第8話 隊員たちのスペックが高すぎな件

 次の会議。

 過去未来、時間と空間を超えて数多の世界から集まった『幼馴染を愛する者たち』は……


 ぶっちゃけ、スペックが高すぎた。


「アレクが……特別な血を狙われて、王家に軟禁されているかもしれないの……」


 アリーシアちゃんの一言から始まった、緊急アレク奪還作戦会議。

 俺は隊長とか呼ばれているけれど、それはあくまで幼馴染関係専門で、元はフツーの高校生だ。戦いとか作戦だとかいうものには縁がない。


 しかし、先日幼馴染と晴れて結ばれ、今はOBとして参加しているクラウス騎士団長は違かった。

 麗しい顔面の眉間に皺をよせ、ふむふむ、と口元に手を当て唸る。


「軟禁……? 二か月に及ぶ音信不通――本来の主である、アリーシア殿に何の断りもなく? 明らかにおかしいですね。たとえアレク殿が、勇者に選ばれたことで王家に身を寄せることになったのだとしても。使用人としてはアリーシア殿のご実家に雇われている立場のはず。王家からご実家に連絡が来るはずです。『使用人の所属を変更させて欲しい』と――」


 会議室に満ちる沈黙が、急を要する事態であることをひしひしと伝えてくる。

 クラウスさんは、俺に「失礼、ペンと紙を」と断りを入れると、聖女に就任する際に王城を訪れたことがあるというアリーシアちゃんの証言をもとに、城の見取り図をすらりと描いていった。


「地下室の存在は?」


「聖女の就任式は一階の大広間で行われました。行ったときは特に気にしていなかったし、それらしいものはなかったように思うけれど……」


「では、この離れの棟は?」


「凄く高い尖塔で、物見のためのもの、と聞いています」


「ぶ厚い防壁と魔法障壁で守られた王都。その中央に聳える王城に、いまさら物見の棟ですか……? 地上はもちろん、飛翔種の魔物への対策もできているのに……?」


 たしかに。言われてみればおかしい気がする。

 そこまで言われて、皆はようやく気が付いた。


「明らかに、収容施設じゃん」


「だーよねぇ?」


「へっ――?」


 きょとんと目を丸くするアリーシアちゃんに、頬杖をついていた泉と、幼馴染を監禁したくてたまらない日々を過ごすヤンデレ乙女こと咲愛也ちゃんが言い放った。


「私ならぁ、幼馴染みっちゃんを監禁するなら地下か自室だな。なるだけ近いところに置いて、逃げられないようにして、完璧な体調管理とメンタルチェックは欠かさない。美味しいご飯に甘いキス。それを365日……ふふっ……!」


「妄想は大概にしときなよヤンデレ。てかさぁ、十中八九そこにアレクが捕まってると仮定して、アリーシアは戦えんの?」


「そうだ。それは重要だ」


 一友人としても、アリーシアちゃんの身に危険が及ぶことは避けたい。

 そうして、願わくば幼馴染であるアレクを奪還したい。

 そう思って、俺たち『幼馴染を愛で隊』は知恵を出し合っているのだ。


 問いかけに、アリーシアちゃんは自信なさげに視線を逸らした。


「私は、ただの治癒能力に秀でただけの聖女なので……風邪の病魔ウイルスを浄化したり、傷を癒したり、患者さんの免疫を高めるおまじないをかけたり……そういうことしかできません」


「とどのつまり、戦闘力はないと」


 クラウスさんは歯がゆそうに、腰に携えた黒い剣に手を当てた。


「アリーシア殿の世界に赴き、この魔剣を振るうことができたなら……!」


(世界に……赴く……)


 俺は思わず、キューティに視線で問いかけた。


『こないだみたいに、連れていけないの?』


 しかし、キューティは首を横に振るだけ。

 モールス信号的な動きで、俺に向かって机を叩く。


(『あ・ん・た・は・お・ば・け・だ・か・ら』……)


 そっか。


(そうだよなぁ……)


 俺、死んでるんだもんなぁ……


 だからこうして、アリーシアちゃんのために幼馴染ラヴァーズの皆を招集することくらいしかできない。


 肩を落としていると、場の空気に反して泉が明るい声をあげた。


「免疫高める系の魔法使えんの? なら戦えるじゃん」


「「へ??」」


「あー。僕さぁ、最近魔法少女ともども闇堕ちしたって言ったじゃん? それで、悪の組織に拉致られたって。僕のとこ(悪の組織)には、ドクトルマッディっていう天才科学者がいるんだけどぉ。その人いわく、『この薬を投与すれば、自己免疫細胞が著しく活性化する。でも使い過ぎると、有害でない、元々自分の中にいた健康な細胞まで攻撃しだして死の危険があるから、過剰摂取は禁物だよ』って」


 しれっと言ってくれるけどさぁ……

 なんかヤバイ薬渡されてるんですけど?

 それってドーピングじゃね? もしくは強化(狂化)戦士。


「泉の世界も、結構身体はってるよなぁ……」


 思わず口にすると、「ま。僕はあんなの使わなくても強いけどね」なんてナルシストな答えが返ってきた。そういうことじゃねーよ。


「でもこれで、アリーシアちゃんにも戦える可能性が……?」


 皆が一斉にアリーシアちゃんに視線を向ける。

 アリーシアちゃんは、蒼い瞳をきょとんと目を丸くして。


「……ふえ?」


 そうして、『治療魔法の過剰付与で敵の免疫ぶっ壊して内側から破壊する系最恐聖女』が爆誕してしまった。

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