第34話 ヒーロー

今日は日曜日。

休日なのに内野は外に出る支度をしている。

タンスから外出用の服を出すのが面倒なので、傍にあった学校の鞄と制服で外へと行く。


実は今日、俺の大好きなゲームの続編が発売する!予約できたのが都会の方の少し遠い店舗だから開店と同時に買うなら朝早く出なきゃならない。

帰って来てから一日中プレイするのが楽しみだ



無事に店でゲームを買え、心弾み笑みがこぼれる内野だった。



無事に買えた~

数年待った続編だ、早く家に帰りプレイしなければ!


内野はゲームの事以外何も考えず、全速力で駅へと走る。

ステータスの恩恵を受けている内野の足の速さは傍から見れば凄まじいものだった。



「ちょ、やめてよ…」


信号待ちで止まっていると、そんな声がどこからか聞えた。


「お前最近何やってたんだよ」

「既読無視とかサイテーじゃない?」

「許してほしい?ならウチ来てよ」

「俺も混ぜろw」


音は路地裏の方からし、話を聞く限り誰かが絡まれている様子。

内野の他にも信号を待ちしている人はいたが、誰も路地裏の方に向かう気配は無い。


…早く帰りたいが、少し様子を見に行ってみよう。


「ごめんって…会えなかったのには理由があって…」


内野が声のする方へ近付くと、さっきよりも声が鮮明に聞こえる。そしてそれは内野が知っている声だった。


この声!俺の知ってる声だ!

多分声の主は…


大切なゲームが入った鞄を抱えながら内野は路地裏に入っていく。



そこには男が二人、女が三人いた。

男二人、女二人の四人グループが一人の女を囲んでいる。

全員髪を染めていて煙草も吸っている者もいたので、一目で彼らがヤンキーだと分かった。


その内の一人、ヤンキーグループに囲まれ座っている女は内野が知っている者だった。


「工藤!?」


「…え?う、内野!?」


工藤が数人に囲まれて泣きそうになっていたので、思わず名前を声を出してしまった。


「あ?何だこの中坊?」

「まさか工藤ちゃんが俺らの約束破ったのってコイツのせい?ww

いつの間にか俺らよりも良い男見つけてたんだww」


男2人がこちらに向かってくる。やはり背が低いからか年下だと思われている様だった。


お前ら、工藤と同じ年なら俺の方が年上だぞ。

でも二人とも身体が大きいし…傍から見れば俺が中坊にしか見えないのは分かるな。


「あの、そこで何をしてたんですか?女の子一人をそんなに囲んで」


「え?工藤ちゃんは俺らの友達だよ。そうだよね?」


一人の男が工藤にそう問いかける


「え…あ、ち、ちが「俺ら友達だよなぁ!」


もう一人の男が大きな声で工藤の言葉を遮る。


「いまあんた違うって言おうとした?」

「うわっ、工藤ってゴミじゃん」


煙草を吸っていた二人の女が冷たい口調でそう言う。

工藤はもう泣きだしそうになっており喋れて無かった。


「てかその制服…もしかして大平高校?お前高校生だったのかよ。

って事は小西と同じ学校だよね?

うちら小西とも面識あるかんね?お前の事チクってやろうか?」


大平高校は俺の通っている学校の名前だ。どうやら小西の事を知っているらしい、あいつってそんな有名なのか。


「彼氏か何なのか知らないけど、あんま俺ら怒らせると何するかわかんねぇよ?

だからさっさと消えろチビ」


「いや、流石にこの状況は見逃せない」


男にはそう言われるが一歩も引かない内野。


どういう経緯でこうなったのか知らんが、こんな状態の工藤を放ってはおけない。


「は?まだ分からないの?」

「こいつやっちまおうぜ」

「そのチビうぜえからぶっ飛ばしちゃってよ」

「岡田やっちゃってよ~」


女子からの声援で気を良くしたのか、男はファイティングポーズをとる。完全にやる気だ。


「俺ボクシングで大会出てるからよぉ、力加減間違えるとお前の骨砕いちゃうかも」


「加減なんて小学生の頃の俺でも出来たよ?」


「…!?この野郎!」


挑発にキレた男は内野の顔に向かって殴りかかる。

以前の内野なら確実に一発KOで負けていたが、今は片手に鞄を持ちながらでも普通に避けれる。

躱されたことに驚いた男は更に何発も打ってくるが全て避ける。


実はこいつらが小西の事を知っていると分かった時点で、ある作戦を考えていた。


「君達さ、最近大平高校で事故起きたの知ってる?」


「事件?あの小西があるやつのせいで搬送されたってやつのことか?」


「そう、なら『小西殺しの内野』って知らない?」


「勿論知って…ま、まさか」


男が一歩後ろに下がる。


「え…確かに工藤はこいつの事を『内野』って…」

「あ?たまたまだろ」

「でも岡田のパンチ避けてたし…」

「しかも鞄を抱えながら…」


やはり、正樹が言っていた通り、校外でも噂は流れているようだ。

工藤はそんな噂なんて知らないのかキョトンとしてる。


「そ、そんな噂がどうしたってんだよ!」


岡田という男はこの話を聞いても、相変わらず内野にパンチを打ち続ける。

途中からはもう蹴りや掴み掛かってきたりなどしてきて、最初に言っていたボクシングの経験とは関係無くなっていた。


「ほら!一発くらい反撃してみろよ!」


「こいつ避けてばっかじゃん」

「避けてばかりって…やっぱ雑魚なんじゃね?」

「おい!避けてないで戦えよ」


正直ステータスでドーピングと言うかズルの様な事をしてる俺が、普通の人を殴って怪我させたりするのは気が引ける。

でも本人の許可は取れた。よし、殴ろう。


内野は相手の拳を避けた後、左手にゲームソフトの入っている鞄を持ち、手加減の為に右腕で殴る。ちなみに内野は左利きだ。



バコッ!


鈍い音が響き、岡田は後ろに吹っ飛んでしゃがんでいた工藤以外の3人も巻き込まれる。


あの音はマズイかも…いくら利き手じゃないとはいえ流石に心配だ。顔殴ったからまた鼻が折れてるかも…

さっき「加減なんて小学生の頃の俺でも出来たよ」なんて彼に言ってしまったが、これじゃ俺も駄目じゃないか。



岡田の顔を見ると、案の定悲惨な事になっていた。

高かった鼻は折れて、前歯が無くなってる。それに吹っ飛ばされて頭を打ったのか全員が気絶している。


まずい、流石に前科が付くレベルの怪我だ!

ど、どうしよう…やっぱり顔殴るのはまずかったか…


「く、工藤…ヒール使ってくれないか?このままだと俺に前科が…」


「わ、分かった。ヒールを使うわ…」


工藤が立ち上がりそう言うと、4人に意識が無い事を確認してから岡田にヒールを使用した。

緑色の淡い光が岡田を包むと折れた鼻は治り、無くなった前歯が再生する。


やっぱヒールってすげぇ!

これで俺が捕まる事態にはならなさそうだしそう大丈夫だ。

後は工藤に一体何があったのか聞かないと。

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