第26話 討伐対象:コアゴーレム7

内野は事の経緯とさっき考えていた事を新島に説明する。


「なるほど…つまりゴーレムを完全に吞み込んだはずなのに、倒した事になっていないんだね。それでクエストが終わらないと」


新島は直ぐに事情を理解してくれた。


「そうなると、吞み込んだはずのゴーレムはまだ死んでないって事になるね。その闇の中でまだ生きているのかな」


「うん。俺のスキルはまだ分からない事だらけだし、もしかすると闇で吞み込んでも相手を殺すのに時間が掛かる…だとかあるかもしれない。

そうすると今の俺にはもうどうしようもないんだけど…」


まだ闇の中…というか俺の中でゴーレムが生きているのかもしれないな。

死んでないから強欲でステータスを奪えず、レベルも上がらず、クエストも終わらない。そう考えれば納得はできる。

ただそうなると…いつゴーレムが死ぬのか分からない。下手するとクエスト終了時間になっても死なず、これがただの無駄足になる可能性もある。

結局は工藤と進上さんを探して洞窟に行かないといけないし、これはただの無駄足に…


「ねぇ。考えてみたんだけどさ、ゴーレムの核が外に有ったりはしないのかな?」


「…外?」


「ゴーレムの中じゃなくて、他の何処かにあるって事。ゲームとかだとそういうボスもいるから」


…!?


「それだ!核が他の場所にあるからまだクエストが終わってないのかもしれない!」


忘れていたけどこのゴーレムの名前は『コアゴーレム』。コアに何か仕掛けがあってもおかしくないぞ。

そうなると核の場所が何処にあるかだが…


「あるとしたら元々ゴーレムが居た所が怪しい。てかそれ以外にありそうな所が思いつかない…」


「でも地下に繋がる階段はゴーレムのせいで潰れちゃってたよ?」


そこが問題だ。もう地下に繋がる階段が崩れてしまっているから、地下へ行けるルートが無い。

まだ森の中に地下へ行ける階段があるだろうか…

結局ゴーレムの核の仕組みが分かっても、その核を壊しにいけないのなら意味が無い。


「そうなると…これからする行動は2択になる。

一つは森を探索して他の階段を探す事。他にも階段がある可能性に賭けて森を走り回るんだ。

もう一つは俺達が出てきた洞窟を探索して二人を探す事。こっちは核を壊すのが目的じゃなくて、二人を探すのが目的。二人が洞窟の中にいる可能性が高いからだけど、本当にそうなのか確証は無い」


「休むとか諦めるって選択は無いんだね」


「もちろん。俺はベッドの上にいる時に転移したから、クエストが終わった瞬間即座に休めるし、今しか出来ない事があるならそっちを優先する」


「…フフッ」


内野の言葉を聞くと、新島が小さく笑う。


「お、俺何かおかしい事言った?」


「そうじゃなくて…なんか君変わったね。

まだ数時間の付き合いだからかもしれないけど、私の中で君の印象がどんどん変わっていくんだ」


自分じゃ分からないが、俺ってそんな変わったのか。

…いや、よくよく考えたら変わったな。

クエストに巻き込まれる前の俺だったら、誰かのために命を張って行動したり絶対にしないし。



「それはともかく、今はこの2択のどっちにするのか決めよう。

別にこれは俺がやりたい事だから新島さんは…」


「私もやるよ。山火事の中に入る前に敏捷性を上げたから、今ならスピードで君の足手纏いにはならないと思うし」


おお、結構大胆にSPを使ったんだな。


「それでどっちを選ぶかだけど…その前に一つ言っておきたい事があるの。

私達が洞窟の中で聞いた洞窟が崩れる様な音。あれって今思えばあの音ってゴーレムが階段を崩した音だったんだと思う」


あの音か。結局あの時は壁に耳を当てても、どこから音が来たのか方向すら分からなかったな。

今なら分かるが、ゴーレムがいたのは下だったわけだから壁に耳を当てても意味無いし分かるはずがなかった。


「で、その音がどうかしたの?」


「あの音の発生源って私達のいた場所とそこまで離れていなかったんじゃないかな。

で、でね…もしかすると洞窟の中にも地下へ降りる階段があるんじゃないかと思ったの。なら洞窟の方の探索をすれば、二人を探しながらも階段を探せて、一石二鳥になるはず…だし」


確かに洞窟内にも地下への道がある可能性は全然あるな。

それで新島の言いたい事って、洞窟の探索が一石二鳥になるって事なのか?


