第25話 討伐対象:コアゴーレム6
一人森の中を走る内野。道中魔物に会うことなく山火事が見える所まで到着した。この頃には山火事は誰にも止められない程の大きさになっていた。
あの火事場の中心辺りにゴーレムがいるのか…
聞いた話だと、足はボロボロになってたけど腕はまだ動くんだよな。もしかするとまだ腕の力だけで移動してたりするのか?
そんな風にゴーレムについて考えながら走っていると、ふと一つの疑問が思い浮かぶ。
『強欲』をゴーレムに使ったらどうなるんだ?
その疑問が頭に過ると、内野はその場で足を止め山火事の起きている方を向く。
俺のスキルは、身体から闇が出て相手を吞み込むというもの。
ゴーレムを倒せないのは、核が何処にあるのか分からず身体を削るのにMPが足りないから。ならゴーレムを全身吞み込められれば…
この時、内野は自分がクエスト始まってすぐに考えた事を思い出した。
『…討伐対象のゴーレムは俺が倒す。そして皆を助けてみせる』
その考えに至ったのは、他人から感謝される快感を知り、自分のスキルが特別だと分かったからであった。(20話)
そして洞窟で木村・井上・小田切・新島を助けた事により、今の内野の中には自信が出来ていた。
この目標と自信が内野に一つの決断をさせた。
俺がゴーレムを倒して…このクエストを終わらせてやる!
そう思い至ると、内野はゴーレムの元を目指して燃える森の方向目指して走っていった。
山火事になっている所の近くまで着く。
少し近くにある炎に触れてみると、熱さは感じるけど火傷はしなかった。
これもステータスの恩恵か。何処にゴーレムがいるのかは分からないけど、ゴーレムの身体は大きいから目立つだろうし、取り敢えず山火事の中心を目指して進んでみよう。
燃える木々の間を走り、ひたすらゴーレムを探す。
数分程走っていると、妙な跡が残っている地面を見つけた。まるで重い物を引きずりながら進んだかのような大きな跡で、それがある方向に伸びていた。
更に引きずられた跡の近くには、大きな杭でも刺してあったかのような穴が幾つも開いていた。
…ひょっとすると、ゴーレムが腕の力だけで移動してるという俺の予想が合っているのかもしれない。この穴が指のあった所なら、こっちの跡は胴とか足が引きずられて出来たものって考えられる。
という事はこの跡を辿ればゴーレムがいるはずだ。
ゴーレムが木をなぎ倒してでも無理矢理進んだのか跡の続く方には木が一切なく視界が開けていた。木が燃えて倒れているというのもあるだろうが、倒れている木の中には殆ど燃えてないものもある。
木を倒し巨体を引きずるほどの力は残っているのか…油断しない様にしよう。
少し進むと、右腕の力だけで前に進んでいるゴーレムが見えてきた。両足は重い体を支えられないほどボロボロになっており、左腕は全く動かなくなっていた。
この方向って…確か川柳さん達が居た人の大勢集まっている所だ。
コイツ執念深過ぎるだろ…階段を壊してまで追いかけてきたのと、足が壊れているのに前に進もうとしてる事。何がコイツをそこまで動かすんだ?
ゴーレムは背後からの内野の接近に気が付いたのか動きを止める。ゴーレムは方向転換が出来なさそうなので、内野はそれを利用して全く動かない左腕の方から回り込む事にした。
一回でMPが無くなるので失敗が許されず、確実に当たる距離で使わないといけないので、内野は自分の手が届くほどの距離まで接近するつもりであった。
ゴーレムは右腕を背後に向け火炎を放出し、自分の身体
だがゴーレムの噴出する炎の威力は弱々しく、内野に届くこと無く消える。それにもかかわらずゴーレムは右手を内野に向け続ける。まるで炎が出ていないのに気が付いていないようだった。
これは…MP切れか?
何でこんなに火力が弱いのかは分からないが、こいつにはもう攻撃する手段は無さそうだな。
一人でここまで這いずり追いかけ、最後まで抵抗しようとしたゴーレム。
それを見て他の魔物と違い少し可哀想だと思った内野だったが、仲間の為には殺さなければならないので、内野はゴーレムの足に触れるとスキル名を呟く。
「強欲」
スライムの時の様に身体から闇が現れ、ゴーレムの足から包み込んでいく。身体から現れる闇の量は以前よりも多く感じた。
そしてスキルの使用によりMPが無くなり、内野の身体から力が抜ける。
闇は順調にゴーレムを包んでいき、遂に全身を包み込み終わる。そしてスライムの時の様に内野の元へ帰ってくると、身体の中に入り消えた。
ゴーレムは吞み込み終わった…これでクエストが終わるはずだ
だがいつまで経っても転移の青色の光は現れず、クエストは終わらなかった。
…何故だ!?
