第33話 悪者

今の皆は昔の俺と一緒で、巻き込まれたくないから見て見ぬふりをする。

触らぬ神に祟りなしとも言うし仕方ない。俺もクラスメイトを巻き込みたくは無いし、やっぱりいつも通り一人で…


「小西君の事で大変になっちゃったね。でも僕は内野君の味方だから!困ったら何でも言って!」


山田だけは内野に歩み寄り、微笑みながらそう言う。


なるほど…女子が山田ファンクラブを作る理由がよく分かった。


「勇太!」


騒がしい足音と共に、後ろからそんな声が聞こえてくる。振り返ると後ろには肩で息をしている正樹がいた。


「お前…無事なら電話出ろよぉ…」


「あっ、スマホを家に忘れたから出れなかった」


「校門でやばそうな奴らがお前探してたから電話掛けたが…一向に出ないから…一回お前の家に戻ったんだぞ…」


学校と家を往復したのか!?

正直こんな心配してくれると思ってなかったから嬉しいけど…それは悪いことをしたな…




昼休みまではいつも通りの学校生活と同じで、特に何事もなく時間が過ぎた。


昨日の事でクラスの何人かと仲良くなったつもりだけど…今日は誰も俺の方に来る人はいないか。

結局いつも通りって事か…


「おい内野、ちょっと面貸せ」


弁当を食べようとすると松野が話しかけてきた。松野は小西の取り巻きの一人で、あまり知らないが恐らくクラスで一番小西と仲が良い奴だ。

そして松野の後ろではヤンキー達がニヤニヤしてこっちはを見ている。


「ここじゃダメ?」


「ダメだ、校舎裏まで来い。長くなるし昼飯も持って来ても良いぜ」


クラスはすっかり静まり返っていた。ここに正樹や山田がいたら止めてくれてただろうが、正樹は他クラスで、山田は先生の手伝いに行ってる。

ヤンキー共を集めて、校舎裏で俺をボコボコにでもするつもりなのだろうか。


内野は弁当を持ちながら大人しく松野について行く事にした。



校舎裏に着くと、そこには誰もいなかった。

校舎裏と言えばヤンキーが集まってて、てっきり大人数に襲われるのかと思ったが…もしかして正々堂々ボコってやろうかと考えてるのか?


