第21話 討伐対象:コアゴーレム2

槍と光の玉を持ち前へと進む。

歩いていると次第に洞窟の道幅が広くなっていき、槍を振り回しても問題程度になっていた。

内野がそれに気が付いたと同時に、前方で何か金属が響く音が聞えた。


金属音…きっと誰かが魔物と戦っているんだ!助けに行こう!


そう思い急いで音の元へ走りだす。

この時の内野は、相手が自分よりも強い魔物かもしれないなどの可能性を考えておらず、ただ今戦っている誰かを助けるために動いていた。



走っていると、地面に赤色の液体が付着している事に気が付いた。

そして血痕は音のする方へと垂れており、近くには兎の様な生き物の死体がある。兎の死体には刃物で切られたような傷があった。


…もうこれが何なのか察しが付いた。誰かが魔物と戦ってコイツを殺したんだ。

だが人の死体は見当たらない、きっとこの先で戦っている人がやったんだ。


戦っている者が負傷している可能性があるので、一刻も早く到着する為に全速力で走る。

すると数十m先に三つの人影と、兎の様な生き物が二匹いる事が分かった。向こうの方にも光の玉を買った者がいるお陰で見えた。



三つの人影のうち、一人は血だらけで倒れており近くに光の玉が転がっている。残りの二人の内、一人は鉄の剣。もう一人は盾と兜を装備していた。

二人で二匹の兎を同時に相手にしておるが、二人とも満身創痍で余裕は無く壁に追い込まれているようだった。


魔物は俺の事にまだ気が付いてない…不意打ちで一匹は絶対に倒す!


魔物は目の前の二人に夢中で内野の存在に気が付いていないので、まず内野は手前にいる兎に向かって槍を突き刺す。


不意打ちだったのでその兎は槍を避ける事が出来ず、槍はいとも簡単に兎の身体を貫いた。奥にいた一匹もようやく内野に気が付き、鋭い前歯を出しながら内野の顔を目掛けて飛ぶ。

何とか頭を下げて兎の攻撃を躱し、兎は内野の後ろに着地する。


槍の刃の先端にはさっき貫いた兎の死体がついているので、自分の背後に回ってきた兎に対しては、槍の向きを変えないでそのまま後ろに突く。

当然槍の片側にしか刃は付いてないので大したダメージにはならなかったが兎は怯む。


そして内野は兎の死体が刺さったままの槍を、右足を軸にして後ろに踏み込みながらそのまま薙ぎ払い、後ろの兎に当てる。


すると鈍器で殴ったような鈍い音が響き、兎はその場で倒れる。ピクピクと少し足が動くが、立ち上がる気配は無い。


ふぅ…以外にあっさり終わってよかったな…


「その…た、助けてくれてありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます!」


近くにいた盾を持った兜を被っている男と、大学生らしき剣を持った男が、内野に向かって頭を下げてお礼を言う。


「あ…も、もう終わったのか…?」


近くで血まみれになり倒れていた中年の男が、無理矢理絞り出したような苦しそうな声でそう聞いてくる。

男は右脇腹と右の太股から出血しており、酷い怪我だった。


「大丈夫ですか!?」


「このタオルを使って血を止めましょう!」


内野が男の元へ駆け寄ると、大学生の男が中年の男の出血を止める為に鞄からタオルを出し、映画とかの見よう見まねでタオルで縛り、何とか血を止める。




「一先ずはこれで大丈夫でしょうか…」


「…ありがとう。それに私達の為に駆け付けてくれた君、本当に助かったよ…」


中年の男は内野含めた三人に感謝の言葉を述べる。


タオルで縛っただけだけなので不安はあるが…いつまでもここにいる訳にはいかない。数分程休憩したら移動しよう。


「あの…僕ら今回が初めてなのですが、これからどうすればいいのでしょうか…」


兜を被っている男が内野にそう聞いてくる。


あっ声高いな。って事は中学生ぐらいか?


