第6話 討伐対象:スライム1

気がつくと目の前には草原が広がっていた。20時とは思えないくらい空には青空が広がっている。


ここが異世界なのか…あまり異世界って感じがしないな。

取りあえず今は大丈夫そうだし、鎧の人の命令を聞こう。


そう思い内野が周りを見ると…誰もいなかった。

広い草原で内野は一人で立っている。


え、転移って全員バラバラになるの…?


自分一人で逃げないといけないと分かり、無くなったはずの恐怖が再び内野の中に現れた。


いや…冷静に考えれば分かったはずだ。もしも全員が同じ場所に転移するなら、鎧の人達があんな急いで説明なんかしない。

冷静になれてると思っていたが…全くそんな事なかったんだな。

だが、今はここで固まっている暇はない。

幸い周りに生き物もいないし、どうやら俺の願いが届いたみたい。とにかく4時間耐えれる隠れ場所を探そう。


隠れ場所を探すため、内野はボロボロの剣を片手に屈みながら一人で草原を移動することにした。



数分移動して分かった。今いる草原には木が所々に生えているくらいで、後は何も無い。数百メートル先には森があって、隠れられるのはそこぐらいしか見当たらない。

これだけ視界が開けていれば魔物が来ても早いうちに発見出来そうだけど…でもそれは向こうも同じ…この森に入った方がいいか?

でも森には虫もいるだろうし、それもどんな虫かも分からない…


結局森に入るべきか判断出来なかった。

取りあえず何かあった時に森に隠れられるので、今はここで待機することにし、周りを警戒しながらも鎧の人の言葉を整理する。


先ずはステータスから。

正直自分の感覚だけでは身体能力が変化したのかは全く分からない。

だが俺が今持っているこの剣、鉄製で金属バットよりも全然長い。だがそれにも関わらず、俺はこれを片手で軽々と持つことが出来ているし、動きにくい態勢で動いていても苦じゃない。

だから俺の身体能力が変わったのは確かだろう。


次はスキルだ。

俺の唯一持っているスキル『強欲』、名前からは効果が全く分からない。しかも他の人達と違って()中には何の数値も入っていない。

バグ?表記ミス?

名前を言えばスキルが使えると言っていたが…流石に今使うべきじゃないよな。もしもMPを凄い消費するスキルだったりしたら取り返しがつかないし。


そして最後に、ここでの出来事を誰にも話していけないと言っていた。

どうしてなのかは分からないが、話した所で誰も信じないだろ。


「うわあぁぁぁ!」「助けてぇぇぇ!」


ッ!?


そんな事を考えていると遠くから誰かの悲鳴が響いてくる。内野は咄嗟に態勢を低くし、周りに魔物がいないか警戒する。


魔物や人の姿は見ないが…声が聞こえてきた方向は俺が最初に転移してきた方向だ。心成しか叫び声が近づいてきている気もする。

森にはどんな危険が潜んでいるのか分からないが、草原で魔物に見つかるのは避けたい…森に入るしかないか…


こうして内野は苦渋の決断であるが森の中に入っていった。

当然道など無いので、木々をかぎ分け森の奥へ進んでいく。木々が生い茂っているので簡単に魔物に見つかる可能性は低いだろうが、それは内野も同じである。


もし魔物の接近に気が付くのが遅れれば、多分森の移動に慣れていない俺は捕まるだろう…そうなったら戦うしかないだろうが、やはりそれは避けたい。


出来るだけ早く魔物の接近に気が付けるように、しっかりと聞き耳をたてながら森の中を進む。


数十分進んでいると、前の方に植物が複数生えているエリアが見えた。

綺麗な紫色の蕾がついている植物があり、前に進むのにはそこを通らなければいけなかった。


これは…面倒だが避けて通るべきか。

植物だろうと油断しちゃダメだ、一見普通の植物だが、一か所にこんな集中して生えてるなんておかしい。


内野は右の方に向かい蕾のエリアを迂回する形で進もうとすると


ドスッ


後方で何かが落っこちる様な音が聞こえた。

嫌な予感がしたのですぐに振り向くと


カサカサ カサカサ


そこには二匹のゲジゲジの様な虫がいた。ゲジゲジと言っても小型犬ぐらいの大きさで、それを見た瞬間に全身から冷や汗が溢れ出す。

更に1匹は相お構いなしに内野の方へと接近してくる。


「うわああ!来るな!」


内野は慣れないながらも剣を前に構え、近づいてくるゲジゲジに剣を向ける。だがゲジゲジは止まることなく接近してくる。


「と、とりゃああ!」


内野は上に剣を振りかぶり、思いっ切りゲジゲジの頭に向かって振り降ろす。内野が剣を振り降ろした瞬間、何やらゲジゲジは口から緑色の液体を放出した。


剣は無事にゲジゲジの頭を真っ二つに切り裂いたが、放出された緑色の液体が飛び散り、それは内野の持っている剣にも掛かってしまった。


思ってた以上に戦える…この調子で奥にいるもう一匹も倒そう!


一匹倒したことで自信が湧いた内野は、奥にいるもう一匹にも向かって剣を構える。

…が、構えた剣はおかしな事に刃の部分がドロドロになっていた。


もしや…


さっきの緑色の液体で剣が溶けたと理解できた内野は、敵に背を向け猛ダッシュで逃げる事になった。

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