第48話 討伐対象:フレイムリザード6

しばらく進んでいると遠くにフレイムリザードを発見する。


俺は暫く他のスキルが手に入らないかもしれない。ならここでスキルに慣れておかないと後々困りそうだ。それに早く自分のスキルを使ってみたいし。


そう考え、フレイムリザードと戦う前に内野は自分に『バリア』を使ってみた。


スキルを使用してみると、透明の球状が内野を包み込む。動くとバリアも共に動いてくれ、

試しに内野が大橋に近づいてみると、バリアは大橋を透け、すんなりと大橋に触れられてしまった。


え、これ大丈夫?本当にバリアとして成立するの?魔物の攻撃も透けたりしないよね?


試しに進上が剣で軽く叩いてみると、今度はバリアが剣を弾く。


どういう線引きか分からないが、攻撃判定のものからはしっかり守ってくれるのか。これなら大丈夫そうだな。


何となくバリアのスキルについて分かったので、そのままフレイムリザードと戦闘する。

周りに他の魔物がいないのを確認してから内野、進上、大橋の3人は前に出た。



その後は作戦通りに進み、見事無傷でフレイムリザードの討伐に成功した。一回も攻撃を喰らわなかったのでバリアの強度は分からなかったが、普通に動く分には全く邪魔にならなかった。

バリアは数分で自然に消えたので、これにより時間制限があるのも分かった。


フレイムリザードを倒し終わり、大橋は首と肩を回しながら二人の方に歩く。


「よくやった、これで3体目だな。あとどのぐらい残っているのかは分からんが、今回はかなり早く終わりそうだ。他の魔物もあまりいないから動きやすいし、ひょっとするもう1,2匹倒せば終わるかもな」


確かにフレイムリザード以外の魔物は少ないな。


視界は開けているが、辺りを見回しても他の生き物は見当たらない。所々に虫はいるが、どれも現実世界にいる虫と同サイズで魔物と呼べるものではなかった。


最初のクエストで遭遇したあのゲジゲジみたいに大きい虫はいないんだな…大きい虫が少なくて助かった。


後ろで待機している6人の方に向かおうとした時、またしても進上が何処か遠くを見ているのに気が付く。


…もしかしてまた雷に気が付いたのか?


嫌な予感がし、進上にどうしたのか尋ねてみようとすると


「内野君、大橋さん…この音聞こえますか?」


険しい表情で進上がそう言ったので、二人はその場で耳をすませてみる。


…?

何も聞こえ………ッ!?


よく耳を澄ますと、微かに何処からか人の悲鳴らしきものが聞えてきた。耳をすませてようやく分かる程度の大きさだが、それは確実に誰かの悲鳴・叫び声であった。


悲鳴に気が付いた大橋は進上に急いで声の方向を聞く。


「あまり聞こえないから方向が分からん!進上、どの方向から音がするのか分かるか!?」


「こっちの方からです!」


「よし!早く行って助けるぞ!」


場所を聞いた大橋は後ろに下がっている6人を呼んできて、声の方へと向かおうとする。


この声は…魔物に襲われているのだろうが、もしかして相手は…


内野がそう考えていると同時に、進上が示した方向が一瞬光る。それは雷が落ちた時に見える光と似ていた。


「やはり向こうに雷を使う魔物がいるんだな!全員で向k…」


「ダメです!離れましょう!」


大橋の言葉を遮り、内野は大声で皆を止める。突然内野が大きな声を出していた事に全員驚いていた。


相手が黒狼なら俺達が行ったところで意味無い…無駄に死にに行くようなものだ。

俺と新島が核へ走っている時、あの狼はランキング一位である梅垣さんと戦闘中でありながらも一瞬でこちらに接近してきた。

それに飯田さんすら奴の雷を防げなかったのだろう。そんな相手に挑む何て無謀だ。


「ど、どうして?内野君らしくないよ?」

「どうした内野。怖気づいたのか?安心しろ俺の土魔法で守ってやる!」


「いや、あいつはダメです…俺らが行った所で敵わない相手なんです!」


進上と大橋は様子がおかしい内野にそう言い説得しようとするが、内野はそれを拒否する。


…新島には言うなとは言われたが、皆が向こうに行くのを止める為には黒狼の事を言うしかない。


「せ、先輩…で、でもまだ助けを求めてる人が…」


ドゴォォォォォォォォォォォォン!


木村の言葉を遮るように突然轟音が響き、周囲が一瞬光る。突然の落雷だ。

だが天気は晴れているので、この雷は天気によるものでは無いのは明らかであった。


そして辺りは完全に静まり返っており、さっきまで聞こえていた助けを求める声は完全になくなっていた。


「後ですべて説明するので…今はとにかく退きましょう」


内野の表情を見て、ただならなぬ雰囲気を感じ取った一同は大人しく雷の場所から離れる方に引いて行った。


走りながら内野は自分の知っている黒狼に関することを全て皆に話していった。ランキング一位のプレイヤー、飯田さんの死の真相、前のクエストでもいた事など隅々まで話した。



数十分程度走り、今は皆出来るだけ姿勢を低くしながら荒野にある大きい岩の影で休憩する。


飯田の死亡の理由が黒狼だと分かると、もうだれも黒狼に立ち向かおうなんて一切思わなかった。



かなり離れることが出来たか…

でもまだクエスト時間は半分以上ある。それにフレイムリザードが何匹討伐されてるかも分からない。このままクエスト終了時間まで逃げ切れるのか?


内野が難儀していると、そこで大橋がフレイムリザードを倒すために動き続ける提案をする。


「もしかすると…今まともに動けるのは俺たちだけなのかもしれない。なら俺達がフレイムリザードを倒してクエストを終わらせねば、今までにない程の死者が出るかもしれんぞ」


内野の中には色々な考えが入り混じっていた。


もしかすると、さっきやられた人達の中に新島達の誰かがいたかもしれない。もう自分達以外の生き残りがいないのではないか。

あいつもスライムの様に、遠くにいる者の場所が分かり、俺達の所に向かってきてるのではないか。


う…一人で考えていると、悪い考えしか浮かんでこない。頼む、皆生きててくれ…


内野がそう難儀していると、進上が急に声を上げる。


「あ、だ、誰か走ってきてる!」


!?

進上の指差す方向を見ると、そこにはいくつかの人影が見える。最低でも5人以上いそうであった


彼らはピンポイントでこちらに向かって来ており、しかも岩に隠れてる内野達に手すら振っていた。


そして手を振ってる先頭の者をよく見ると、頭にのみ兜を被っていた。


「工藤!?」

「く、工藤さん!?」


内野と進上が同時に声を上げる。

さっきまで悪い考えばかり浮かんできていた内野にとって、仲間が、工藤が生きていたのは何より嬉しい事であった。

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