第38話 居眠り注意

「てめぇ…やっと見つけたぞ!」


目が合う瞬間ヤンキーは殴りかかってきたので、内野はそれを躱して距離を置く。


まさかこんな所でコイツと遭遇するなんて…運悪すぎ。

って、いや待てよ…ひょっとしてかなり運が良いんじゃないか?


確か真子ちゃんは、いじめっ子の主犯格に怖い兄貴がいるから誰も何も言えない、と言っていた。

いじめっ子の一人がコイツの事をお兄ちゃんと言っていたし、もしかするとこいつがその兄貴なのかもしれない。

なら…


「ブラック!逃げて!」


真子はそう言うと、内野の元へ駆けつけて来て、ヤンキーと内野の間で手を広げる。それはヤンキーから内野を守っている様だったが、身体は震えていた。


やっぱりこの子は勇敢なんだな…今までの俺よりもよっぽど…


「あ?何だこのガキ」


「何だしブラックってwww」

「やっぱヒーローごっこじゃん」

「お兄ちゃん、そいつが私の言ってたヒーロー気取りの奴よ」


「なるほどな。

で、コイツと内野の関係は何だ?もしかして兄弟だったのか?」


ヤンキーはそう言うと真子を睨む。

睨まれた真子は身体がビクッとするが、内野の前から退かない。


「いや、名字違うから有り得ない」


「じゃあ内野は見知らぬ小学生とヒーローごっこしていたって訳か。気持ち悪ぃな。

でも、一人はヒーロー気取ってイジメられ、一人は不良軍団に狙われて逃げる陰キャ。惨めな二人同士お似合いじゃねぇか」


…真子ちゃんが惨め?

少し変わった子ではあるけど、たった一人でも年上に立ち向かえる精神を持っている子が惨めだと?


「…真子ちゃん、俺は大丈夫だから下がって」


「え、でも私のせいで…」


「元々コイツに狙われていたから、別に君のせいじゃないよ」


内野を巻き込んでしまった事を気に病んでいる真子を落ち着かせ、後ろに下がらせる。


「ほら、その惨めな陰キャとタイマン出来るんだぞ。来いよ」


工藤を助ける時もそうだが、一般人に手を出すのは気が引けた。今も俺だけの問題なら喧嘩を避けていただろう。

だけど…今はこの子もいる。ここで逃げたら真子ちゃんはもっと酷いイジメにあうかもしれない。

なら…何だってやってやる。


「言うじゃねぇか。てめぇなんぞ俺一人で病院送りに出来るんだからな」


「おっ、通院の手伝いをしてくれるなんて結構優しいんだな。今度病院行く時の付き添いは任せるよ」


「…ッ!」


内野の挑発にキレたヤンキーは先程と同じ様に殴りかかってくる。

今度はそれを躱さず、相手の拳を右手で掴む。


「なっ!離せ!」


ヤンキーはもう片方の拳も振りかざすが、拳を握り潰す様に力を少し入れると、膝から崩れて這いつくばる。


「ッ!い…痛ぇな!」


ヤンキーは暴れるが手は決して離さない。

しばらくすると徐々に顔が赤くなっていき、とうとう暴れる事が出来なくなる。


「お、お兄ちゃん!」

「ゆ…由香のお兄ちゃんが負けてる…」

「そんな…」


遠くで見ていたいじめっ子3人が驚きの声を上げて固まる。


「ブラッk…お兄ちゃんって…凄い強かったの…!?」


真子も驚いて固まるが、3人とは対照的に顔は明るくなっていた。




「ご……ごめんな…さい」


真子と内野の前には、手を抱えるヤンキーといじめっ子3人が並んでおり、ヤンキーが頭を下げて謝る。


「それじゃあ…今度は君ら3人で真子ちゃんに謝るんだ」


「…っ!嫌よ!何で真子なんかに…」


「あ…謝るんだ…」


いじめっ子の主犯格は謝るのを嫌がるが、その兄貴のヤンキーが謝る様に促す。


「っち、ごめんなさい…」

「…ごめんなさい」

「い、今までごめん…」


3人は真子に頭を下げて謝る。主犯の子は納得いってないような顔だったが、他の二人は真剣な表情だった。


「…これ以上イジメとか悪い事しないならもういいよ。もう向こう行って」


「真子ちゃんがこれで3人を許すなら、俺は口を出さない。大人しく帰れ。

あとヤンキー、俺に絡まない様に仲間に伝えておけよ。次は小西みたいに鼻折るからな」


真子と内野のその言葉で4人は公園を出て帰っていった。




これでイジメが無くなるかどうか分からないけど、兄貴をあれだけボロボロにされるのを見たらもう威張れないだろうし大丈夫か。


「お兄ちゃん…ありがとう」


「どういたしまして。これでイジメが解決すればいいね」


肩の荷が下りて安心したからか、さっきのブラック呼びでは無くなっていた。


「本当は私の問題に巻き込んじゃって…お兄ちゃんに嫌われないか心配だったんだ…

でも…私の事を助けてくれたのは本当のヒーローみたいでカッコ良かったよ!

今度はお兄ちゃんが困っている時に私が助ける!それがヒーローだからね!」


「ふふ、頼りにしてるよ」


真子はこれまでにない笑顔を見せる。

これを見て、ヤンキーをボコった甲斐があったと思う内野であった。


後はイジメが無くなれば良いのだが…それは真子ちゃんの周り次第か。今の俺に出来ることは無いな。


「そうだ!私の名前は藤原 真子、お兄ちゃんの名前も教えて」


「俺は内野 勇太って言うんだ」


「これからよろしくねブラック!」


「あ、結局名前じゃ呼んでくれないのね」





「で、その後それを貰ったのか」


先週みたいに松野と昼飯を食べながら、色々と朝起きた事を話す内野。

女の子にお礼を言われ後、テレビでやってるヒーローの変身グッズを貰ったのだ。

その後登校し、ヤンキーの包囲網を抜けて学校にたどり着いた。やはり学校では佐竹と山田ぐらいしか話してくれなかったが、大方いつも通りの学校生活であった。


「うん。なんか俺がブラックだから黒いやつくれた」


「なるほどな。てか…その子のランドセルにそれが入っていたことが一番の驚きだわ」


「そうか?俺なんか小学生の頃は変身ベルト身に着けていってたぞ」


「…もしかしてその子がイジメられてるのも、お前がボッチなのもそれと関係あったりする?」


「…それに関しては何も言えない」



その後もいつもの通り授業を受け、家へ帰りベッドで横になる。


俺が本物のヒーローに見えた…か。俺も昔は正義のヒーローに憧れてたから嬉しいな


ヒーローという耳障りが良い言葉を言われたのを思い出し、内野の頬が緩む。


工藤も真子ちゃんも助けられたし、仮面でも被って本物にヒーロー活動でもしてみるか…なんてな


まだ17時頃であったが、幸せな気分に浸りながら眠りにつく内野であった。





「ねえ、やっぱり君って神経図太いね」


「ッ!」


内野はおじさんの声と共に目を覚ます。


一度経験した事あるぞこの状況…またやっちゃった…


またしても内野が寝ている間にロビーに転移していた。

内野にとって三回目のクエストの開始だ。

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