第23話 討伐対象:コアゴーレム4
「もしかして今回のクエストってこの洞窟の中だけなんですかね?」
木村がそう話しかける。
「俺はまだクエスト2回目で詳しくないからな…小田切さんはどう思いますか?」
「すまない、こんな事初めてだから…俺も何とも言えない」
う~ん…洞窟の外までクエストの範囲なら、皆が真っ暗闇に転移した訳ではない事になる。だとすると、外を目指して他の人とも合流出来るし、工藤や進上さんも無事からもしれない。
だがもしもクエスト範囲が全部洞窟の中だけなら、光の玉を買えない者は死んでもおかしくないだろう。新島はスキルのお陰で生き残れたが…二人は無事だろうか…
「洞窟の外がある事を願おう。実は前回のクエストで、QPをほとんどの人が消費しちゃってるから光の玉を買えない人はいるだろうし、全員が洞窟の中スタートだとすると大量の死者が出ててもおかしくないからね」
「うう…僕と一緒に来た人達の事も心配…」
「あっ、そういえば今日の新しく来た人って何人ぐらいなの?」
「たしか19人でした。」
「…多くね?」
19人って…俺の時は4人だったのに、今回はやけに多いな。
「内野君と分かれた後に聞いた事なんだけど、飯田さん曰く前回死んでしまった人数が多いと次回の新規プレイヤーは増えるらしいよ」
新島は内野に向かってそう言う。
そういう事ね、前回の死者数によって新規プレイヤーの数が変わるのか。
まるでいなくなった人の分を穴埋めするように…
ドゴォォォォン!
!?
一瞬洞窟が崩れたのかと錯覚するぐらい大きな音が響いた。大きな岩が砕けたかの様な音。
しかし、音が大きく洞窟の中で反響してしまっているので何処から鳴った音なのか分からない。
「止まって!一旦ここで様子をみよう!」
内野のその声に従い、しばらく一同は屈んで待機する。
音がどの方向から響いて来ているのか確認する為に壁に耳を当てるが、やはり洞窟全体が反響しているせいで分からなかった。
その後数秒で音は止んだ。
まさかゴーレムか?ゴーレムと誰かが戦っているのか?なら音の発生源の方向を特定出来なかったのは悔やまれるな…
「今のは何だったんでしょう…」
「誰かがゴーレムと戦っているのかもしれない。
もし近くにゴーレムがいるのなら、この人数で挑むのは危険だし引き返した方が良いのかもしれないな」
小田切は内野に向かいそう言う。
「洞窟全体が反響するような音だったから場所が分からなかったのがね…どうする内野君、このまま進む?」
新島も内野に向かいそう尋ねる。
…もしかして俺が判断しろって事?
流石に俺には荷が重いって。多分俺よりもクエスト経験豊富な小田切さんが決めた方がいいだろ。
「二人共…どうして俺に聞くの?」
「今さっき咄嗟に命令を出せた君の方が、俺よりも遥かにリーダーに適任だろうと思ったからだ」
「なんか内野君がリーダーって感じだったから…それに前回も君のお陰で助かったわけだし」
小田切と新島がそう言った事により、木村と井上も声を上げる。
「内野先輩にリーダーをやって欲しいです!」
「僕もこの中で一番動ける内野さんが適任だと思います」
「待って、いつの間にかリーダーを誰がやるのかって話になっちゃってるんだけど…」
内野が言い終わらない内に、またしても何処からか大きな音がする。そして今度は1回の爆音ではなく、本当に何処かで洞窟が崩れているような落石の音が鳴り続けた。その音と共に地震が起きたかのように床は動き、壁には少し亀裂が入る。
「…このまま進みましょう。早く外を目指して動いた方が良い気がします。もしもゴーレムに遭遇しても、松平さん曰く動きが遅いらしいので逃げきれるでしょうし」
内野は音が止むのを待たずして動く事を選択した。
この音が一体何なのかは分からないが、もしも誰かがゴーレムと対峙している音なら好都合だ。ここからでは音の発生源が分からないが、先に進めば分かるようになるかもしれない。
それでゴーレムの元まで行くことができ、倒せればこのクエストを終わらせられる。
別にゴーレムの所にたどり着けなくても、誰かと合流出来る可能性もあるし、魔物を倒してレベルを上げられる。
ここで立ち止まっていも、どちらにせよ引き返すか進むかは選ばないといけない。なら引き返して時間をロスするのは勿体無いだろう。
一同は内野の判断に従い進んでいった。
音は数秒では鳴りやまず数分続いていたが、遂に音が鳴り止んだ。だが近くなのか遠くなのか分からない不思議な感覚のせいで音の発生源を掴む事は出来なかった。
途中で分かれ道があり悩んだりしたが、道中では魔物は現れず安全に進めた。だが進むにつれ、壁には兎が掘ったと思われる穴が多くなっていた。
あいつらが普段から穴を掘って移動してるのなら、もしかしてこの洞窟かなり危険なんじゃないか?壁にこんな穴が空いてたらいつ崩れてもおかしくないぞ。
「…!?内野先輩!あれ見て下さい!」
壁を見ながら歩いていた内野の肩を叩き、木村は喜々とした表情で前を指す。
内野が前を見ると、その方向には洞窟の外への出口があった。薄っすらだが外にある緑も見える。
や、やった!やっと外に着いた!
