第36話 不安
「あっ…でも一個問題がある」
「え?問題?」
「俺だけ何故かSPでステータスを上げようとすると、全部1しか上がらないんだ。
だから飯田さんみたいになる為に防御系のステータスを上げても、他の人に比べて強くなれない」
「…」
内野の言葉に工藤はきょとんとした顔をして固まる。
やっぱりこの現象って俺だけなのか…
「え、じゃああんたこの先どうするの?」
「…?
別にスキルのレベルは上げられるし、ステータスは強欲で補え……!?」
…マズイ。
今まではステータスが1しか上がらなくても『強欲』があるから問題視していなかった。
だが今は『強欲』を使えない状況だ…つまり…
「もしかして…俺相当ヤバイ状況にいる?」
「え、それ今まで気が付いてなかったの!?
あんた馬鹿なのか頭良いのか分からないわね…クエストの時はあれだけ頼りになりそうだったのに…」
何でこんな簡単な事に気がつかなかったんだ!?
クエストの時は何故か頭が回るのに…
「ま、いつか内野を超えて強くなったら、今度はあたしが守ってやるわよ。あの兜で何処にいても、あんたを見つけ出してやるわ」
「はは…その時は頼りにするよ。割とマジで」
松平さんに解決法が無いか聞かないとな…
その後、内野の中にはステータスに対する不安がありながらも、工藤と『小西殺し』の異名がついた理由とかを笑いながら話した。
「内野のお陰で元気に出たわ、ありがとう」
時間が経過し、二人がご飯を食べ終わったので解散する事になった。
「それなら良かった。てかさ、もし良かったら連絡先交換しない?」
「そうね。内野とはまだアドレスを交換してなかったし」
「え、『内野とはまだ』って事は…もしかして他の皆とは連絡できる状況なの?」
「前回のロビーであんたと別れた後、松平のメアドを教えてもらったのよ。本当はその場でメアドの交換したかったんだけど、転移するとスマホは無くなっちゃうから、クエスト終了後に教えてもらったメアドを打ったの」
「おっと…なんか俺の知らないルールが出てきたな」
どうやら前回のロビーで俺が皆と別れた後に説明を受けたらしく、そこで説明を受けた様だ。
工藤に詳しく話を聞きながら連絡先を交換する。
まず俺の知らなかったクエストのルールは2つ
・ロビーへ転移する時にスマホがなくなる事。
ロビーに電子機器を持ち込めないのかと思ったが、どうやら違うようで、スマホ・デジカメ・ボイスレコーダーなどは持ち込めなかったが、テレビのリモコン・ドライヤー・炊飯器は持ち込めたらしい。
持ち込めない物の共通点は、映像や音を保存できる機能があるものだった。
・クエストが終了し元の世界へ戻ると服や持ち物、全部転移前の状態に戻る事。
これにより、たとえロビーで連絡先を書いた紙をお互いに渡しても、クエストから帰ってきたらその紙はなくなるらしい。
次はプレイヤー間で決めたルールで、クエストについての連絡をする時の決め事を教えて貰った。
それは、クエスト関連の事を話す場合は必ず相手に許可を取ってからするというものだった。これは他の人にクエストの事を話してはいけないというルールが何処まで適応されるか分からないのであるものだ。
もしもスマホでクエストの話をしているメッセージを他の人に見られた場合、そのメッセージの送信者がペナルティを受けるかもしれない。
それを避けるため、前もってクエストに関することを送ると言い、連絡を受け取る側が周りに人が居ないのを確認する。連絡を受けた後はメッセージを削除し、もし勝手に他の人にスマホを覗かれても大丈夫な様にしておく。
このルールを守らないと、自分ではなく他の人に迷惑が掛かってしまう。必ず守らなけば。
「ちなみに私が連絡先を知ってるのは「新島」「進上」「松平」の四人だけね。後でその3人のアドレス送っておく。
あっ、それと…」
工藤がそう言いかけた所で、内野達の近くの席に他の人が座る。
「…昼飯時で人が多くなってきたな」
「そうね、これ以上ここで話すのは危険かも。でもこれだけは言わせて」
最後に何か言いたいことがあるようで、工藤は内野の耳元に口を寄せると
「地下での狼の事は進上や松平には話さないで」
そう呟いた。
「え、どうして?
というか…てっきりもう松平さん達に話してるのかと思ってたんだけど」
「私も知らないわ、だってこれ新島に言われた事なの。
『あそこでの出来事は誰にも話さない様にして。松平さんにはゴーレムの核を私達3人で壊したって事だけ伝える』って送られてきたから、それに従ったの。詳しい事は新島に聞いて」
「あ…うん。後で聞いておく」
あの狼の存在は皆に教えておくべきだと思うのだが、どうして隠そうとするんだ?
これは後で新島に聞く必要があるな
その後会計を済ませて店を出る
「じゃ、もう家に帰るわ。また次のクエストの時会いましょ」
「うん。また今度」
「あ…そうだ!一つだけ言い忘れてた事がある。
あの黒い狼を見た時、実は私も新島と同じで妙な懐かしさを感じたの」
「え、工藤もそうなの!?」
階段を降りきって黒狼を見た時、工藤がその場で固まって黒狼を見つめていたのってもしかしてそのせいだったのか。
突然の報告に内野は驚き、詳細を聞こうとする。
「新島と同じく何でかは全く分からないんだけど、とにかく…なんか知ってる気がするのよ。
一応これは新島にも話してるし、内野にも念の為言っておこうと思ってね」
「ああ…とりあえず分かった…」
「じゃ、今度こそバイバイ!」
店を出ると工藤がそう言い、内野とは別方向へと歩いて行く。
ファミレスに来た時は浮かない顔をしていたが、帰り際に見せた顔は笑顔だった。
色々考えなきゃならん事が増えたが、何はともあれ工藤が元気になってくれて良かった。学校の友達がいなくなって大変だろうけど、それは所詮ただのボッチだ。工藤なら気を強く持っていられるだろう。
新島が何を考えているのかは分からないが、とにかく生きているって事も知れてよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます