第9話 寄らないで。女臭いわ

  ◇


 後日。最恐聖女の手によって、アレク奪還作戦は成功。

 俺たちは、安堵の笑みを浮かべるアリーシアちゃんによって「皆さんのおかげで、アレクを取り返すことができましたぁ!」との報告を受けた。


 案の定アレクは王家によって軟禁されていて、その血を求めて毎日のように大量の採血と子作りのための女を無理にあてがわれる日々が続いていたという。


『やっぱり俺は、アリーシア様が好きですよぉ……!!』


 立ちはだかる衛兵の口から、次々とアレクの居場所と血を吐かせて駆けつけたアリーシアちゃんに、鎖で繋がれていたアレクが抱き着く。

 だが、誠に残念なことに。ひどく女の匂いがこべりついていたらしい。


『寄らないで。女くさいわ』


 誘惑には勝てなかったんだな……アレク……

 同世代だもの、気持ちはわかる。

 でもダメだ。

 アレクの行いに、その場にいる幼馴染ラヴァーズ(主に女性陣)は、揃ってNOを突きつけた。


「心に決めた幼馴染がいるのに、誘惑に負けてシちゃうとかありえない~!!」


「でもさぁ、十五歳だろ? 一番シたい時期だよ。おまけに童貞。二週間、毎晩我慢は無理でしょお」


「はぁ!? じゃあそういう泉くんは、幼馴染ちゃんのことが好きなのに、他の女の子に誘われたらシちゃうわけぇ!?」


 咲愛也ちゃんの問いかけに、泉はしれっと視線を逸らした。


 咲愛也ちゃんら女性陣は詳しく知らないようだが、泉は高校二年生で、彼の世界ではくそヤリチンで有名らしい。まぁ、顔自体は驚くような美貌の持ち主だから、モテるのもわかるといえばわかるんだけどさぁ。


 だが、相手にするのは必ず『黒髪で色白の巨乳』……彼の大好きな幼馴染ちゃんと似た条件を満たす者だけだ。端的に言って面影を重ねているし、むしろ目の前の女子は見ていないクズ。


 でも。それもこれも、彼女セフレを作っては別れてを繰り返すことで、少しでも幼馴染ちゃんの気を引きたいからだとか……

 ――引けてないっぽいけどね。


(やっぱ泉は、まずひねくれた性格をどうにかしないとだよなぁ……)


 泉の実情を知っている俺が残念――心配そうな面差しを向けると、泉に睨まれた。


「なに? 隊長まで、『初体験は幼馴染以外認めない』とか言うわけ? てかさぁ、その理屈でいうといざ幼馴染とスることになったとき、絶対もたつくだろ。そっちのがダサくて僕はヤだね。練習は必要だよ、練習は」


 会話の内容が内容なだけに、絵里香はさっきから終始頬を赤くして俯いている。

 だが、咲愛也ちゃんは椅子から立ち上がった。


「は!? 『練習』って……!? はぁ!?」


「……隊長。抜剣の許可を。初体験どうこうは別の話として、淑女レディの扱いがなっていない不貞な輩は、誅罰するといたしましょう」


「クラウスさん落ち着いて! 魔剣は抑えて!! 泉だって、幼馴染ちゃんとはまだ恋人同士なわけじゃないんですから、別に不貞というわけじゃあ――!」


「「あっ」」


(あっ)


 ――口が滑っちまった。

 『幼馴染と恋人同士でない』と言われた泉は、目に見えて凹んだ。

 事実だとしても、やっぱ凹むよなぁ……


 俺も絵里香が好きだから、なんとなくわかるよ……


「ご、ごめん泉! 悪気があったわけじゃなくて……!」


 泉はどこか寂しげに、さらりと銀髪を揺らす。


「別にいーよ。事実だし」


「ちがっ――!」


「ははっ、何も違くないさ。どうしてそんなに慌てるの? ほんと優しいんだなぁ隊長は。別に隊長は間違ってないでしょ。ただ、ここにいる女子たちや、のクラウス団長ダンチョが揃ってそう言うなら、僕も多少は日頃の行いを改める必要があるのかもね?」


「な――泉!?」


 声をかけるも、泉はひとり席を立ちあがり――


「……今日は帰る。隊長、扉出してよ」


 異次元を繋ぐ夢の扉は本来、俺の出しているものではない。俺の合図で女神のキューティが出し入れしているものだ。

 キューティは、せめて泉の話を聞いて慰めようとする俺よりも、泉の意思を尊重した。隣席の泉の背後に、するりと扉が現れる。


「待って!」


 引き留めようと腕を掴むと、「離して。ほっといて」と、振り払われる。

 その拍子に、鼻から上を隠していた俺の仮面が取れて――


「「あっっ……!」」


 急いで拾おうとすると、同じように仮面を拾おうと手を伸ばしてくれた絵里香と目が合った。


「え――?」


 驚きに、絵里香の瞳が見開かれる。


 その場にいたメンバーは揃って息を飲んだ。


「ヤバっ……! ごめん、たいちょ――!」


 泉が慌てて、右手を掲げて【影】を操る。泉の足元の影は黒いコウモリに形を変えて、絵里香の視界を塞ごうとキィキィ飛び回った。

 しかし――


「え……遥人はるひと?」


 ……どうしよう。


 ……バレた。

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