第24話 討伐対象:コアゴーレム5
赤色の煙を目指して歩き、遂に煙の発生源までたどり着いた。そこには20人前後の人が集まっており、各々が座ったり話したりしていた。だが表情はあまり明るくなく、何か悩んでいるような浮かない顔だった。中には負傷している者もいる。
やっと合流出来たことに安心したのか、木村と井上はその場ででへたり込む。
無理もない、二人は初めてのクエストで魔物と死闘したんだし疲れてるに決まってる。
新島は見たところ澄ました顔してるけど、一人でいた時間が多かったしかなりメンタル面での疲労が溜まっているんじゃないか?
「やっと着いたのは良いですけど…あまり明るい雰囲気じゃないですね」
「向こうに俺の知り合いが見えたし、何があったのか聞いてみるか」
小田切が知人を見つけたといい、脇腹を抑えながら一人でその者の所へ向かおうとする。流石に怪我人を一人で動かせるわけにいかないので、内野は小田切の肩を支える。
「小田切さんは怪我してますしここで休んでて下さい。俺が何があったのか聞いてくるので」
「いや、俺も行く。怪我は大丈夫だから心配しなくていい。それに知人の顔を見てからの方が気が休まるからな」
俺と小田切さんだけで話を聞きに行き、残りの3人には休んでてもらう事になった。本当は一番負傷している小田切さんが休まないといけないと思うけど、仲間に会いたいそうなので一緒に向かう。
「あれが俺の知人だ。初めてのクエストの時からお世話になった人で、かなり初期からいる人でもある」
肩を貸して歩ていると、小田切は一人の男を指差しそう言う。
あれ…あの人って…
小田切が指差した人物は、内野が一度は話した事がある者だった。その人は内野がロビーに着いた時に起こしてくれた、下半身と頭にのみ鎧を着ているおじさんだった。
「あ、小田切さん!その怪我は大丈夫なんですか!?」
「全然問題ないです、彼のお陰で死なずに済みましたよ」
兜のおじさんは小田切の負傷を見るや否や近づいてきそう言う。そして小田切は兜のおじさんに内野を紹介する。
「あれ、君ってロビーで寝てた子だよね」
「川柳さんも彼の事を知っているんですか?」
「ロビーに来て直ぐに会ったんだ。前回のクエストの数少ない生還者で、ロビーで寝てたからよく顔を覚えてるよ」
やっぱり寝てる時に転移される人ってあんまいないんだ…恥ずかしい…
「僕の名前は『
「内野 勇太です」
川柳さんはおっとりとした口調だし、表情もにこやかで優しそうな人だな。
その後は今がどんな状況なのか聞き、ここまでの経緯を聞いた。
初めは洞窟の外スタートの人達が発煙筒で集まり、30分経過した時点で35~40人ぐらい集合した。発煙筒はショップで買えるものなので、一応QPがあればクエスト中に何時でも手に入るものである。
その集まった人の中に魔力探知のスキルを持っている者がおり、ゴーレムらしき反応が地下にあると判明した。
そして地下に行く方法を探すため、幾つかのグループに分かれて探索していると、洞窟への入口を発見した。洞窟を見つけたのは松平と川柳がいるグループで、そのまま洞窟へと入る。
洞窟の中で生存者は発見したが、中々下に行く道は見つからなかったので一旦引き返し、他グループの人を呼んで人数を揃える事になった。
引き返して帰ってくると、他グループが森の中に地下へと続く階段を発見したという。階段の下る方向はゴーレムと思われる反応ある方向と同じで、十中八九この下にゴーレムがいると考えられた。
まだリーダーの飯田が居なかったが、この時点で集まっているプレイヤーは複数回クエストを受けたことがあるプレイヤーが多く、リーダーの飯田がいなくても大丈夫だという判断で全員で階段へと向かった。
森の中にある階段を降りてしばらく進むと、そこには奇妙な空間があった。
天井の高さは10m以上あり高いのだが、横幅や奥行きがそこまで広くない空間。壁や床は洞窟とは違い石レンガで出来ている。
そしてその空間の真ん中には、こちらに背を向けて立っているゴーレムがいた。
