第39話 三回目のロビー

「…またやっちゃいました」


「今はそれぐらいリラックスしてた方がいいと思うよ。

だって今回はリー…ってあ、ごめん!やっぱり何でもない!」


内野は何かを言いかけた川柳に疑問を抱いていたが、それよりも確かめたい事があった。


川柳は内野に手を差し伸べ、内野はその手を取り立ち上がる。そしてすかさず辺りを見回す。


飯田さんは何処にいるんだ?彼が生きているかどうか確認しないと!


「誰か探してるの?」


「…あ、いえ、ただ仲間と話したい事があるだけです」


「そうだ、確か君が前回のクエストのゴーレムを倒したんだよね!その仲間に会いに行くんだね。…大変だろうけど今回のクエストも頑張ろう」


川柳と内野は分かれ、それぞれ違う方向へと向かっていく。寝ていたせいで裸足だったので、前回新島から貰ったブレードシューズをインベントリから取り出して履く。貰い物だがやはりサイズはピッタリだ。


そして内野は飯田を探しに新規プレイヤーが現れる部屋の元へ向かう。すると扉の端で体育座りしている綺麗な女性が目に入る。


あの人は…もしかして…


「も、もしかして…新島?そこで何やってるの?」


「貴方が来るのをここで待ってた。結構見つけやすかったでしょ?」


「うん、めちゃ浮いてたから分かりやすかった」


新島は髪をしっかり後ろで止めてポニーテールにし、今までの様にパジャマみたいな服でもなく、外でランニングする時に着るような動きやすい服装だった。


今までは髪が邪魔で、身なりも微妙だったから気がつかなかったが…かなり美人だな。それにもう最初の時の様に弱々しい声でもないし、引きこもりだとは思えない。


「この数日で何があったの?」


「あなたの事を体を張って助けられて、自分に自信がついた」


「…その節は本当にありがとうございます」


どうやらあれで自信がついた様だ。

いや、本人が良いなら構わないけど…俺は目の前で下半身が無くなってる新島を見ちゃったからな…


「ってそうだ、飯田さんが生きてるか分かる?もうこの部屋の中入ってるの?」


「まだ見てないけど…少なくとも飯田さんはその部屋に入ってないから何となく察しは…あ、前の方見て」


新島が指差すのでそっちを見る。するとクエストの詳細が出る所辺りに数人立っていた。中には松平や川柳がおり、松平は伊達メガネを外していた。


「皆さん!重要なお知らせがあります!」


松平がそう声を張り上げると、広場は静まり返って前に注目が集まる。内野と新島は松平の声が少し震えている事に気が付き、彼女が何を話そうとしているのか何となく分かった。


「実は…か、隠していましたが……前回のクエストで飯田さんが死亡しました…」


「ッ!」


会場がざわめき、さっきまでの静けさは簡単に無くなる。

人によって反応は様々で、うなだれる者、涙を流す者、頭を抱える人が多かった。だが、中には飯田の死を聞いても何の反応もしない者もいた。


「…あの人ってリーダーみたいな事やってた?」

「新規プレイヤーへの説明係みたいなものだろ。俺も一応ここのルールはあの人に教わったけど」

「別にあの人が今更いなくなっても、誰かが代わりに説明係になればよくね?」


内野の近くにはそんな事を言う人までいた。


「…ランダムに転移するせいで、人によってはクエスト中に一回も飯田さんのお世話になってない人もいるだろうし、こういう人がいるのは仕方ないのかな…聞いてて気分は悪いけど」


新島が内野だけに聞こえる様に小さく言う。


俺も同感、正直聞いてて胸糞悪い。



「隠していたのはごめんなさい。

でも…最初のスライムの時の様に、リーダーを失った不安とクエストの恐怖から自殺する者を出さないためにはこうするしかなかったんです。

リーダはいなくなって不安な人は沢山いるかと思いますが、それでも戦いましょう。

皆さんも強くなりましたし…きっともうリーダーがいなくても大丈夫です。私達は一人じゃありません、周りにはこんなに大勢の仲間がいます。なので心を強く持って戦い、皆で生き残りましょう!」


松平の激励のお陰で、飯田の死に動揺している者は何とか立ち直れた様だった。だが辺りのざわめきは収まらず、口々に不安を溢す者も少なくなかった。


最初のスライムの時って、たしか俺の初クエストの時に飯田さんが言っていたやつか。

その時は自殺する者までいたのか…それで松平さんは、現実世界の方で自殺する者がでないように飯田さんが死んだ事をこの時まで黙っていたと。


その後松平は新規プレイヤー達の居る部屋へと向かう。部屋の外に微かに声が漏れてくるが、クエストの事を説明している様だった。


「大変そうだな…俺達も何か手伝える事がないか聞いてみるか?」


「だね、取り敢えず松平さんが部屋から出てきたら聞いてみ……あ、あの二人って…」


新島は誰かを見つけた様で、視線の先には辺りを見回す工藤と進上が居た。内野が手を振ると、こちらに気が付き近づいてくる。


「よっ内野」

「久しぶりです内野さん」


友達のノリで軽く挨拶する工藤と、年下の内野に対しても丁寧に挨拶する進上。

進上は前回同様にジャージで、工藤は動きやすそうな半袖半ズボンの服を着ていた。そして二人共鞄を背負っており、準備は万端そうだった。


「…二人共しっかり準備してきたんですね」


「勿論よ」

「水、食料、あと懐中電灯や色々入ってますよ。そういう内野さんは…手ぶらですか?」


「そ、そう…寝てたせいで…何の準備も…」


あぅ…俺だけ手ぶらで恥ずかしいな…

あ!いや、手ぶらなのは俺だけじゃない!新島も鞄を持って来てないぞ!


「で、でも新島も鞄持って来てないし、案外そう言う人もいるかも…」


「鞄は持って来て無いけど、水ぐらいは持ってきたよ」


体育座りしていたので気が付かなかったが、新島はペットボトルを太股の上に置いてあった。


それじゃあ何も持ってきてないのは俺だけか…


工藤にいじられると思ったが、二人は何故か新島の方を見つめていた。


「…?二人して私を見つめてどうしたの?」


「え、あんた新島なの!?」

「新島さん…凄い雰囲気変わりましたね!」


あ、二人とも新島の変わりっぷりに驚いてたのか。

やっぱそうだよなー、前までの引きこもりオーラ全開の雰囲気とは真逆だし。


「そういえば三人とも前回のターゲット倒したんでしたよね。僕なんかただ辺りにいる弱い魔物を倒していただけなので凄いですよ!」



話を聞くと、どうやら前回のクエストで進上さんは洞窟の外からの始まったらしい。

しばらく一人で行動し、発煙筒が見えたことで合流できたそうだ。


いや、普通の魔物を倒してただけでランキングに載れた進上さんも十分凄いと思う。きっと相当な数の魔物を倒したんだろうな。


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