「ここで何をするつもり?タイマンでも…」


「ま、待て。別にお前とやり合おうなんて思ってない」


松野は両手を上に上げながら言う。


「いや、実は俺も小西にはウンザリしてたから、正直昨日のやつはスカッとしたんだ」


「え、ああ、そうなのんだ」


予想外の言葉だった。まさか小西と一番仲が良いと思ってた松野がそんな事を思っていたなんて。


「クラス替えしてから小西と同じクラスになったのだが、最初は媚び売って仲良くなったんだ。それで学校で話している内にどんどん仲良くなっていった。

でも…あいつ校外だといつもヤバイ人達とつるんでて、犯罪にも手を染めてたから俺怖くなってきたんだ。

それに俺っていつも小西の横にいるから、あいつの『オマケ』程度にしか見られてないっていうのが最近分かってさ…」


「え?誰に」


「クラスでいつもつるんでる奴だよ。コッソリ影口言われてるのを聞いちまって、それで何とかしようと思って行動したんだ。

実は昨日のドッチボールのズルを思いついたのは俺だ。山田に勝つ事が出来れば、あいつらの評価も上がるかと思って…」


いつもクラスでつるんでる奴に影口言われるなんて…友達付き合いって怖いな。

まぁ俺も昨日仲良くなったつもりの人に避けられてるようだし、朝の女の子も友達に見捨てられたと言っていた。

案外一部の友達以外そんなもんなのかもしれない。


「俺ってやっぱり弱いんだよ…身なりだけは一人前にヤンキーだけどな」


「…で、俺を呼び出したのって?」


「いや、ドッジボールで小西が負けてからクラスには居にくいし…裏に内野を呼び出してるってなったら俺の株も上がるかと思ってな…

あ、あと俺が呼び出すことで、お前があいつらに絡まれるのを助けてやれるし!」


こいつ、最後のは絶対に今思いついたことだろ


「あ、もしかして昼飯持ってこさせたのって」


「どうせなら一緒に食おうと思ってな」



思わぬ人物と一緒に飯を食べる事になったが、話してみると以外に気が合って楽しく飯を食べる事が出来た。


お互い好きなゲームが同じで話題は絶えず、時間はあっという間に過ぎていく。食べ終わる頃には松野とはすっかり仲良くなって、今はスマホが無いので連絡先を貰った。


どうやら小西の仲間とかが俺を探してるらしいので、今何処にヤンキー達がいるのかなどを出来る限り報告してくれるそうだ。



教室に戻るとクラスの皆に注目された。俺は自分の席に、松野はいつもつるんでる奴らの元に向かう。


山田からは心配そうな目で見られたが、俺の何処にも傷がないのを見て安心してる様子だった。




下校時間になり、いつも通り内野は正樹と二人で下校する。


「勇太、今日はなんもされなかったか?」


「うん、特になんも無かったし大丈夫」


「それなら良いのだが…。これからは朝練行くのやめて一緒に登校するか?」


「大会近いんだろ?それにそういうのは彼女にやってやれ。他校だから難しいとは思うが」


「そうか。でも『小西殺しの内野』の噂が校外でも流れてるし他校の奴にも気を付けろよ?」


心配してくれるのはありがたいと思うが、こいつにそこまでしてもらう訳にはいかない。

てか俺の心配は殆どいらないから、今は部活の大会に集中してもらいたい。


あっ…一つ聞いておきたい事がある。


「なぁ、中1の時に俺らのクラスでイジメあったじゃん。あれってどうやって解決したっけ?」


小学生の時から同じ学校で、中学だと中1の時だけ正樹と同じクラスだった。その時にクラスでイジメがあったから、あの女の子へのアドバイスの為にその時の事を聞いておきたい。


「え。何で今それを聞くんだ?まさかお前…」


「いや俺じゃなくて…」


今朝の女の子の話を正樹にし終わると、正樹は渋い顔をする。


「なるほど…その子はイジメられてるのか…」


「そう。それでどうやって解決したか分かれば、その子に助言もしやすいし」


「あれは………解決してない…って言うべきかもな」


「え」


「いじめられてた子が転校して終わっただけだ。

…あの時俺らは何もやらなかったが、今思うと酷い話だよな」


そうだ…まだあの時ってコイツも俺と同族だったんだ。

中学でサッカー部に入って成り上がった事により垢抜けた訳だが、それまでは俺と教室の隅っこで話していたな。

イジメがあったのは中1の1学期だったから、まだこの時は気が弱かったな。


「その女の子の言う通り、あの時の俺らは悪者だったかもな。いじめられていた子に恨まれていたとしてもおかしくない。

今もあの時の事を思い出して苦しんでいるかもしれないし…」


イジメられた人は一生苦しむ事になるかもしれない…

解決せずに終わってしまえば、一生過去と戦う事になるかもしれない…


あの子をそんな目に遭わせたくない。

自分も見て見ぬふりをした悪者だったから、あの子の友達とかを責める事が出来ないだろう。

だけどそれはあの子を助けない理由にはならない。

過去がどうだったとかで悩むより、やりたいようにやってやる。



その後佐竹と分かれ、内野は自宅の前に着いた。


あの子のイジメ、小西、クエスト。考える事が多いな。

あれ、でも何か一つ忘れてる様な…


自宅の前に着くと何か忘れているようなもどかしい気持ちになるが、結局分からなかったのでそのまま玄関のドアを開ける。


ガチャ


「ただいまー」


「彼女ってどんな子!?」


「家に連れてきなさい」



…そうだ、あんたらをどう捌くか考えてなかった

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