「ん、ちょっと待って下さい!」
内野が声を掛け川柳の話を止める。
「階段とか石レンガって…人工物ですよね?」
「そう。壁は洞窟と同じ様なごつごつした岩の壁だったけど、階段だけは明らかに人の手で造られたものだったんだ。
人が降りやすいサイズ、傾く事なく整えられてる階段。誰かが造った物というのは一目瞭然だったよ」
「え…それじゃこの世界にも人間がいるって事ですか?」
「それはまだ分からないんだ。過去に森の中でボロボロになった剣が見つかった事はあったけど、少なくとも人間らしい生き物を見たという情報は無いね。でも建造物を見るのは今回が初めてだったから流石に驚いたよ」
剣と階段って明らかにこの世界に人間がいたという証明じゃないか。
この世界についてますます分からなくなってきたな…
その後はまた川柳さんの話を聞く。
ゴーレムの見た目を簡単に言うと、巨大な人型の動く岩。
全長5mぐらいで胴体・腕は太く、顔は小さい。巨体の身体を支える為か、足は身体の4割以上を占めている程大きい。
倒すには身体の中の何処かにある核を壊す必要があるのだが、核は硬い岩の身体の中にあるので先ずは身体を削る必要がある。
先頭の者がゴーレムのいる空間に足を踏み入れた瞬間、ゴーレムは大きな腕を薙ぎ払う様に後ろに振る。
動きは遅いので前線にいた者は難無くこれを避けるが、この空間にはこの人数が満足に動けるような広さは無かった。
前のゴーレムは地上で戦え、広い場所だったので距離を置いて戦えた。だが今回の場合はそんな広い空間では無いので、遠距離攻撃を使い戦う為には階段で戦う必要があった。
一同は階段まで戻り、遠距離攻撃の矢やスキルで身体を削っていく。
階段は人が通る分には十分過ぎる程広いが、ゴーレムが通れるほどではない。そしてゴーレムには岩を投げる位しか遠距離攻撃の手段は無い。
なので階段からなら安全に攻撃出来る、全員がそう思っていた。
だが今回のゴーレムは以前とは違う点があった。ゴーレムは右手の平に穴が開いており、そこから火炎を噴出させられるという事だ。
一本道で避ける空間が無い所に向かい炎が噴出される。
前に居た者がガードスキルを使ったお陰で炎は防げたが、もしもそのスキルがなければ全員が丸焦げになっていたであろう。
まさか階段にいても攻撃をしてくるとは思わず、もっと引いて攻撃しようと後退する。
だがゴーレムは、スペースが無いのにも関わらずこちらに迫ってきた。
階段の幅よりもゴーレムの肩幅の方が大きく、階段の天井もそこまで高くないので、ほふく前進の様な態勢で天井と壁を破壊しながら迫ってくる。
止まる気配無く迫ってくるその巨体に一同は恐怖を感じながら必死に逃げ、何とか地上に戻って来れた。
しかしゴーレムはそれでも止まらなかった。狭い階段の入り口を腕で破壊し、ゴーレムは地上に上がってきたのだ。だが流石に地上に着くころにはボロボロになっていた。
ロボットは右手の火炎を地上で使い、周りのプレイヤーもろとも木々を燃やす。ゴーレムは足が壊れ動けなくなっていたので、炎を避けながら遠距離から総攻撃を仕掛け、身体をどんどん削っていく。
今回のゴーレムは以前遭遇したものよりも大きく身体が硬かったので、総攻撃でようやく胴を破壊でき、ゴーレムの身体の中が見えた。
だがそこで問題が起きた。
以前は胴に核があったのだが、このゴーレムの胴には核が無かった。
核を壊さない限りはゴーレムを完全に止めることは出来ない。だが胴に核が無いとなると、残りの部位も破壊しなければならない。
この頃にはもう一部位を破壊出来る程のMPは残っておらず、手の打ちようが無くなってしまった。
MPの自動回復があるとはいえ、2時間も残っていなかったのでMPが回復しきる頃にはクエストが終わっているだろうと考えと、負傷者がいる事により撤退する事となった。
それが今のこの状況か。ゴーレムを殺す為の核が無く、どうすればいいのか分からず頭を抱える事しか出来ない状況。
核が見当たらないとなると、ゴーレムを討伐出来ない。今回は時間まで待つしか無いのか?
