳じゃないから安心しろ。
あいつらも学校の人目のある所で殴ってきたりはしないだろうし、常に誰かと一緒に行動するように気を付ければ大丈夫だ」
クラスに常に一緒に行動出来る奴なんかいないけどな。
「…そうか。
なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「ん?」
不安そうな表情をしていた佐竹だったが、内野の言葉を聞いてからは真剣な表情に変わる。
「お前さ、もしかして俺に何か隠してる?」
…申し訳ないが、本当の事は言えない。
妙に確信めいた言い方であったが、クエストについては何も話せないので
「何かって…前の小テストの点数が酷かった事以外は何も隠してないぞ」
「…なら良い。じゃ、また明日な」
帰り際に見せた佐竹の表情は、まだ何か疑っている様な表情もあり、それと同時に少し悲しそうな表情にも見えた。
友人をそんな顔にさせてしまった事に少し罪悪感が生まれるが、特に引き留める事なくリビングに戻る。
なんかあいつ勘が良いけど…一体何を疑ってたんだ?
クエストの事は流石にバレてないだろうし…
リビングに行くと誰も居なかったが、冷蔵庫の前に貼ってあるメモに気が付く。
『早く頭痛が治るようにあんたの好きなハンバーグ作っておいたから、食欲あったら食べてね。 母より』
冷蔵庫を開くと、中には内野の好物であるハンバーグがあった。
普段はあまり体調崩さないから心配させちゃったな…
佐竹との事もあり、更に内野の中にある罪悪感が強くなる。
だがそれと同時にとある決意も固まった。
…死にたくない。
俺が死んだら父ちゃん母ちゃん、それと正樹も心配する。クエストで死んだらこっちでは行方不明って事になるうだろうし、そんな心配3人にはさせたくない。
って…行方不明者?
内野は自分で言った事だが、それに一つの疑問を抱く。
あれだけの死者が出てるのに、どうして全くニュースで取り上げられないんだ?
松平さんの言っていたスライムの大惨事の時もそうだが、普通一晩で70人も消えていたら何かしら話題になるよな?
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