第47話 『一章完結』俺は今日、あの日助けてもらった女の子にようやく再開することができたんだな

前回のあらすじっ!

 ナース服って…………ヤバいな…………。以上っ!




 ガチャガチャコーナーを出て、再び涼風さんにどこへ行くのか聞く。時間帯も夕方となっているため、次が最後かな?と考える。


 すると…


「最後は屋上に行きます!」


 そう言って涼風さんは屋上へ続くエスカレーターを目指して歩きだす。


 しばらく歩くと…


「わー!相変わらずここの景色はいいね!」


「夕日も見れるから、ホントに眺めがいいんだよなぁ」


 日が落ち始めているため、屋上から夕日を見ることができた。


「でも、ここは昔と比べると大分変わってしまったね」


 と、少し残念そうな声で言う。


「そうなんだよなぁ」


 昔の屋上は、子どもたちが遊ぶことのできる遊具がたくさん設置してあったが、今は全てなくなっており、ゆっくり散歩できるよう改良されている。また、屋上から眺める景色も、ビルが増えたことにより、眺めも昔と比べると悪くなっている。


(こうゆうのも悪くないな)


 そう思いながら二人とも、静かに景色を眺めた。




 しばらく眺めていると、涼風さんがポツポツと話し出した。


「私はね、小学校6年生の春休みの時に両親と一緒にここの近くに住んでいる祖父母の家に遊びに来たんだ。その時に、ここのアウトレットに来たんだけど、そこで私は迷子になってしまったの。ここには初めて来たこともあって、どこにいけば助けてもらえるのかも分からずに、自動販売機しかない場所に、泣きながら座ってたの」


(あぁ、そこが今日最初に行った自動販売機しかなかった場所か)


「そこは訪れる人が全然いなくて、“このままパパやママ、お姉ちゃんに会えなくなるのでは?”と本当に思ってたの。その時に一人の男の子と出会ったんだ。そして、その男の子に連れられていろいろな場所を巡ったんだ。最初は駄菓子屋、次に子どものおもちゃ売り場、その次が、ガチャガチャコーナー、そして最後にここ、屋上」


 そう言って涼風さんは夕日を見る。


「あの時、その男の子に出会わなければ、こんな私になってないと思う。それくらい、私にとっては大事な出来事だったの」


 涼風さんは夕日を見ながら続きを語る。


 そして、俺の方を向き…


「今日はね。私の思い出の場所を汐留くんと一緒に巡りたかったんだ!無くなってた場所もあったけど、とても楽しかったよ!」


 そう言って笑顔になる涼風さん。


(俺は涼風さんが語った内容を知っている。いや、覚えている。なぜなら俺も、小学校6年生の頃に、今日、最初に行った自動販売機のところで、迷子の女の子に出会った。そして、そこからいろんな場所を巡って、最後に屋上へ行ったんだ)


 そう考えて、俺は一つの結論に辿り着く。


(あぁ、そうだったんだ。俺とアウトレットに行ったことや、俺と出会った場所、俺と行ったことのある場所を今日、巡ることで、俺に思い出して欲しかったんだ)


 そう思うと俺はとても嬉しくなった。


(あの頃は俺も迷子の女の子に励まされたし、親へ何かを言う勇気をもらった。だから俺も、今の俺がいるのは、あの出来事のおかげだ。そう自信を持って言える。おそらく涼風さんは、その時の男の子が俺だと気づいている。あの時、屋上で別れ際に俺だけは名乗ったからな。じゃあ、俺が今からすべきことはただ一つだ!)


「涼風さん。俺も小さい頃、迷子の女の子に出会ってね。その時の俺は父さんからの厳しい言いつけや、ボクシングの練習が嫌になって家を逃げ出して、一人でアウトレットに来てたんだ。俺はその女の子を見た時に、何故か“助けなきゃ”って思ったんだ」


 涼風さんは俺の話を真剣に聞いている。


「でも、今ならその理由がわかる。俺はその時、迷子の女の子を見て、自分の価値を高めたかったんだと思う。父さんから言われたことができなかった俺は、自分は“価値のない人間”、そんなことを思ってた。でも、迷子の女の子を見た時に“俺でも女の子を助けることができる!”と思ったんだ。いや、思いたかったんだ。それはつまり“俺には価値がある”と自己満足がしたかったんだ。だから俺は自己満足のために、その女の子を利用した」


 そう言うと涼風さんは表情を暗くする。


「そして、女の子を迷子センターに連れて行こうと思った時に、女の子がこう言ったんだ。「君はとても優しいんだね」と、泣きながら笑顔で言ってくれたんだ。その時に俺は、多分“助けなきゃ”ではなく“笑顔にしなきゃ”、そう思ったんだ。理由は女の子の笑顔がもっと見たくなったから。本当なら、その迷子の女の子はすぐ両親の下へと連れて行った方が笑顔になったかもしれない、その両親をすごく心配させてしまったかもしれない」


「そ、そんなこと…」


 と、涼風さんが何やら言おうとしていたが、俺はその言葉をかき消すように…


「つまりは“俺には価値がある”という自己満足と、“女の子の笑顔がもっと見たい”という自分の願望のために女の子助け、連れ回し、その両親を困らせた。全て自分の自己満足のために、そんなことをしたんだ」


 そこで俺は深呼吸をする。


「なので、迷子の女の子……いや、涼風さんから感謝される筋合いはない」


 そう俺が告げると涼風さんは、目に涙を溜めながら…


「なんでそんなことを言うの!私はあの時、ホントに汐留くんに助けられてよかったって思ってるんだよ!なんで……なんでそんなに自分を卑下するようなことを言うの!」


「それは、俺が涼風さんを助けたくて助けたのではなく、俺の自己満足のために助…………」


 “けたから”……そう言おうとした時に涼風さんから抱きしめられた。


「!!!!」


 急なことで反応できず、驚いていると……


「何度も言うけど、私はあの時、汐留くんに助けられたから、今の私がいるの!いろいろ連れて行ってくれた時、私を笑顔にさせようと工夫してくれた汐留くんがいたから、私はアウトレットを楽しむことができた!汐留くんは、早々に両親と再会させてたら、もっと笑顔になってたんじゃないか?両親を無駄に心配させることにはならなかったんじゃないか?そう思ってるんでしょ?」


「あ、あぁそうだ」


(ホントに申し訳ないことをした。そう本気で思ってる)


「それなら大丈夫だよ」


 そう言って俺を抱きしめていた手を離し、俺の顔を見て笑顔で…


「私は汐留くんと楽しく過ごせた、あの1日は今でも大事な思い出だから!だから謝る必要なんてないんだよ!」


「っ!」


 そう言ってくれた。その言葉を聞いた時、涙が溢れてきた。涼風さんが心の底からそう思ってると伝わってきたから。


「俺は謝る必要なんて……ないんだな……」


 そう、涙を堪えながら言う。


 すると…


「うん!そうだよ!だから改めて……あの日、私を助けてくれてありがとうございます!これからもよろしくね!汐留くん!……いや、凛くん!」


 そう、涼風さんは少し目に涙を溜めながら、笑顔で言った。


 だから俺も…


「ああ、俺の方こそ、あの時は助けてもらったんだ!これからよろしくな!涼風さん!」


 と、満面の笑みで涼風さんに応える。


(あぁ、俺は今日、あの日助けてもらった女の子にようやく再開することができたんだな)


 そう思いながら俺たちは笑い合った。


〜一章完結〜

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