第72話 これから、土下座の練習をしてくるので、16時間後に行きます

前回のあらすじっ!

 点を決めてやったぜ!以上っ!




 俺がついに均衡を破る一点をもぎ取る。俺が喜んでいる中、周りでは…


「おー!アイツキャプテンをドリブルで抜いて、点を決めたぞ!?」


「いや、きっとまぐれだろ」


「キャプテンが手を抜いてたんだな」


 そんなことを周りは言っていたが、凛は喜びの絶頂であったため、気づくことはなかった。




 そして、そのまま試合が終わり、俺たちのクラスが優勝となった。


(結局、誰がサッカー部のキャプテンだったのか、分からなかったなぁ。まぁ、手を抜いていたんだろう)


 そんなことを思っていたら…


「ねぇ、君。サッカー部に入らないか?」


 と、俺が敵意剥き出しにしていた、イケメンくんが話しかけてきた。


(えーっと……なぜ?)


「あの……嬉しい誘いではありますが、遠慮しときます。俺なんかが入っても、足を引っ張るだけです」


「そうか?本気でボールを取りに行ったんだが、取れなかったから、才能はあると思うよ。しかも、今、入部すれば、レギュラーになれる可能性もあるけど……。まぁ、気が向いたらサッカー部の見学に来るといいよ」


 そう言ってイケメンくんは走り去って行った。


(へぇ、あの程度で才能があるって言われるのか……。ウチの学校のサッカー部って弱小なんだろう)


 そんなことを思いながら、理央たちのもとへ向かった。


 ウチの学校のサッカー部が、全国でも有名な高校であることは、知らない凛であった。




 クラス対抗のスポーツ大会が終わり、帰りのHRとなる。


「えー、総合優勝おめでとう。私も担任として、鼻が高いぞ。朝のHRの時に、脅迫……ではなくて、喝を入れた甲斐があったよ」


「「「「…………………」」」」


(脅迫って言ってる時点で誤魔化せてねぇよ!)


「まぁ、あれだ………はよ帰れよ。解散!」


 そう言って教室から出ようとしたが…


「あ、言い忘れてた。おい!汐留!お前は後で生徒指導室に来い!いいな?逃げるなよ?」


「は、はい!」


(ヤベェ、帰りてぇ。俺、悪いことしたっけ?)


 と、必死に考える凛であった。




「凛くん!先生に呼ばれたけど、何かしたの?」


 と、理央が聞いてくる。その質問がしたかったのか、火口さんと先島さんも俺の席に来る。


「い、いやぁ………全く心当たりがないんだよ」


 さっきから必死に考えているが、一向に呼ばれた理由がわからない。


 すると、理央が……


「きっと、今日の活躍を生徒指導室でするんだよ!」


「じゃあ、生徒を指導する教室じゃなくてよくね!?」


(呼ばれた理由はわからんが、生徒指導室に行くってところから、怒られる未来しか見えないんだが!?)


「なぁ、先島さん。委員長だろ?これから、土下座の練習をしてくるので、16時間後に行きますって武田先生に伝えてて」


「言えるかっ!明日の朝8時頃やん!こんなしょうもないことで、委員長を使わないで!」


「えっ!委員長って困っているクラスメイトを助けてくれる係なんじゃないの!?」


「どんだけ都合のいい捉え方してるんだよ!普通に違うわ!」


(ちっ!委員長って言えばなんでもやってくれると思ってたんだが!)


「ねぇ、汐留くん。怒らないから、今、なんて思ったか言ってみて?」


「……………………」


「あー!みんなー!この動画の正体って…」


「わー!ごめんなさい!調子に乗りました!」


 一斉に教室に残っていたクラスメイトがこちらを向く。俺が、全力で先島さんに謝っているところを見て、クラスメイトたちは、各々の動きに戻る。


(ふぅ…なんとかなったか……。てか!マジで逆らえないんだけど!?)


バラされなくてよかったと安心していると……


「ね、ねえ!先島さん!そ、その動画の正体が誰だか知ってるの!?」


 と、ものすごい勢いで火口さんが食いついてきた。


(えっ!もしかしてスイッチ入っちゃった!?先島さんが少し引いてるんだけど!)


「え、えーっと……ウ、ウチは…」


「この人が演じているのは、“俺執事”っていうマンガの執事キャラで、ファンからはリュー様って呼ばれているキャラなの!でね!今、ネットではこの人の正体を探ろうと一所懸命になっている人が多いんだとか!私、その人に会えるといいなーって思いながら、今日アウトレットに行く予定なの!でねでね!この人はもしかして、この学校の……」


「えっ!なんで一人で盛り上がってんの!?」


(先島さんに喋らせる暇も与えず、ひたすら話し続けてるんだけど!)


 今もなお、一人で話し続けているが、俺や理央、先島さんは聞いてない。


 そして…


「集合ー!」


 と、先島さんが招集をかける。その呼びかけに、俺と理央は応える。この呼びかけに応えたくはないが、他人事ではないからな。


(ごめんなさい、武田先生。当分、生徒指導室には行けそうにないです)


 心の中で謝りながら、先島さんのもとへ向かう凛であった。

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