第29話 討伐対象:コアゴーレム10

後どのぐらいで着く?それに下には後何人残ってる?」


中々階段の終わりが見えてこない事をもどかしく思った内野が工藤にそう尋ねる。


「もう少しで着くけど…やっぱりさっきよりも光が少し消えてて、今は7人ぐらい」


人間の光が消えている事により、3人には焦りの表情が浮かんでいた。


まずいな…少しずつ相手に押されてるのか…

俺の『強欲』でどうにかなるだろうか。一応ゴーレムの体は難無く飲み込めたが、相手によっては吞み込めないって事があれば…俺は敵の近くでステータスの恩恵を受けてない無防備な状態になってしまう。

それにさっきゴーレムに使った時は何故か気絶してしまった。やはり強力なスキルには相応のリスクが伴うって事だろうか。


そう考えていると、次第に階段の終わりが見えてくる。


「二人共。いざとなったら俺は相手に近づいて強欲を使うから、後の事は二人に任せ…


ドゴォォォォォン!


突然階段の先が光ったと思うと、雷が落ちたかの様な音が階段の先から響いてきた。

まるで地下なのに雷が落ちたのかと思うほどの音で3人は足を止める。


「今の光…階段の先からだね。この先にいる魔物がやったのかな?」


「工藤、今のは下にいる人達の誰かがやったものなのかどうか、光の大きさの変化で分からないか?」


「…」


新島の言うように、今の雷は人と魔物のどっちがやったのか調べるため、内野が工藤にそう尋ねる。

だが、工藤は階段の先を見たまま黙り込んでいた。


その工藤の反応に嫌な予感がし、何があったのか聞いてみる。


「もしかして今ので…」


「…さ、さっきの雷と同時に6人の光が消えて…残ってるのが1つになった…

しかもその残ってる1人も動いてないし…」


今の雷で6人も死んだのか!?

しかも残りの1人も動けない程重症って事かもしれない…もしかしてこの先に広がっているのは地獄絵図なんじゃ…



「そこにいる3人!こっちに下りて来てくれ!」


階段の先から男の声が聞こえてくる。


3人って俺達の事だよな?もしかして生き残ってる人が助けを呼んでいるのか!?


「まだ間に合う!行こう!」


内野はそう言うと、二人の返事を待たずに階段を駆け下りる。

階段を下り終わると、その先には体育館くらいの大きさ空間が広がっており、そしてその中では異様な光景が広がっていた。


その空間の壁・床・天井は階段と同じく加工された石材で出来ている。壁には光の玉の様な光源が埋まっていて、薄暗いが光の玉が無くても部屋の奥まで見える。


内野が最初に目が入ったのは、こちらに背を向ける黒ローブの男と対面している黒い狼だった。

一目でこの狼が新島の言っていた魔物だと理解出来た。現実世界の狼とは比べ物にならないほど巨体で、薄暗いこの空間で光る黄色の瞳。

狼と目が合うと、内野は狼から今まで感じたことが無い威圧感を感じ、数歩後ずさる。


何だこの威圧感…

この魔物…やっぱり他の魔物とは何か違う…


他のものを見る間もなく黒い狼に目を奪われたが、目に付くものは他にもあった。

黒い狼の横で倒れている人間らしい見た目と大きさのゴーレム

この空間の奥で浮かんでる赤く光る球

そして幾つも散乱している人間の死体


死体は丸々上半身が無くなっていたり頭が無いものなど、初めて人の死体を見る内野にとっては直視できない程のものだった。


このタイミングで新島と工藤の二人も到着し、この状況に啞然とする。


「左側に倒れてる彼らの中に…まだ息がある者がいる。その人を階段まで非難させてくれ」


内野達が唖然とそれらを見ていると、2本の剣を持って黒い狼と対面している黒ローブの男が話しかけてくる。


あの人が新島の言っていたランキング一位の『梅垣 海斗』か…

この状況について聞きたい事は山ほどあるが、今は余裕が無さそうだし指示に従おう。


黒ローブの男の言う通りに左に行くと、黒い何かが落ちているのが見えた。遠目からでは分からなかったが、近づくとそれが何なのか分かった。


それは物などではなく、真っ黒に焦げている人だった。

男か女か判断できない程身体はボロボロで、身に付けている鎧しか残っていなかった。


辺りを見回すと、一つの倒れている者に目が付く。その者は赤色の鎧と金色の盾を身に着けていた。


身体は焼け焦げているがこれが飯田という事だけは分かった。

だが他の者とは違い微かに呼吸をしており、指がピクピク動く。身体の破損具合も周りに比べたらマシで、飯田はまだ生きていた。


間違える訳がない…これ…飯田さんだ…

で、でもまだ生きてる、今動けば飯田さんを助けられるかもしれない!


「工藤!ヒールを頼む!」


「…」


工藤に声を掛けるが、工藤と新島は未だに階段付近で黒狼を見つめていた。


「早く来て!このままじゃ飯田さんが死んじゃう!」


「あ…ええ、分かったわ!」


二回目の声掛けでようやく内野の声に二人気が付き、急いでこちらに向かってくる。

その間も黒狼はその場で二人の事を目で追い続ける。

黒ローブの人も全く動かず、黒狼に向かい剣を構えていた。



「ヒール」


飯田を階段まで運び、工藤は飯田にヒールを唱える。しかしレベルが低いからか一回のヒールでは全然身体を修復出来なかった。


ダメだ…もっとヒールを掛けないと回復しないみたいだ…


「ま、まだヒールした方が良い?多分あと1,2回しかできないけど…」


工藤がそう尋ねてくるが、内野は返答に困り黙り込む。


新島の時計を見る限り、クエスト終了時間まであと10分はある…このままヒールを掛けても…時間までに死んじゃったら意味が無い。

一回のヒールじゃほとんど何も変わらなかったし…あと数回じゃ意味無いんじゃないか?

それなら…


「…このクエストを終わらせる事が出来れば…飯田さんを助けられるよ」


「ああ…俺も同じ事考えてた。飯田さんが死ぬまでにあの核を破壊するんだ」


内野が考えていたものと同じ事を新島が先に言った。


元の世界に戻ると怪我は回復するって松平さんは言っていた。

それを利用すれば飯田さんを助けられる!

そうと決まれば…


内野が動こうとした次の瞬間


「オオォォォォン!」


黒狼が上を向いて大きく遠吠えをし、膠着状態だった黒狼とローブの男が同時に動き出した。

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