第49話 討伐対象:フレイムリザード7
工藤の兜があれば残りのフレイムリザードの数も、残っている人の数もおおよそ分かる!
あいつの兜は本当に有能だ。あれにどれだけ助けられたことか。
工藤に同伴してる人を見ると、松平・川柳が見える。
二人も生きていて良かった…二人は俺達よりも遥かに経験があるし頼りになる。後は小田切さん、井上さん、それと新島さえ生きていれば良いんだが…
工藤達と合流でき、内野達9人と工藤達6人で合計15人となった。
工藤が何か言いたげだったが、今は一刻を争う状況なので内野は再開の言葉を述べる前にフレイムリザードの数を聞く。
「工藤、残りのフレイムリザードが何処にいるか分かるか?」
「ええ、ここに来るまでに調べておいたわ。私が見る限りフレイムリザードは残り一匹よ。でもさっき雷が鳴ったいた方向…黒狼がいるかもしれない方にいるわ」
工藤たちも雷を見たのか。予めフレイムリザードの場所を見ていたという事は、残りのフレイムリザードをさっさと倒すという俺と同じ考えだな。
「よし、早くそいつを倒しに行こう!確かに黒狼がいた方は向こう側で…」
「ちょ、ちょっと待て!」
内野が立ち上がろうとすると、一人の男が声を上げて妨げる。それはさっき木村と言い争っていた青年であった。
「飯田さんを殺したヤバイ魔物がいる方に行くのか!?あいつがどこらへんにいるのかはさっきの雷で分かったわけだし、逆方向に逃げた方が良いだろ!
それにまだクエスト数回しか受けてないお前に、これからどうするか決める権利なんて無い!」
青年は必死の形相で内野を説得しようとする。大橋・進上・木村以外の者は青年の言葉に賛同する様子で少し頷いていた。
そしてその言葉に内野は何も言い返せなかった。
確かにそうかもしれないけど…このままじゃ…皆が…
内野の中にあった焦りが更に加速する。
このままではまだ合流できていないメンバーが死んでしまうかもしれないという焦り。
その焦燥感に駆られ、最悪自分一人でもフレイムリザードを倒しに行こうかと思いだした所で、松平が口を開いた。
「いや、内野君の言う通りフレイムリザードを倒しに行こう」
その松平の言葉に全員が驚く。そして青年は松平に咄嗟に言い返す
「ちょ…もしかすると俺達全員死ぬかもしれないんですよ!?
松平さんはまだ黒狼について話を聞いてないからそんな事言えるんじゃ…」
「工藤さんから黒狼について、飯田さんの死、ランキング一位のプレイヤー、それらの話は既に聞いてる。それを知った上の判断だよ。
それに別に全員で動かないといけない訳じゃないし、動くのは行きたいメンバーだけで十分」
工藤が何か言いたげだったのは、黒狼について皆に話した事だったのか。
いや、工藤はさっき全員の前で黒狼という単語を出した訳だし、本当はその時点で気が付けたはずだ。
焦り過ぎて冷静にいられなかったからか…
自分がどれだけ冷静じゃなかったのか今になって理解でき、皆の同意も取らずに動こうとした事を反省する。
その間も松平は説得を続けていた。
「ここで動かなかったら…きっと遅かれ早かれ私達も殺されちゃう…
皆も黒狼の話を聞いたのなら分かると思うけど、次以降のクエストでも奴がいる可能性が高いの。
もしもこのままプレイヤーが殺されていき、戦力が減ってしまえば手遅れ…きっともうあいつに勝てない。
そうなれば、ただクエストがくるのを怯えて待つだけの日々になるんだよ!?
