第40話 隠し事

「内野先輩ー!」

「内野さん!」


4人で話していると、何者かが内野の名前を呼ぶ。振り向くとそこには木村と井上がいた。

木村は学校のジャージを着て、運動靴を履いている。井上も同じ様な格好をしており、二人共登山に向かうのかと思う程大きな鞄を背負っていた。


「おお、木村君に井上さん!その大きな鞄はどうしたの?」


「あ、この中には食糧・水・包帯・トランプとか入ってます!多分新規プレイヤーの人の中にはお腹が空いてたり、喉が渇いてる人とかもいると思うので今の内に配ろうかと!」


木村はそう答えながら鞄を降ろし、内野達に鞄の中身を見せる。


凄!めちゃくちゃ色んな物が入ってるじゃん!

俺が二回目の時はそんな事考えず寝てたというのに…いや、今回もそうなんだけど…

木村君は少しでも多くの人が助かるように事前に準備をしていたのか。そういえば俺も初回は腹減りながら走ったもんだ。


「二人共凄いな…まだ二回目なのにそれだけ新規プレイヤーの事を考えられるなんて」


「木村君と連絡を取り合って、自分達に出来る事を考えたんです。戦闘面ではまだお役に立てそうじゃないですが、こういった事なら僕らでも役に立てると思ったんです」


照れながら井上はそう言う。


井上さんは相変わらず年下の俺にも敬語を使っている真面目な人だし、木村君は明るくて元気な子だ。進上さんと工藤にも紹介しよう。


取り敢えず内野がお互いに紹介し、軽く挨拶をさせる。

やはり木村と井上の二人共、ポニーテールの綺麗な女性が新島だと気が付いていなかった。


正直俺も新島が目につきやすい所にいなかったら気が付かなかったな。



少しの間話していると、またしても広場がざわめく。だがスライムの時の様な事にはなっていない。


あ、クエストが出たんだな。少なくとも、そこまで難しいクエストではなさそうだ。


「じゃ、どうせならみんなで一緒に行こうか」


内野達は6人でクエストボードの所へ向かう




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討伐対象:フレイムリザード10体

制限時間:4時間


プレイヤー人数:104人

プレイヤー平均レベル:16

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「フレイムリザード…?」

「知ってる?」

「この中にこの敵を知ってる人います?」

「俺今回14回目だが知らないな」


14回目の人も知らないのか、となると今回16回目の松平さんも知らなさそうだな。

そうするとこいつのスキルとか何も分からないまま戦うことになるのか、流石に緊張してくるな…


「あれ、いつもみたいに相手のレベルの表記が無いね」


新島にそう言われ、内野もその事に気が付く


本当だ。てかなんか『10体』って表記があるし、ターゲットが数体いるからレベルの表示が無いのか。

てかターゲットが10体って…個々の強さによっては洒落にならなくないか?


「フレイムって事は火を使いそうね、だったら…」


工藤はステータスボードを開き、指で何かをいじる。


「よし!SP9使って『アイスLv,3』にしたわ!」


相手が炎の技を使いそうだから氷を強くしたと。でも氷だったら攻撃する前に溶けたりしない?


「氷は溶けたら水になるもの!きっと効果抜群よ!」


「そんなゲームのタイプ相性みたいに単純ですかね?」


「分からないけど、このお陰で新しいスキルも手に入ったから大丈夫よ。名前は『ブリザード』だし、めっちゃ強そうな名前だわ!」


進上さんに突っ込まれるが、新しいスキルを手に入れた工藤はそんな心配一切していない。


てかやっぱりスキルレベルを3に上げたら新しいスキルを取得できたのか…

強欲スキルをあまり使えない俺にとって、ステータス上昇値1と新スキルが手に入らないのは致命的だ。さては知らない内に何か呪いみたいなものでも受けたのか?

昨日この事を松平さんに聞くの忘れてたな…



数分後に松平は部屋から出て来る。今回のクエストを確認するが、やはり今回のターゲットは知らない魔物らしい。

因みに複数ターゲットのクエストは稀にあるそうで、その時は相手のレベルが出ないのでどれ程の強さなのかは分からないそうだ。


クエストについてはこれ以上話しても分かることは無さそうなので、内野は自分のステータス上昇値の事を説明する。


「そんな話聞いた事が…前例が無いのでどうすれば良いのか私にも…」


申し訳なさそうに言う松平の前で項垂れる内野。


「で、でも君には『強欲』っていう凄いスキルがあるよね!少なくともSPでスキルのレベルを上げられたのなら、スキル自体は魔物から奪えるし…」


「いえ…実はこのスキルももう使えないかもしれないんです…」


『強欲』使用後に気絶した事などを説明すると、この事が初耳の進上や木村も項垂れる内野を心配そうに見ていた。


いや、今は項垂れている場合じゃないな。他に強くなる方法があるか聞こう!


気を取り直し、内野のこの状態でも強くなる方法があるのか松平に尋ねる。


「思いつく限り…方法は4つ。

1つ目はショップにあるガチャでスキルを手に入れる事。QP50と高いけどこれなら内野さんも新しくスキルが手に入る…はず。

2つ目は無詠唱でのスキル発動を出来る様にする。これは以前にも話したね。直ぐに習得するのは難しいだろうけど、これが出来れば戦いの幅が広がるよ。

3つ目は現世の方でも武器の訓練する。他の武器ではどうすればいいのか分からないんだけど、山の中で走りながら弓を使う練習をしてたら出来る様になったんだ。以前よりもスムーズに弓を引けるようになったし、この訓練はかなり役に立ったよ。

4つ目はしっかり装備を買う事。鎧もだけど、やっぱり一番大切なのは武器。攻撃は最大の防御ってやつね。一撃で魔物を行動不能に出来るかどうかって、戦いにおいてかなり重要だよ。それに武器によって向き不向きがあるから、自分に合ったものを使おう」


お、以外にあるな。これだけ聞くと割と何とかなりそうな気がしてきたぞ!

今はQPが36あるし50まではもうすぐだ。今持っている『バリア』とガチャで手に入れたスキルの無詠唱が出来る様になるのを目標にするのも良いな。

それに現世での訓練もしてみよう。進上さんみたいに『剣術』スキルもないし、剣の扱いに慣れておこう。


「そうだ。QPで買える武器って増えるの?私はまだ鉄の武器しか買えないけど、松平の持ってる弓って木製よね」


工藤は松平の持っている弓を指差しながらそう言う。


「武器の事で私も気になってた事があります。鉄の武器の説明文にある杖ってどんな武器なんですか?」


工藤に便乗し、新島も質問を投げかける。


「自分のレベルが上がると買える物も増えるよ。この弓も……そんな感じで手に入った物…だよ。


そ、それで杖っていうのはね、簡単に言えばスキルの効果が強化されるものなんだ。

ゲームだと武器によって使えるスキルが違うけど、ここではどんな武器でも持っているスキルが使えるんだよね。『一閃』なら何も持ってなくても魔力の刃みたいので攻撃出来たりするし。

杖は普段の戦闘じゃあまり使えないけど、スキル使用時は予想以上の効果を発揮してくれるよ。ただ、杖を使うのは他のメイン武器を使えるようになってからにしようね」


自分の弓についての説明から直ぐに杖の話になったが、何故だか弓の話の時だけ少し言葉が詰まっていた。


「なんで弓の説明のと…」


「レベルが上がると買える物も増えるし、ショップでQPをお金とかに交換しないで、クエストに使えるものだけ買う様にしよう!」


松平の弓の説明に違和感を覚えた進上が聞こうとすると、松平はそれをかき消すように声を被せる。


…もしかして何か隠してる?

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