第4話 やっぱり陽キャはコミュ力がデフォルトで遺憾なく発揮される生き物のようだ

「あ、そーだ!ライン交換しよ!」


 涼風さんがスマホを持ちながら提案してくる。


 ラインとは無料で連絡を取ることができるスマホのアプリで、なくてはならないアプリの一つとなっている。


「いいけど…」


「やった!」


 涼風さんが笑顔で喜ぶ。


 そして、手慣れた様子で連絡先を交換する。


(なんだ、この交換までの手際の良さは。やっぱり陽キャはコミュ力がデフォルトで遺憾なく発揮される生き物のようだ)


 俺は改めて実感していると、“ピコン!”とスマホが鳴る。


(おぉ…この俺に母さんや妹、幼馴染以外の女性と連絡先を交換する日がくるとは…)


「改めまして、私は涼風理央!よろしくね、汐留くん!」


「あぁよろしく、涼風さん」


 俺たちはお互いに挨拶をする。


(まぁ、同じクラスっていうだけで交流はほとんどないだろう)


 そんなことを思っていると…


「あー!汐留くんも弁当なんだ!自分で作ってるの?」


 そう言いながら俺の弁当を見るために近づいてくる。


 今までは距離が近いものの肩が触れ合うことはなかったが、俺の弁当を覗き込むために“ピタッ”と肩が触れ合う。


(いい匂いがする……って変態か!)


 俺はできるだけ気にしないよう注意しつつ…


「い、いや妹が作ってるんだ。妹は中学生で昼は給食だから、俺だけのために毎回作らなくてもいいって言ってるんだけど聞かなくて…」


 今日も俺の弁当を作るため、朝早くに起きたらしい。


「そーなんだ…あ!それなら、これからは私が汐留くんの弁当も作ってくるよ!」


 名案かのように堂々と言う。


「そんなことしなくても大丈夫だよ。それだと涼風さんに迷惑がかかるし」


「いいのいいの!私の弁当は自分で作ってるから、1個増えようが大した手間にはならないよ!」


「へぇ、その弁当は涼風さんが作ってるんだ」


 涼風さんの弁当をみると、卵焼きやきんぴらごぼう等、冷凍食品メインで作る弁当ではなく、手作りで作っている弁当のようだ。


「でも、そんな…」


「遠慮なんかしなくていいよ!」


 俺の顔を涼宮さんが見つめる。


「じゃ、じゃあ明日だけお願いしようかな…」


 結局、涼風さんの提案を断ることができず、明日だけお願いをする。


 その返答が正しかったのか…


「うん!任せて!」


 涼風さんが満面の笑みで応えてくれる。


(笑顔がかわいい女の子だなぁ。この笑顔を見れただけでお願いして良かったって思ってしまうよ)


 そんなことを思いつつ…


「じゃあ、ぼちぼち弁当を食べようか」


 俺は涼風さんに弁当を食べるよう促す。


「そうだね!話してると食べる時間がなくなっちゃうし!」


 俺が促すことで、涼風さんは箸を動かす。


「そういえばすごいね、毎朝手作り弁当を作るなんて。大変じゃない?」


「最初は苦労したけど、慣れるとそこまで大変ってわけじゃないよ!夜のうちに準備できるものもあるからね!」


「すごいなぁ、俺なんて料理は全然作れなくて、毎食妹に作ってもらってるんだ。ホント、妹に頭が上がらないんだよなぁ」


 俺の両親は2人とも仕事で忙しくて家に何日も帰ってこないことが多く、普段は妹と2人で暮らしている。


 そのため、家事を分担してるのだが、どうしても料理と洗濯だけは俺にさせてくれない。妹の役割の一点張り。


 なので俺がやってる家事は掃除と妹の買い物に付き合うくらいで、料理スキルは一向に上がらない。


(ダメ人間まっしぐらだなぁ。でも、家事をさせてくれないし…)


 そんなことを思っていると…


「妹さんの卵焼き美味しそうだね!」


 涼風さんが俺の弁当の中に入っている卵焼きに目をつける。


「そーなんだよ!とっても美味しくて、俺の好きな食べ物の一つなんだ!」


「へぇー、そうなんだね」


 そう言って何やら考え込む涼風さん。


 そして…


「じゃあ!私の卵焼きもあげるよ!」


「え!いいの?涼風さんの分がなくなっちゃうけど?」


「うん!私は大丈夫!…妹さんに料理で負けてはいられないからね…」


(うん?最後の方は聞こえなかったけど、大丈夫ならいただこうかな)


「じゃあ、遠慮せずにいただくよ」


「はい!それじゃあ……あ、あーん」


 涼風さんが顔を真っ赤にして、箸を俺の口元へ持ってくる。


「え!そ、そこまでしなくても」


「い、いいの!あ、もしかして汐留くん。恥ずかしがってる?」


 赤面していた顔が一転、今度はニヤニヤした顔となる。


(いや、涼風さんも恥ずかしんでしょ…)


 ここまで涼風さんにされて引くわけにはいかないので…


「あ、あーん」


 俺は意を決して、涼風さんから差し出された卵焼きを食べる。


「ど、どうかな?」


 涼風さんが心配そうな表情をしつつ、上目遣いで聞いてくる。


(どうって言われても……恥ずかしくて味がわからない!)


 しかし、そう伝えるわけにはいかないので…


「美味しいよ?」


「よかったぁー」


 安堵する涼風さん。


「じゃあ、明日の弁当もこの味付けで卵焼き作るからね!楽しみにしてて!」


「あ、あぁ」


(ってことは、舞に弁当いらないことを伝えないといけないのか……明日のお昼は弁当を二つ食べることになるかも)


 そんなことを思いながら、残りの昼休憩を過ごした。

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