もうゴーレムごと全て飲み込んだのに…あ、もしや倒した判定になっていないのか!?
内野がステータス画面を開いて、自分のステータスの変化を確認しようとすると
!?
内野は突然その場で両膝を突き、そのまま前に倒れる。立ち上がろうと力を入れても動けない。
な、何が起きた!?何で力が入らないんだ!?
もしかしてMPが無くなったから…いや、前回はこんな事にはならなかったぞ!
どうして今自分が地面に伏しているのかは内野自身にも分からなかった。今の内野はステータスの恩恵を受けられておらず、生身の状態だ。今襲われれば一溜まりもないので、急いで魔力水を買う事にした。
立つのは無理だったがギリギリ腕は動き、QP10で魔力水を買う。すると目の前に透明の液体が入った小瓶が現れた。
内野が急いでその液体を飲むと、それと同時に意識がどんどん遠くなっていく。
MPは回復したはずなのだが力は抜けたままだ。
…ヤバいぞ…今度は意識が…ここで一人で倒れてたら魔物に襲われる…
薄れゆく意識の中、こんな所で無防備に倒れていれば魔物に殺されるという焦りを感じていたが、内野はどうする事も出来ずにそのまま気を失ってしまった。
次に意識が戻った時、地面が柔らかくなっており妙に心地良かった。目を開けると、今自分がいるのが誰かの背中の上だというのが分かった。
「あ…やっと目を覚ましたね」
なんと内野を背負っていたのは新島で、気絶する前までは山火事の中にいたのに今は森の中を歩いていた。
まさか動けなくなった俺を助けてくれたのか?
「な、何で新島さんが俺を…」
「分かりやすい所で倒れていたから、割と直ぐに見つけられた」
「それって…新島さんも山火事の中に入ったって事?」
「そう。大きな跡を見つけて、それを辿った所に君が倒れていたから見つけやすかったよ。」
それじゃあ…新島は俺がゴーレムの所に行くのを見ていた訳じゃないのか。なら何で俺がゴーレムの所に行くと分かったんだ?
俺は新島には洞窟に行くとしか言ってないのに。
「確かに分かりやすい所にいたかもしれないけど…ゴーレムの所に行くなんて俺は一言も言ってない。
なのにどうして俺がゴーレムの所にいるって分かったの?てかいつの間にゴーレムの事を知ったの?」
「ゴーレムの事は二人を探すときに聞いた。
貴方がゴーレムの所にいると思ったのは…今日の君が私に似てたから…かな?」
「え?それってどういうk…」
「後は自分で歩いて」
ドサッ
いきなり手を離され、内野は尻から地面に落ちた。
痛…くわないけど、そんな急に落とさなくたっていいだろ。てか似ていたどういう事だ?
「それより…どうしてあんな所で気絶していたの?」
「…分からない。
ゴーレムを俺のスキルで吞み込んだら、急に身体が動かなくなったと思ったら今度は意識を失って…それで今目が覚めた所」
「ん?それってゴーレムは吞み込み終わったって事だよね?君の近くにゴーレムなんかいなかったし」
そうだ!今は何でクエストが終わってないのか解明しないと!
先ずはステータスを見てゴーレムを倒した事になっているか確認しよう。
内野は自分のステータスを開いて確認する。
最後にステータス画面を開いたのは、内野がまだ一人で行動しており『物理攻撃耐性』と物理攻撃・物理防御を上げた時だ
そして今開いた時との変化はレベル・MP・SPのみで、その他のステータスは一切変わっていなかった。
内野はこれを見て、まだゴーレムを倒した事になっていないのが分かった。
先ず強欲でゴーレムを吞み込んだので、スライムの時の様にスキルが増えていたりと、何らからのステータスの変化があるはずだ。
そして今見た時に変化したのはレベル・MP・SP。レベルが5→7になっている事から、レベル増加によりMPとSPが変わったのが分かる。
つまりレベルだけが上がったという事だ。
レベルが上がっているのが、一見ゴーレムを倒した事によるものの様に見えるが、俺は木村君達と遭遇してから数匹魔物を倒している。だからこのレベルアップがゴーレムを倒した時に起きたものかは分からない。
ここからは完全に個人の感覚になってしまうけど、魔物数匹+ゴーレム倒してレベルが2しか上がっていないのは少なすぎる気がする。だって松平さんみたいな俺よりも強い人達が束になっても倒せなかった相手だし、流石に2しか上がっていないのは不自然だ。
ゴーレムの経験値が手に入っていない、強欲で俺のステータスが変わっていない。この二つから、まだゴーレムを倒してない事になっているのではないかと思う。
「…そんなボーっとして何を考えてるの?」
黙り込んで考えている内野に向かい新島がそう言う。
そういえばまだ事の経緯を話してなかったな。一応今考えた事を含めて新島に説明しよう。
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