第51話 討伐対象:フレイムリザード 9

これは今までで一番危険な賭けになる。『強欲』を使った後はMP切れにより、俺は完全に生身の状態になってしまう。

しかも前のクエストでもあった通り、強欲スキルの反動で使用後に俺は気を失うかも…いや、もしかするともっと酷い事になる可能性だってある。


そうなれば当然黒狼を抑えつける事なんか出来ないし、恐らく今黒狼が纏っているこの雷に生身の状態で触れたら無事じゃ済まない。

だが離れていたら強欲が当たるか分からないし、このままコイツを掴みながらスキルを使うしかない。


ゴーレムの時だって気絶してても勝手に闇は核を呑み込んだ、たとえ俺がどうなっても…クエストさえ終われば何でも良い!



覚悟を決めた内野は遂にスキルを使用する。


「強欲!!」


スキル名を言うと身体から真っ黒の闇が現れ、同時に内野の身体から力が抜け生身の状態となる。

そして生身で黒狼の纏う雷に触れていた事により、身体中に痛みが走る。


それは内野が今まで感じた事の無い痛みで、声を出して苦しみながらその場で倒れる。


「ぐがあああああぁぁぁ!」


だが意識を失うことはなかった。

大橋の砂の鎧・ゴーレムの腕で触れていたお陰か気絶には至らず、直ぐに倒れたことにより黒狼に触れていた時間が少なかったのでこの程度で済んだ。


だが黒狼がどうなっただとか考える余裕など全くなく、痛みで地面をのた打ち回る。

誰かに名前を呼ばれた気がするが返事をする余裕も当然ない。


すると誰かに胴を持たれ、ズルズルと引っ張り内野を黒狼から距離を置こうとしている者がいた。


「内野!死ぬじゃないわよ!」


視界が霞んでおりほとんど何も見えなかったが、耳元に聞こえる声は工藤のものだった。


痛みはあったが視力は次第に回復していき、数秒程で目の前の光景を視認出来る程度には回復した。




前を見るとそこには、内野の出した闇に身体の半分以上包まれ動かない黒狼がいた。態勢も内野が抑えつけていた時のものとほとんど変わらず、ピクリとも動かない。


抵抗しない黒狼に、もしかするとこのまま闇が黒狼の吞み込み尽くしてくれるかもしれないと希望を抱く。



だがそんな希望は次の瞬間には消え去っていた。


黒狼は闇に吞まれながらも身体をよじって立ち上がると、顔を上に向ける。


ガシャアアアァァァァァン!


まるで雷を口から吐いたかのような光と轟音だった。光に見えたのは雷で、その雷により黒狼の周りの闇は消滅する。


闇を飛ばした黒狼は立っており、真っ直ぐに内野の方を見つめる。


一瞬何が起こったのか理解できなかったが、この光景を見て確実に分かったことがある。それは作戦が失敗したという事。


その場にいる全員はただ絶望しながらその場で固まる。固まっていたのは内野も同じであったが、やはり恐怖は無く、ただ一点を見つめていた。


それは黒狼の目である。

何故か黒狼も動かず、内野の方を一点に見つめている。お互い見つめ合っている状態だ。


どうして自分が黒狼と見つめ合っているのかは分からないが、それでも目を逸らすことはできなかった。


なんで動かないんだ…腹の傷だって動けない程のものでもないし、やろうと思えば俺達を殺せるはずだ。なのにどうして…



見つめ合い動かない黒狼であったが、次の瞬間

黒狼の背後から現れた一つの黒い影により状況が変わる。



黒狼含め一同がその影を視認した瞬間、黒狼の後足が片方切断される。


「クォォォォォォォォン!!」


足が切られた瞬間黒狼は痛みにより声を上げる。


足を切断する時に微かに見えた、その黒い影の正体はローブの男であった。怪我を負っているのか血だらけになっている。


あの人は…梅垣さん!


梅垣は確実に仕留める為、足を切断した流れでスピードを落とさず黒狼の顔の方に向かう。

梅垣は踏み込む様な動作をすると、何にも触れていないのに空中で進行方向を変え、黒狼の首に切りかかる。首を切断する勢いだ。


それを防御するかのように黒狼は咄嗟に雷を纏う。それはさっきまでの加減していたものとは違い、本気ものであった。


黒狼に雷を纏われたが、それでも梅垣は止まらない。梅垣はそのまま両手の剣で首に剣を振ろうとする。


二人の間を遮るものは纏われた雷以外に無く、確実に梅垣の剣は黒狼の首に当たるはずであった。


しかし黒狼の首を落とすことは叶わなかった。

それを遮ったのは、クエストが終了した時に現れる青い光であった。






目を覚ますとそこは自分の部屋で、身体の痛みはすっかり無くなっていた。


突然の事に理解が追い付かず内野は頭を抱え、何が起きたのか一つ一つ思い出す。


黒狼は…倒せたのか…?

いや、違う!とどめを刺す瞬間、フレイムリザードが死んだんだ!

それであいつを殺しきる事が出来なかったんだ!



すると内野の前にいつもの画面が現れる。

--------------------------

『クエスト成功』

1位大橋 大吾  QP23 +SP5

1位進上 誠也  QP23 +SP5

3位内野 勇太  QP21 +SP3

4位松平 愛奈  QP20 +SP2

5位梅垣 海斗  QP18 +SP1

5位工藤 鈴音  QP18 +SP1

---------------------------

ターゲット討伐者 +SP3

その他プレイヤー +SP1

---------------------------


が、今の内野にはそんな画面など見えていなかった。


もう少しで倒せたんだ…あそこで倒せていたらこれ以上の犠牲が出なくて済むのに!


悔しさのあまり少し涙が出るが、ふと自分のスマホを見ると工藤や進上からの連絡が来ていた。


そうだ!新島は!?無事なのか!?


内野は急いで新島に通話をかける。


耳元にスマホを当てるが、スマホを持つ手が酷く震えている。中々通話に出て来ず、悪い考えばかり頭を過ってしまい心臓の鼓動が早くなる。


頼む頼む頼む!出てくれ!




いつまでたっても繋がらなかった。何回もかけ直し、メッセージも送ってみるが一切反応は無い。


もしかすると他の人と通話してるのかもしれないと思い皆にも新島の事を聞く。


が、全員新島からの返信が無いと言う。




ぐ、偶々手元に電話が無かっただけか?

…いや、ありえないよな…

ロビーでの格好を見る限り、新島は俺とは違いしっかり準備していたと思うし…


新島が死んだと察してしまい、胸に大きな穴が開いたような喪失感が内野の全てを埋め尽くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る