だから少しでも死者を減らす為に今動かないと!それが私達が生き残る為の唯一の道なのかもしれないんだから!」
松平の言葉を聞き、全員が黙り込む。
飯田さんが死んでからの松平さんは…少し雰囲気が変わったな。2回目のクエストのロビーとかで色々説明してもらった時はゆるい感じだったけど、何だか今はリーダーっぽさもある。
堂々とした口調の松平を心強く思う内野であった。そしてその松平の言葉は他の人達にも響いたようで、最初に口を開いたのは大橋であった。
「松平の言う通りだな!俺も行こう!」
その大橋に続くように工藤・進上・川柳も立ち上がる。怪我のせいで自分の力で立てない木村は手を上げる。
「私は
「少しでも早くクエストを終わらせる為に僕も行きます!」
「松平さんがそう言うなら行くよ。それに早くクエストを終わらせてリーダーを生き返らせないといけないもんね」
「怪我のせいで動けはしませんが、おんぶしてくれたらスキルで防御する事はできます。なので僕も連れていって下さい!」
フレイムリザードを倒すために自ら立ち上がったのは内野・松平・大橋・工藤・進上・川柳・木村であったが、そのメンバーを見て他の者達も次々と名乗りを上げる。
最初に内野に意見した青年は渋々周りに合わせているようだったが、これで全員が動く決断をした。
全員で動くと決まると、間髪入れずに工藤が一番に走り出す。
「そうと決まればさっさと行くわよ!フレイムリザードの場所は兜で見えてるから私に着いて来なさい!」
そんな工藤につられ、一同も動き出した。ただ、敏捷性が上がっていないメンバーは誰かしらにおんぶや抱っこしてもらう。
本当は動きが早いメンバーだけで動くのが最適だと考えていた内野であったが、この一致団結した雰囲気を壊す様な事は言えなかった。
動くこと数分、全員で走っていると工藤が口を開いた。
「あっ!今フレイムリザードと誰かが接近してる!戦ってるわ!」
工藤の言葉に咄嗟に反応する。
「本当か!?その人達は勝てそうなのか!?」
「4人だけど、魔力量だけで見たら皆そこまで強くないから…まだ分からないわ」
工藤が見えてる光はその者のMP量なわけだし、ただMPが少ないないだけで強い人かもしれない。もしその人達がフレイムリザードを倒してくれれば、これでクエストが終わる。
どうか倒してくれと願い、内野は固唾を吞み込む。他の者達も今戦っている者達の勝利を願う。
だが、数十秒後工藤から発せられたのは悪い知らせだった。
「…ダメ。全滅しちゃったわ…フレイムリザードの魔力が減っているって事は、相手の炎で一気にやられたのかも…」
くそ…ダメだったか…
悪い知らせに気分が沈むが、その後工藤が小さく呟いた。
「おかしい…」
隣にいた内野は何があったのか聞いてみる。
「おかしいって…何が?」
「ここら辺にいる魔物で一番魔力の光が大きいのがフレイムリザードなのは確認済みだから、私が目星を付けた魔物はフレイムリザードで間違いないはずなの。だからさっきの4人もフレイムリザードにやられたはずなんだけど…
工藤の言葉が詰まったことに、少し嫌な予感がする。
内野は再度工藤に声を掛けようとすると、それと同時に工藤は急に立ち止まる。
「なんか…さっきの4人を殺してから、フレイムリザードの動きが異常に早くなったの。
私は既に2匹と戦っているから分かるけど、あの魔物はこんな早く動かないはずだし…しかもこっちの方に動いてきてる…」
そ、それじゃ今俺達が向かってる魔物はフレイムリザードじゃないのか!?
もしそうなら俺達が今動いているのが無駄足になるぞ!?
「おい!フレイムリザードの場所が分かるんじゃなかったのか!?」
工藤を責めるように、またしてもさっきの青年が声を上げる。
そんな彼に少しイラッとした内野だったが、当の本人はそれどころではなく聞こえていない様子だった。
「…あそこ。もう少しでその魔物が見れるはずだわ」
兜の面の部分を上げたり下げたりして魔物の位置を把握した工藤は前を指差す。その方向は内野達が今居る遮蔽物がほとんど無いエリアと違い、大きな岩が至る所にある地形だった。
そして工藤曰く、その岩からその魔物が現れるようなので一同は黙ってその岩の方を見る。
その魔物が姿を現した瞬間、内野達は絶望した。
大きな岩から姿を現したのは黒い絶望…黒狼であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます