第32話 厄介者
「クラスにイジメがあるのに…皆がそれを見えないフリしてたんだ。
怖いお兄ちゃんがいるってだけでその子の命令に逆らえなくて…皆見て見ぬふりをしてたんだ。
いじめられてる子が助けを求めていても、誰も目を合せなかったの。
でも私はそんなの嫌だったからその子を助けたんだ。そしたら今度は私が…」
…それでイジメの標的になったのか。
「…私の事は誰も助けてくれなかったの。今まで友達だった子も…私が助けた子も…」
「先生にはその事言ったの?」
「言ったけど…「あの子がそんな事する訳ない!」って言われて話を聞いてくれなかった…
だから学校にいるのは皆悪者…悪いことを見ないフリをする悪者なんだ…」
話していると、次第に女の子はボロボロと涙を流し始めた。
その女の子の言葉と涙に内野は胸が痛くなる。
悪いことを見ないフリをする悪者…俺も今まではそうだった…
思い出したのは中学での記憶。
クラスメイトの一人がいじめられており、それに巻き込まれない様に視線を合わせず、ただ机に突っ伏して寝ている自分。
いじめられていた人から見れば俺も悪者だったんだ。
こんな俺が…クエストでは「誰かを助ける為」だとか言って行動してたのか…
いや、俺はもう変わったんだ。
この力のお陰だけど、これからは見て見ぬふりなんかしない。
俺がこの子の為に何ができるか分からないが、イジメを解決する為のアイデアは出せる。
例えば録音出来るものとかが家にあるなら、それを使ってイジメの証拠を手に入れるとか。
「俺に何か出来る事とかある?俺でのアイデアで良ければいくらでも…」
「じゃあ私の仲間になって!実は私みたいに学校に行きたくないって人を集めてたんだ!」
女の子は内野の言葉を遮り食い気味にそう言う。さっきまでは泣いていたが、今はもう治まっていた。
ああ…それでこの子は俺に話しかけてきたのか。
「仲間になるのはいいけど…集まって何をするの?」
「一緒に戦うの!私達は正義のヒーローだから悪者と戦うの!だからお兄ちゃんを含めて…後3人ぐらい集めたら動こうと思ってるの!
あ、お兄ちゃんは学校に行きたくないってわけじゃないみたいだけど…特別にOK!」
そう言うと女の子は赤色のランドセルを内野に見せつけるように向ける。
「私がレッドでリーダー!お兄ちゃんは…黒い服だからブラック!」
「あっ戦隊ヒーロー系だとレッドがリーダーだからか」
「そう!」
女の子でもこういうのが好きな子っているんだな~俺も昔はヒーローごっこしてたし、何だか懐かしいな。たしかこの子ぐらいの年の時はもう恥ずかしくて出来なかったけど。
でも…凄い楽しそうだ。
「俺も入るよ。俺も仲間に入れて!」
「ほんと!?
テレレレ♪テレレ♪テレテレテー♪
ブラックが仲間になった!」
と、RPGゲームで誰かが仲間に加わる時の曲を自分で歌う女の子にほっこりした内野であった。
「ブラックに名前を付けますか?
はい←
いいえ
ブラックの名前をお兄ちゃんにしました」
「あっ結局俺の名前ブラックじゃないんだ」
その後女の子はルンルン気分で何処かに行ってしまい、結局名前も年も分からないまま公園に取り残されてしまった。
凄い明るい子だったな。RPGゲームや戦隊ヒーローといい、なんか男の子が好きそうなものばかり。
イジメが解決してもあの子が女の子の友達と上手くやれるか少し不安だな…
そんな新しい不安が出来たが、女の子と話す前までの暗い感情はすっかり無くなっていた。
時間が経ったので学校へと向かう。
女の子と話してほっこりしたのもあるが、これからの学校生活への楽しみもあって気分上々だった…が
「ねぇ~君ぃ~内野勇太って奴知らない?」
校門の前あたりまで来ると、誰かが話しているのが聞こえる。
ん?今俺の名前を…
自分の名前を呼ばれた気がした内野が辺りを見回すと、内野の後ろでガラの悪い男が男子生徒に話しかけていた。
「そいつさぁ、この前俺から逃げた上に俺の仲間の鼻を折った悪い奴何だよねぇ~」
完全に俺じゃん。俺と同姓同名で誰かの鼻を折った奴なんていないだろうし。
てかよくみると、あいつってスライムのクエストが終わった時に絡んできた連中の一人じゃん。小西の仲間だったのかよ。
やっぱり学年主任の先生の言う通り校外の奴らとも繋がりがあったのか。
「ん?何見てんだおめぇ」
目が合ってしまい、男は内野の顔を睨みながら近づいてくる。
あっバレた。
どうする…話し合いで終わるとは思えないし、殴り合いになるか?
そうなったら負けないだろうが、これ以上問題を起こすわけにはいかないぞ…下手すると俺も停学にさせられるかもしれないし。
「何じろじろ見てんだオイ。もしかして内野のいる場所しってんのか?」
…?
あっ、もしかして俺がその内野だって気が付いてないのか!?
お前確か「てめぇの顔覚えたからな!」とか言ってたはずだが。(11話)
「いえ、何も知りません」
「ちっ…なら消えろ」
取り敢えずトラブルを避けるために何も知らないフリをし、そのまま学校の中に入っていった。
ガララララ
教室のドアを開ける。全員がこちらを見たかと思うと、皆黙まりさっきまで話声で溢れていた教室が一斉に静まり返る。
そして内野と目を合わせない。小西の取り巻き達は内野を見てニヤニヤ笑っている。
きっとみんな校門の前であの連中に話しかけられたのだろう。自分もターゲットにされたくないからか、誰も俺には話しかけてこない。
…昔の俺と同じだ。
だから俺に皆を責めるつもりは無い。その気持ちは俺もよく分かるから…
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