第46話 討伐対象:フレイムリザード4

鳥の魔物は内野を目掛け急降下していた。


内野が木村の声に通りに上を見上げた時には、既に鳥は内野の目と鼻の先ぐらいの所まで来ていた。

咄嗟にゴーレムの腕でガードしようとするが間に合わない。


すると内野は、何者かに後ろに引っ張られて転倒する。内野を引っ張ったのは進上であった。


進上は内野の後ろの襟を掴んで引っ張ると同時に剣を構え、接近してくる鳥に向かいスキルを使う。


「一閃!」


進上の剣は鳥の左翼を切断し、バランスを崩した魔物は地面を転がる。そして転がった先にいた大橋が魔物を踏み付けながら殴る。

大橋の拳数発で魔物は絶命した。


「し、進上さん…ありがとうございます…助かりました」


「大丈夫?怪我は無い?」


突然の事に驚いていたので内野は少し声が震えていた。そして進上は手を伸ばし、内野を立ち上がらせる。


完全に油断してた…進上さんがいなかったら確実に攻撃を喰らってたぞ…




「内野先輩!また助けに来てくれたんですね!」


振り向くとそこには木村がいた。

元気そうな声とは裏腹に木村の身体はボロボロになっていた。盾を付けていたと思われる右腕は皮膚が焼けただれており、ボロボロの服には大量の血痕がついている。


「木村君!その怪我は大丈夫なの!?」


「大丈夫…では無いですね。麻痺してるのか今は全く右腕の感覚がありません。

でも先輩達がいなかったら今頃全身火だるまになってましたよ…あの人みたいに…」


木村は後ろを向いて、少し離れたところを指差す。


そこには性別が分からないぐらい真っ黒焦げになっている死体と、首が無くなってる死体があった。


うっ、やっぱりまだ人の死体は慣れないな…

でも木村君を助けられて本当によかった。



木村君以外の5人の内、1人は新規プレイヤーだった。あの死体を見てしまったからか、取り乱している。

残りの4人は普通のプレイヤーだが、何故かその内の3人は俯いていた。それに木村君もムスッとしていて空気があまり良くない。怪我のせいでかと思ったがどうやら違うらしい。


休憩中に木村君に話を聞く事にした。


===============================

最初にフレイムリザードに会う前は8人で集まっていた。新規プレイヤー2人と木村とその他のプレイヤー。

その集まっている所をフレイムリザードに発見され、こっちに向かって来るのでそのフレイムリザードを迎え撃つ事となる。


木村ともう一人が盾で炎をガードし、その隙に残ったメンバーで総攻撃する為に接近する。


弓を使える人が一人しかいなかったので、新規プレイヤー含めた残り5人は接近して攻撃。何発か攻撃を与えたらしいが、トカゲが尻尾を振るった瞬間、プレイヤーの一人が首をはねられた。


その者はグループの中でも一番強かった者で、彼が死んだ事により皆パニックになった。

そしてなんと木村と矢を打っていた人以外が後ろに引いてしまい、二人も退かざる得なくなった。


二人は少し敏捷性を上げていたので逃げていった新規プレイヤーの一人に追い付けた。幸いフレイムリザードの素早さはそこまで早くなかったので逃げきれそうであった。

だが逃げてる時に新規プレイヤーの1人は転んでしまい、フレイムリザードの炎により火だるまになる。



火だるまになった新規プレイヤーを諦め前にいる人達に追い付こうと走っていると、今度は逃げた4人が前方で鳥の魔物に襲われていた。

そして後ろからはフレイムリザードが追いかけてきている。

6人は2匹の魔物に挟まれてしまった。


鳥は弓を持った人が来た事に気が付くと、矢がほとんど当たらない高度まで逃げる。

鳥には遠距離攻撃手段は無さそうだったので、ひとまずはフレイムリザードのみに対処すれば良くなり、木村はフレイムリザードの前に出る。

=============================


「それで僕がフレイムリザードの攻撃を受けている所に、先輩達が助けに来てくれたんです」


そうか…木村君と弓の人以外は敵前逃亡したという事か。

逃げたいという気持ちは分からなくはないから俺は何も言えないが…取り残された大木村君はたまったもんじゃないよな。

どうりでさっきから木村君の機嫌が悪い訳だ。


「あ、先輩に怒ってる訳じゃないですよ!

ただ、さっきまで仲間だと思って人に裏切られるなんて思ってなくて…」


そう言いながら木村は俯くプレイヤーの方を睨む。すると3人の内の1人が声を上げた。


「じゃあどうすりゃあ良かったんだ!?

俺の攻撃は一切通用しなかったんだぞ?そんな相手と戦っても意味無いだろ!」


声を上げたのは進上と同じ年ぐらいの青年だった。仕舞っているのか武器は持っておらず、これといった特徴は無い男。

その男に木村は言い返す。


「だからって僕一人を置いて逃げる事は無いでしょ!

誰一人見捨てずに済む方法とかを考えたりせず、一目散に味方を置いて逃げるなんて有り得ない!」


「誰しもがお前のような考えを持ってると思うなよ!

俺からしたら先ずは自分の事を第一に考えるのが当然だし、誰かのためにあの場に残るなんて考え浮かんでこねぇからな!」


両者が激しく言い攻め合い、場の空気は最悪になる。


空気がギスギスしてる…こういう時どうすればいいんだ…


内野がどうすればよいのか分からず頭を悩ませていると、大橋が二人の間に入る。


「二人共、一旦落ち着くんだ」


大橋に止められ、ヒートアップしていた二人は落ち着きを取り戻す。


「魔物から逃げたい気持ちも分かるし、裏切られたのが許せない気持ちも分かる。だからこれに関しては俺は何も言わんし、二人で勝手にやればいいさ。だがそれは今やるべき事では無い。

今はこれからどうするかのか決めねばならない。具体的に言えば、誰をここに置いていくかどうかだ」


大橋さんは6人の顔をそれぞれ見ながら言う。


置いていくって…もしかして木村君達をここに置いていくつもりなのか!?


「大橋さん、流石に怪我人を置いていくのは…」


内野と同じ事を思った進上は大橋に尋ねるが、最後まで言い終わる前に大橋は話しだす。


「怪我人だから置いて行くんだ。

その盾を持った彼に、魔物に立ち向かえる勇敢さがあるのは今の話から分かった。万全な状態ならば是非とも俺達と来てもらいたかったが、その怪我では無理だ。ヒールでもしてもらわないと戦えない。

そして逃げたそこの4人は、共に戦うのには不安が大きいから無理だ。とてもじゃないが俺の命は預けられない。

残るとそこの弓の者だが…もし彼女がここにいなくなったら、今度はこっちの戦力に不安が残る」


大橋は冷静に分析した結果を話す。


すごい…まだあまり休憩時間経ってないのにここまで考えていたのか。これが経験の差ってやつ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る