「それで撤退してきた後に話し合い、今回はゴーレムの討伐を諦めることなったんだ。核を壊さなくても相手の全身を粉々に出来れば、ゴーレムが死んでクエストが終わるのかもしれないけど、それには大量のMPが必要になるからね。
結局倒せるのか分からないゴーレムの相手するよりも、他の魔物と戦ってレベルを上げる方が良いって結論になったんだ。それ以降はそれぞれ自由行動って事で、ここに残る人もいれば魔物を狩りに行った人もいるよ。
松平さんも今はもうここにはいないけど、僕はここに残ったんだ。ゴーレムの炎で火傷した人もいるし、彼らを守らないといけないからね」
それじゃあ今ここにいる人は、魔物を狩りに行かずに待機してる人達なのか。てか山火事ってゴーレムが起こしたものだったんだな。
「小田切君は負傷してるから、無理しないでここにいて欲しい。でも内野君はまだ動けそうだし、ここから離れてレベルを上げに行ってもいいかもしれないね。
因みに洞窟への入り口は2つ見つかってて、さっき他の人が探索に向かったらしいんだ。だから今行けば合流出来るかもしれないし、大まかな方向で良ければ教えられるよ」
そうだな…クエストが終わるまでレベル上げしに行くってのはアリだ。どうするのか後で新島達にも聞いてみよう。
一応2つの洞窟の入り口のある方向聞いてみたが、どうやら両方とも俺が出てきた洞窟への入り口とは違うようだ。
「分かりました、仲間に相談してからレベルを上げにでも行こうかと思います」
「俺はここに残る事にする。また次のクエストで会おう」
「はい、小田切さんもお大事に」
小田切と川柳から別れ、木村と井上のいる所へ戻ろうすると
「内野君、あの二人はここには居ないみたい…」
後ろから声を掛けられ振り返ると、そこには新島がいた。
内野が川柳に話を聞いている間に工藤と進上を探したらしいが、残念ながら見つからなかったようだ。
そうか…だとするとまだ洞窟の中にいるのかもしれない。
それにここに残っていないだけで、魔物を倒しに行ったという可能性もあるな。
「…もう二人が死んでいるって可能性も考えないといけない…かも…」
内野も既に二人が死んでいるという事が頭を過ってはいたが、それは考えたくない残酷な可能性だったので、内野は他の事に思考を巡らせる。
二人が生きてるのか分からないが、今の俺に出来るのは二人が生きている前提で動く事だ。死んでいるかもしれないだとか考え、ここで立ち止まっている暇は無い。今動かないと…二人を探さないと…
「新島さん、あと何時間でクエストが終わるのか分かる?」
「…あと1時間半だね」
新島は自分の腕時計を確認しながらそう言う。
1時間半か…まだまだ時間があるな。
二人が洞窟か外にいるのかは分からないが、危険度は洞窟の中にいる確率の方が大きい。外にいるのなら、発煙筒で他の人と合流してる可能性も高く、今ここに居ないだけで魔物を狩りに向かった可能性もある。だから向かうとしたら洞窟だ。
二人がまだ洞窟の中で一人でいるのならば、一刻を争う事になる。急いで向かわないといけない。
「新島さん!俺は二人を探しに洞窟に向かうから、木村君と井上さんと一緒にここで待ってて!」
「ま、待って!」
走りだそうとする内野だったが、新島が内野の腕を掴んで止める。
「君も少しは休まないと…」
「二人が生きているのかは分からない。でも今は二人が生きてると願って動くしかないんだ。休むのはクエストが終わってからでも十分だから大丈夫」
「い、行くなら私も…」
「気持ちはありがたいけど…俺一人の方が早いだろうからここに居て」
「えっ、ちょ…」
新島が待ってと言い終わらない内に手を振りほどき、自分達が出てきた洞窟の方向へ走る。
無理矢理手を振りほどいてしまったのも、新島が言い終わるのを待たずして食い気味に返してしまったのも、それは内野が他の事を考えており余裕が無かったからだ。
他にも洞窟の入り口が見つかったらしいが、そっちの方には他の人が向かった。そして俺が出てきた所はまだ強い人達の探索が手付かずの状態だ。この3つの洞窟が全部繋がっているのかは分からないが、探すなら俺が出て来た所だ最適だ。
一度来た道なら魔物にも遭遇しにくいし、道もある程度覚えてるから早く動ける。
とにかく早く洞窟に向かわないと!
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