第26話 全く、困った子猫ちゃんだな

前回のあらすじっ!

 火口さんをもとの状態へ戻すため、俺は覚悟を決める!以上っ!




 先島さんからヘアゴムを借りて髪を結ぶ。


 すると…


「あちゃ〜」


 と、呟く涼風さんと…


「…………………」


 無言になる先島さん。だんだんと顔が赤くなり、俺と目が合うと“パッ”と目を逸らされる。やっぱり目を逸らしたくなるくらい酷いんだなぁと心にダメージを負う。


「これは涼風さんが必死になって止めようとする気持ちがわかるなぁ」


「でしょ、汐留くんの妹さんも必死なんだよ」


「あー、妹さんも外ではしない方がいいって言ってるらしいね。確かにこれは目的地になかなか着かないわ」


 と、何やらコソコソ話してる二人。いや、この至近距離なんだから聞こえてるし。


(どうやら先島さんも納得の目つきの悪さらしい。ホントに外ではしない方がいいとのお墨付きまでいただきました………。嬉しくねぇよ、そんなお墨付き)


 コソコソ話が終わったのか、先島さんが俺の方に向いて


「じ、じゃあ!“顎クイ”というものが、ど、どんなものか説明します」


 まだまだ顔が赤くなってるが、一所懸命に俺へ説明してくれようとしている。時々目を泳がせながらだが……。


(やっぱり先島さんはいい人だなぁ。俺の目つきが悪くても俺の目を見ながら話してくれる……。妹よ、お兄ちゃん今日は髪を結んで良かったと思ってるぞ!)


「“顎クイ”というのはね、えーっと汐留君が指先で女の子の顎を引き上げることを言うんだよ!」


「ふむふむ、なるほど………って!できるか!!」


 何それめちゃくちゃ恥ずかしい行動やん!え、これにハマってるの!?火口さん!?


「いやいや!ホントにこれを“顎クイ”って言うんだよ!」


 涼風さんも「うんうん」と言ってる。マジかぁ。


「ちなみに、汐留君には“顎クイ”して、相手の目を見ながら“全く、困った子猫ちゃんだな”って言ってもらいます!」


「いや、誰が言うか!そんなこと!」


 さらに難易度を上げる先島さん。


「“顎クイ”ってそういうものなの!」


「マジかぁ」


 俺は落胆する。“顎クイ”とかわけのわからないものが流行するこの世の中大丈夫か?


「えー、“顎クイ”ってものがどんなのかわかってなかったようだから、えーっと、ウ、ウチが練習に、つ、付き合ってあげるよ!」


 と、先島さんからありがたい申し出があった。顔を赤くし、意を決して言っている様子が見られる。


(あぁ、ホントは陰キャの俺にしてほしくはないんだろうけど、火口さんを助けるために仕方なくって感じかな。先島さんが頑張るんだ!ホントに申し訳ないが火口さんを助ける(恐怖で現実に)ために俺も頑張って演じよう!)


 と、決意を固めたところで……


「ちょ、ちょっと待ったーーー!」


 今まで静かだった涼風さんがいきなり大声を上げる。


「さ、先島さん、なんか、嫌がってない?そ、それなら、わ、私がされてもいいんだよ!?」


 と、涼風さんも申し出てくれる。


(あ、やっぱり涼風さんから見ても、先島さん嫌がってたんだな。どうやら俺の見立ては間違ってなかった!)


「いやいやいやいや、私嫌がってなんかなかったよ!?全然!むしろしてほしいくらいだし!!」


 慌てて、そのように言う先島さん。強がって言ってるようにしか見えない……。


「二人とも申し出てはありがたいんだけど、そろそろ火口さんをもとに戻してあげないと……」


「「あ……」」


(こいつら忘れてやがったな!)


「俺の“顎クイ”?ってやつで戻ってくるかわからないんだから、はやめに動かないと!」


「ま、まぁ、されたら戻ってくるとは思うんだけど……」


(うん、俺もそう思う…。至近距離でこんな怖い顔した男にされたらトラウマになるんじゃなかろうか……。そう考えると火口さんに申し訳ないな。やった後に全力で土下座しよう。……だって俺が恐怖で戻すしか方法が思いつかないって言うし………)


「こうなったらジャンケンで決めるよ!」


 と、先島さんが提案する。


「そうだね、それしか方法はないね!」


 二人ともこれから大事な戦いが待っているかのような気合いに満ちた表情だ。


(二人とも、気合い入れて俺からの“顎クイ”を避けようとしてるんだな。……あれ?目から汗が……)


「「ジャンケン…ポン!!」」


 涼風さんがチョキ、先島さんがパーを出す。勝った涼風さんはものすごく嬉しそうな表情を、負けた先島さんは心底残念そうな表情をする。


(うわぁ、負けたからってそんな嫌な顔しないでほしいなぁ。そんな顔してる人に今から“顎クイ”するんだなぁ……。ホントごめん、先島さん!)


 そう思い、改めて決意を固めてから先島さんのもとへ移動する。


「さ、さぁ!私が勝ったんだから………あれ?汐留くん?どこに行……」


「全く、困った子猫ちゃんだな」


 と、先島さんの顎をクイっと上に上げて決め台詞?を言う。もちろん目線は要望通り逸らさずに。


 すると


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


 顔を耳まで真っ赤にして声にならない声を上げる先島さんと、なぜか頬を膨らませて怒っている涼風さんがいました。


(ん!?罰ゲームなのに、何で回避できた涼風さんが怒ってるの!?)


 と、真剣に考える凛がいた。

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