第47話 討伐対象:フレイムリザード5

大橋の制止により落ち着きを取り戻した二人であったが、険悪なムードは無くならない。



「木村君…さっきは遠くから攻撃することしかできなくて…ごめんなさい…」


そんな時、木村の近くにいた弓を持った人がそう言う。

内野と同じ年くらいの女の人で、黒髪ロングにメガネで真面目そうな見た目をしている。


この人が木村君を助ける為にフレイムリザードに攻撃し続けた人か。彼女のお陰で木村君が死なずに済んだ訳だし感謝しかないな。


「私も君を置いて逃げてしまい…本当に申し訳ない…」


それに続き、恐らく新規プレイヤーであろう中年の男も頭を下げる。


「いえ、あなたはさっき僕を助けようしてくれたらので大丈夫ですよ。それに新規プレイヤーの人が逃げちゃうのも分かります。

でも…戦う前にあれだけ大口叩いてた人達が逃げると思いませんでしたよ。さっき何て言ってましたっけ?『二回目の奴が指図するな』『足引っ張るなよ』でしたっけ?」


木村が静かにそう言うと、新規プレイヤーでもないのにも逃げた3人はばつが悪そうな顔をする。


あ、思った以上に木村君キレてる…これは迂闊に声かけれないな…


どう声を掛ければ良いのか分からず悩んでいると、先程木村に謝罪した弓を持った人が俺達3人に小声でお礼を言ってきた。


「あの…先ほどはありがとうございました。私の名前は泉 真衣。クエストはまだ6回目で新人です」


「いえ、こちらこそ僕の知人を助けてくれてありがとうございます」


この人は木村君を最後まで助けようとしてくれたし俺も感謝してる。



「内野、進上、こっちに来てくれ」


腕を組みながらこの後どうするか考えていた大橋が二人を呼ぶ。


「色々考えてみたのだが、彼らを全員連れて行こうと思う。俺達の動きやすさを考えると本当は置いていく方が良いのだがな」


大橋のその言葉で、木村を置いて行かなくて済むと安心した内野は喜ぶ。


「ほ、本当ですか!?」


「ただし2つ条件がある。


1つは、フレイムリザードなどの手強い魔物の討伐をするのはこの3人のみというものだ。俺達が戦っている間は6人には離れていてもらう。無駄に戦えない者を前に出しても、かえって足手まといになるし俺達も危ないからな。


2つ目は、目の前の魔物の討伐を最優先にする事。仮に俺達が戦っている最中に、後ろにいる者達が他の魔物に襲われていたとしよう。そんな時でも目の前の魔物に集中するんだ。もしも3人の誰か1人でも助けに行こうとすれば、他の2人が危険な目に合う。

以前もこれと同じ様な事があってな…悲惨な結果になったんだ。だから絶対に守ってくれ」


大橋の出した条件を吞み込み、内野は首を縦に振る。


「分かりました」


「…」


だが内野の隣にいる進上は一切反応していなかった。それどころか大橋の方を見ておらず、横を向いてどこか遠くを見ていた。


それに疑問に思い、肩を叩いて声を掛けてみる。


「進上さん?今の話聞いてました?」


「あ…ごめんなさい。

ちょっと向こう側で何か光った気がしてそっちを見てました。晴れているのにまるでみたいな光り方でしたので、ついつい不思議でそちらを…」


ッ!?


雷という言葉を聞き、一気に内野の顔は青ざめる。


雷…あいつか?黒狼が近くにいるのか?

もしも黒狼なら見つかれば終わり…きっと奴に太刀打ち出来るのはローブの男…梅垣さんだけだ!早くここを離れよう!


そんな内野を心配して進上が話しかけてくる。


「内野君どうしたの?」


「いえ、雷が苦手なので少し動揺しただけです。

ただ雷みたいな光って事はフレイムリザードではないでしょうし、もしかすると他のプレイヤーのスキルかもしれません。

あっちにプレイヤーがいるなら、僕らは逆の方向に行った方が良いかもしれませんね。早くクエストを終わらせるためにも、フレイムリザードの探索が出来てないこっちに行きましょう」


内野は動揺した理由を誤魔化し、適当な理由を並べて雷があった逆方向に行くよう誘導する。


「雷が怖いって、以外に内野君にもかわいい所あるんだね」


「ははは、そんな雷が嫌ならこっちに行くのはやめておこう」


進上と大橋は少し微笑みながらそう言う。当の内野もうまく誘導出来た事に胸をなでおろす。


さっき大橋が内野達に言った条件を残りの6人に伝え、6人はそれを承諾。怪我を負っている木村を大橋がおんぶし、合計9人で行動を始めた。



歩きながら自分のステータスを確認すると、レベルが上がりSPは12になっていた。


そういえば一回も『バリア』のスキル使ってないな…lv,3に上げたのは良いが、一回でMP40も使うから迂闊に使えないんだよな。

lv,1の方がMP消費少なかったし上げない方が良かったかも…もう引き返せないのか?


「大橋さん、スキルについて聞きたい事があるのですが」


「おう、何でも聞いてくれ」


木村を背負いながら歩いている大橋にスキルについて尋ねる。



結論から言えば、一度上げたスキルレベルを戻すのは無理らしい。だが大橋さん曰く、無詠唱でのスキル発動は使用回数よりも消費MPの方が重要という可能性もあるらしい。 


例えば大橋さんの『サンドウォール』は元々近くに砂の壁を出すだけで、ドーム状にすることなど出来なかったらしい。

何回も『サンドウォール』を使う事で無詠唱でも使用出来る様になったらしいが、形を変えたりするのは出来なかった。

だがスキルのレベルを上げてMP消費量が増えてからはかなり自由に使えるようになり、形・数・強度なども変えられるようになったという。


「スキル名を言う場合はあまり融通が利かないが、無詠唱の場合は自分のイメージ通りになる。だからこれが出来る様になれば戦略の幅も広がるぞ」


なるほど…なら俺の『バリア』の場合、一回で多数のバリアを他の人に掛けられる様になるのかもしれない。

ゴーレムの核はこのバリアを張り工藤と新島の攻撃を防いだが、あれを味方一斉に付けれるのなら練習する価値は十分にありそうだ。


「今使えるスキルが『バリア』しかないですし、当分の間はこのスキルを極める事にします」


内野がそう言うと、大橋におんぶされてる木村が後ろを振り返り内野の方を見る。


「あ、てっきり内野先輩が先程出していたあの大きな腕もスキルなのかと思っていました。内野先輩、さっきのゴツゴツした大きい腕何だったんですか?」


「新しい武器だよ。前のクエストのゴーレムの腕」


すると木村は驚愕したような顔をする。


「え!?ゴーレムから剥ぎ取ったんですか!?結構えげつない事しますね!」


おっと、そんな勘違いされてたまるか。


と言っても…ここで木村君にターゲットのアイテムの存在を教えても良いものなのか?

今は後ろの方に残りの5人もいるし、少なくともここでは話せないな。


「…うん。戦利品として腕を頂いた」


「凄い…倒した魔物から使える物を奪うなんて思いつきませんでした!

僕も先輩みたいになれるよう頑張ります!」


尊敬の眼差しで見つめてくる木村に対して、内野は目を逸らす。


あ、ヤバイ、罪悪感が…


本当のことを知っている進上と大橋も内野と同じ様に申し訳なさげな表情をし、この会話を聞いていた残りの5人の内野を見る目が変わっていた。


恐らくあまり良くない方に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る