「つまり…洞窟の探索をした方が良いって言いたいの?」


「あ……そう。洞窟の探索をした方が良いって言いたかったの…」


内野の言葉通りに返す新島だったが、何故か口調はハッキリせず内野から目を逸らしていた。


この反応…何か隠してるのか…?

いや、そんな事する意味無いよな。きっと口下手で自分の意見を言うのに慣れてないだけだ。引きこもっていた訳だしそれは仕方ない。



新島の意見を聞き、内野は洞窟の探索に向かう方を選択した。


洞窟の方に走りながら、何で急に身体に力が入らなくなり気絶したのか考えていた。


周りには誰もいなかったし、誰かの攻撃によるものだとは思えない。どんなスキルが存在するのか分からないから、正直何とも言えないけど…

やはり一番に考えられるのは、強力なスキルである『強欲』の使用には何かリスクが伴うって事だ。


謎を解明する為に何回もスキルを使う必要があるが…魔力水を沢山買えるほどQPを稼げるようになってからじゃないと厳しいか。




何とか洞窟の前まで辿り着いた。

内野が剣を持って前へ、その後ろで新島が光の玉を持ち洞窟の中を進んでいく。

道中の魔物は一度倒しているので、木村達と合流した所辺りまでは魔物に遭遇することなく安全に進めた。



「そこにいる二人!私をここから出してちょうだい!」


突然誰かの助けを呼ぶ声が前の方から聞こえる。そしてそれは聞き覚えのある声だった。


少し前に進むと徐々にその者の姿が見えてくる。

そこにいたのは、崩れた壁に右腕が埋まり動けなくなっている工藤だった。


「く、工藤!?」

「工藤さん!?」


「あ、二人共生きてたのね!元気そうで良かったわ!」


左手を振る元気そうな工藤の姿が見え、安堵する二人だった。


どうしてこんな事になっているのかは分からんが、特に辛そうな表情はしてないから埋まってる腕も大丈夫そうだ。


「ふぅ…工藤が無事で良かった…」


「この状況でそれ言う?もしかして皮肉のつもり?

てか先ずはこの腕を抜くの手伝ってくれないかしら」


「あ…うん」


心から出た言葉だったが、工藤はそれを皮肉と捉えて顔をしかめる。ただ工藤も安心したような表情をしており、不快になっている感じではなかった。


それから内野と新島は2人で工藤の腕を引っ張り始めた。




「いや~二人のお陰で助かったわ!」


右腕が穴から抜けた工藤は肩を回しながらそう言う。


「腕は大丈夫なの?それにどうしてあんな事になってたの?」


「防御力上げたし、スキルで自分の腕回復させたら大丈夫。

それにああなっていたのにはしっかりとした理由があるのよ。


クエストが始まったら視界が真っ暗で、この兜で人の魔力の光がある方向に進もうと思ったのよ。ただ光と言ってもそこへのルートが見えたりする訳じゃなく、そいつの場所が見えるだけだから、光目指して直進したら何回も壁にぶつかったりしたわ。多分道がグネグネしてたせいわね。

でも壁から来る魔物の場所が分かったからかなり使えたわ。真っ暗だからどんな見た目の魔物か分からないけど、『アイス』のスキルで氷柱を飛ばせば一発で倒せたし。


で、ここに来るまで兎を3匹ぐらい倒してたんだけど、途中から魔物が現れなくなったのよ。私の前の方に人がいたし、多分そいつが全員倒したからだと思う。それにそいつ前の方で5人ぐらいと合流してたし、そいつに全部先回りされたのよ。

そいつに追い付こうと思って走ったけど、壁に触りながらでも真っ暗でまともに走れなかったから諦めたわ」


…前にいた人?

それに5人ぐらいと合流してた…ってもしや


「聞きたい事ってあるんだけど…工藤ってどっちから来た?」


「あっち」


工藤が指差した方向は、内野がクエスト開始した時にいた方向だった。


「…ずっと真っ直ぐ進んだ?」


「ええ、途中から意地になってそいつに追い付こうとしてたからずっと直進よ」


「なるほど…多分それ俺だ」




「あんたのせいで解呪石買えないかもしれないじゃない!どうしてくれるのよ!」


「いやそうはならんだろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る