「ああ…実は俺もこれが2回目だから…何をすればいいのかハッキリとは分からない。けど目的はゴーレムを倒すことだし、いつまでもここにいる訳にはいかないね」


「え、2回目なのにあんなすんなりと魔物を倒せたんですか!?凄いです!格好良かったです!」


「まぁ…人の命が掛かってて…魔物に対する同情だとか、殺す事への嫌悪感を抱く余裕が無かったから」


格好よかったと言われ少し照れる内野であった。




その後は休憩している間に皆の名前を聞くことになった。

最初は盾を持ってて兜を付けている男。


「『木村きむら そら』です。中学2年生の15歳で、さっきも言いましたがクエストは今回が初回です」


木村は兜を脱いで顔を見せる。

中学生なので顔にまだ幼さが出ているが、身長は内野と同じぐらいであった。



次は大学生ぐらいの男。


「僕の名前は『井上いのうえ 太一たいち』で、18歳です。木村君と一緒で僕も今回が初めてです」


背が180㎝以上で背が大きいが、明らかに年下の俺に対しても敬語を使ってるし…とても誠実な人なんだな。



次は負傷している中年の男。


「俺の名前は小田切おだぎり まさるだ。今回でクエストは6回目だが…情けない事に殆ど魔物を狩れてない無能で、今はこのざまだ」


ごく普通の男の人で、自虐気味に自己紹介する。


「そ、そんなに自分の事をそんなに悪く言わなくても…」


「違うんです!小田切さんは僕を守るために怪我したんです!」


内野の言葉に被せる様に井上が声を上げる。

そこからは井上がここに至るまでの事の経緯を説明し始めた。


----------------------------------

井上・木村は今回が初めてで、QPは武器など防具に使ってしまっており光の玉を買う余裕は無かった。なので二人共この真っ暗な洞窟の中で動けないでいた。

井上はそんな時に光の玉を持っている小田切さんが見え、駆け付け合流する。少し歩いていると次は木村と合流し、それで3人行動する事になった。


暫く3人で洞窟の中を進んでいると、小田切は何やら壁の中で何かが動く音が聞こえた気がした。


「二人共止まって。…壁の中から何か聞こえる」


「…本当ですね。な、何でしょうかこの音…」


小田切が二人に止まるように指示し、壁に耳を近づけ耳を澄ます。すると、土を掘るよう音がこちらに近づいて来ている事に気が付く。


この音…まさか…


こちらに近づいてくる音に嫌な予感がし、小田切は二人に壁から離れる様に指示しようと、井上達の方を向いた瞬間


近くの壁から鋭い前歯を持った兎の様な魔物が飛び出してきた。そして兎は壁から飛び出すと同時に、一番近くにいた井上目掛けて飛んだ。


「ッ!ステップ!」


小田切はすかさずスキルを使い井上の方へ飛び、井上の身体を押し倒す。そのお陰で井上は攻撃を喰らわずに済んだが、変わりに兎の牙が小田切の脇腹に刺さる。そのまま兎は小田切の脇腹を食いちぎる勢いで噛みつく。


小田切は兎を振り落とす為、右肘で何回も兎の頭を叩く。4回程で脇腹からは離れたて落ちたが、落ちる時に兎は抵抗し、太股にも嚙みつかれる。


そこで木村は盾で兎を殴りつけ、太股に嚙みつかれていた兎は怯み地面に落ちる。その後井上が兎を剣で切り殺した。


井上が兎の死亡を確認し、小田切の元へと駆け寄ろうとした瞬間。

またしても壁から兎が現れた。


さっきは小田切に嚙みついており隙だらけだったので魔物を倒せたが、今度は違う。

下手するとまだ物理防御が低い二人では死ぬ可能性があり、それを危惧した小田切は二人に逃げる様に促す。


「二人共!光の玉を持って逃げるんだ!」


「…ッ嫌です!ここで魔物を倒して三人で逃げましょう!」


だが木村は小田切の言う事を聞かずに前へ出て、井上と共に魔物と対面する。だがその後はなかなか両者とも仕掛ける事が出来ず、木村達は徐々に後ろへ下がっていっていた。


数分その膠着状態が続いていると、今度は後ろの方から兎が現れた。他の奴と同じ様に壁の中から現れ、一番後ろにいた小田切目掛けて飛んでくる。


小田切はスキルでそれを避けるが、激しく動いたので傷が痛み、その場で倒れてうずくまる。


他の奴が現れた事により、二人は分かれてそれぞれ一匹の相手をする事になった。それで二人は壁まで追い込まれ、絶体絶命の危機へ。

----------------------------------

「そんな時に貴方が現れ、僕らは助かったんです」


なるほど、我ながらナイスタイミングで現れたな。

話を聞く限り、このおじさんは井上さんを助ける為に負傷したのか。だったらあんなに自分の事を悪く言わず、もっと誇ってもいいのに。


「あの…これからどうするんですか?ここで待機か、この先を進むのか…」


木村が何やら不安そうな表情で内野に尋ねる。


俺は進むつもりだが、この三人を置いていくのは嫌だ。かと言って皆で進むとなると、小田切さんに無理させることになるしな…


「私の事はいい…君の好きなようにしなさい。これ以上進むのには…今の私は皆の荷物になってしまうだろう…」


小田切は内野が考えていた事が分かったかのようにそう声を掛ける。


…そう言われて置いて行ける程、俺は薄情じゃない。


「…いや、進みますが小田切さんも一緒に行きましょう」


「ッ!私は君に何かしてあげられる訳じゃないし、ただ君の負担が増えるだけだぞ?」


「それでも構いません。一緒に行きましょう」


「…そうか…ありがとう」


小田切さんは微笑み、木村と井上も安堵した表情になる。


「所でまだ君の名前を聞いていなかったね、名前を教えてくれないか」


「『内野 勇太』、普通の高校二年生です」


「内野先輩!よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします内野さん。僕も戦いのお役立てる様頑張ります」


木村は内野の事を先輩呼びし、井上は年上にも関わらず敬語でそう言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る