他のプレイヤーに会えるかもしれないし、外があるなら進上さんと工藤も生きてる可能性が高い!
「やっとこの洞窟から出れるんだ!」
「よし!誰一人欠ける事なくここまで来れたぞ!」
「良かった…洞窟の外があるなら、他にも生きてる人が沢山いるかもね」
一同は喜びの声を上げ、早足で外に向かって歩く。目の前の光だけを見て前に進む。
そして内野達はやっと洞窟の外に出ることが出来た。
やはり外の空気は上手い…
周りは前回のスライムの時と同じ様な森だな。もう光の玉を使う必要は無さそうだし、これはインベントリに仕舞おう。
「取り敢えず他の人と合流したいし、このまままえに進もう」
「だね。早く二人の安否を確認したいし」
やっぱり新島も二人の事が心配なんだな。俺も二人の生存を確認するまでは気が休まらないし、早く行こう。
「あ!あの煙を見て下さい!」
ふと空を見上げていた井上が空を指差す。
森の木々のせいで見にくいが、確かに黒い煙が上がっている。
「もしかしたら誰かが場所を知らせる為にやったのかもしれません!」
井上さんの言う通りその可能性はありそうだが…煙が異常に大きい気がする。もしかしてあれって…
「あれって…山火事じゃないですか?」
「確かに煙が大き過ぎる気がするね。煙の発生源からそこそこ距離がありそうなのに、ここから見てこの大きさとなると…とても誰かが合図の為にやったとは思えない」
内野の言葉に新島が同意する。
だが今はその煙以外に目印が無いので、一先ず煙を目指して進んでいく事になった。
暫く森の中を走っていると異変に気がつく。近づいた事に大きく見える様になったのを考えたとしても、確実にさっきよりも煙が大きくなっている。
いや、流石にデカ過ぎるぞ!
ステータスが上がったから炎に当たっても問題ない…だとかあるのかは知らないが、危険を冒してまでわざわざこの先に進む必要は無いな。
黒い煙を見上げながらそう考えていると、その煙とは別の方向に赤い煙がある事に気がついた。
あ、あれは発煙筒か!?なら向こうに人がいるはずだ!
「あそこに行こう!誰か人がいるはずだ!」
内野が赤の煙を指差すと一同はその方を見る。
内野が皆の方を振り返った瞬間、木村の背後の山火事が起きている方向の草むらが揺れる。
「ッ!木村君後ろ!」
「え?」
内野が木村の元へ駆け付けるよりも先に、草むらから一匹の魔物が飛び出してきた。
その魔物の見た目は、全身が灰色の毛で覆われている尻尾が異常に長い狼。
狼は木村が振り返えるよりも早く接近し、木村の喉元に目掛けて飛びつく。
「ポイズン!」
新島は少し離れた所からスキルを使い、それは見事狼の下半身に的中した。狼は空中で態勢を崩したので、木村に嚙み付く事なく地面に落ちる。
その後は内野の攻撃によって首を切り落とされ、狼は絶命する。
内野がホッと一息つこうとすると、またしてもさっきと同じ方向にある草むらが揺れる。すると草むらからは数匹の見知らぬ魔物が現れた。
まだいるのか!しかも初めて見る魔物だからどんな攻撃をしてくるか分からないぞ!
突如現れた魔物に身構える一同であったが、魔物は内野達を無視して通り過ぎていく。
「な、何だったんだ今の…」
「もしかして…あの山火事が起きたから移動してきたのかな?」
内野の独り言に反応して新島がそう答える。
なるほど、だから向こうの方向から魔物が沢山現れたのか。
だが魔物でも、俺達への攻撃より山火事から逃げる事を優先する魔物もいるし、その逆の魔物もいるんだな。これは肉食か草食かで攻撃性が変わるのか?
だとすると、ここも現実世界の食物連鎖と同じ様な仕組みで世界が出来ているのか。
「助かりました、新島さんありがとうございます!
それにしても…今現れた魔物も襲って来てたら危なかったですね」
「魔物によって攻撃性が違うようで良かった。今の狼や兎とかは俺達を見た瞬間襲ってくるから、やっぱり魔物の種類によって違うようだね」
最初に見たコウモリもそうだが、魔物にも食物連鎖がある。という事は魔物に追われたとしても、他の魔物とぶつければそいつらで争う事もあるのかもな。
それにゲームとかで出てくる魔物とは違い、種類によって人間に攻撃してこない奴もいるかもしれない。
今度飯田さんに魔物の事についてでも聞こうかな。
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