第15話 杖を置く私

あんたはバカか!バカなのか!

そんな約束をして!死にたいのか!

と激怒する鬼人族。


そして言う。

「ウォッカさんの作るモノ。

 それは兵器だ。」


存在してはいけないんだ。

生きとし生けるものが

手にしたらいけないモノだ、と。


すこし酔っぱらっている

ウォッカさんが

近づき笑いながら言う。


「あら、仲良くしてるじゃないの。

 で、兵器が何だって?」と。


宴会はウォッカさんを中心に

楽しくそして全員が笑いながら

過ぎてゆく。


ユウキも鬼人と腕相撲をしている。


宴もたけなわだったがお開きになった。

私はユウキと準備された家に入り

ユウキを寝かせる。


そしてドルイダスに貰った薬を飲む。

「うげぇええ。苦い」

私は息を吐いてその匂いを嗅ぐ。

「くっさい」と水でうがいをする。


そしてユウキの横に寝る。

「苦いなぁ、薬。」と独り言を言う。


本当に苦い。


なんで鬼人族はあんなに

楽しそうなんだろう。

里を壊している私達人間とも。


なんで人間達は同じ人間なのに

争うのだろう。


あの人間は言った、

精霊がどっかいけばいいと。


なんて人間は自分勝手なのだろう。

勿論、そんな人間だけではない。

私は知っている。


私はなんて愚かなのだろう。

もう嫌だな、争う事なんて。


魔法を使うなんて。

人間・・・いや、何かを

殺すなんて。


そして私はいつのまにかに

ユウキを抱きしめ寝ていた。


朝、ウォッカさんが迎えに来る。

私は準備をしてユウキの手を引き

外に出る。


鬼人たちが私達にお礼を言う。

本当にありがとうと。


それは昨日聞いたというと

「ありがとう」は何度言ってもいい。

と笑顔で言った。


そしてウォッカさんは笛を吹く。

私達の足元に魔方陣が現れ

私達は転移した。


そしてエルピスのいる前に。

エルピスは何かをせっせと縫っている。


その手を止めると私に言う。


依頼達成ね、鬼人たちを助けてくれて

ありがとう。と。


私は言った。

でも人間を殺しました。と。


エルピスは言う。

人間だもの。

仕方ないんじゃないかしら。と。


私は聞く。

他の種族はどうなのですか。と。


エルピスは言う。

私の知っている限り、喧嘩は

あるけども殺しはしない。と。


沈黙が流れる。

それを壊したのは私だ。


転移は・・・異世界ですか?と。

エルピスは頷いた。


人間だけの世界。殺し合いの世界。

何故ですかと私は聞く。


ある男は言った。

その世界は人間しかいないと。

その世界は確かに争いが多いと。

その世界は悲しいことだらけだと。


だからこそ真剣に考えられる。

人間として何をするべきかを。

自分たちは何をするべきなのかと。


いいかえれば、

とエルピスは言うと


何かをするという事を心に決めている

お前はそっちの世界の方が

向いているかもしれない。と言った。


そこはもう魔法を使わないで

いいのでしょうか。と私は聞いた。


その世界には魔法はない。

使ってもいいが使わない方がいい。

異端として扱われる。


私は少し考えいう。

ユウキのここでの、記憶を

今までの記憶消すことは

可能でしょうか。と。


意味も解らず追われ、意味も解らず

人を殺してしまった勇樹の記憶。


消すことはできないが封印は出来ると

エルピスは言った。


私を母さんと呼ぶことも、

自分がユウキと呼ばれるのも

当たり前と思うようにも

記憶を植えると。


ただ、あくまでも魔法なので

解ける可能性もあるとも付け加えた。

強い感情への衝撃を受けたりして。


私はそれをお願いした。

ユウキは飲み物を飲んでいる。


貴方の記憶も封印しようか?

とエルピスは言った。


私は答える。


私は大丈夫です。

多分、あと何年かしたら

この記憶は薄れていき、最後には

この記憶は、ここの世界の記憶は

無くなるかもしれません。


実際、ここ数日で

少し進行が見られます。


でもユウキを大切にしたいと言う

気持ちは何故か薄れません。


それだけで十分です。

ユウキに苦労を掛けるかも

しれないけれども。


でもいつかユウキが私の手を離れ

この世界に戻ってきた時に

困らないようにはしたいと思います。


どんな手を使ってでも。


私はふと思いつく。

「ウォッカさんの娘さん、

 もしかして異世界に行ってる

 可能性があるのでは?」と。


ウォッカさんは言った。

「その可能性も強い。でも

 帰ってくるすべがない。」

というと続けた。


もし仮に向こうにいなかった場合、

こっちにいた場合はどうなる。

だからこっちを徹底的に探した後に

向うへ行く。


もしも向こうに行っていても

バーボンの子供だ。どうにかするさ、

私が来るまで。と。


「じゃあ向こうで私が探します。

 もし居たら私が送り届けます。

 どんな手段でも」と私は言う。


そうだな、そうしてくれ。と

ウォッカさんは優しく微笑みながら

私の頬に頬をくっつけ

抱きしめる。


この世界の色々は気にするな。

ただユウキと暮らし幸せになれ。

そして立派に育てろ。


そしてありがとうと言わせてやれ。


エルピスはユウキに手をかざす。

ユウキは眠る様に意識がなくなった。


それを見て私はエルピスに言う。

「この杖はもういりません。

 持っていてくれますか?」と。


もしもこの杖を探すモノが居たら

人間と亜人との懸け橋になるような

モノが現れたら渡してください。


私が使っていたことは

内緒にしてください。

何かの争いに

巻き込まれるかもしれません。


そういって私はエルピスに

杖を渡した。


私は目を閉じる。そして思う。

サンテミリオン様、ごめんなさい。

私がユウキの、ジェニエーベル様の

母となります。でも立派に育てます。

だから・・・。と。


「思いつめたらダメよ、ダメダメ。

 がんばって。あなたに預けて

 よかったわ。」


サンテミリオン様の声が

聞こえた気がした。

いや聞こえた、確かに。


エルピスは言う。

確実にその世界へ送り届けてあげます。

このバーボンが持っていたモノを

依り代にして。


そしてエルピスは魔法を唱えた。

私達は光に包まれそして

眩しくて私は目を閉じた。


一時して目を開けると

目の前に大きな2本の樹木。

潮の香りがする。


空気が違う事はすぐに分かった。

多分もうここは異世界だ。










































 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る