第10話 エルピスと話した私
ここに来て5日目。
わたしはもう十分に動けるようになった。
ジェニ様とこの辺りを散歩する。
精霊の里。書物で読んだよりも
目の前は幻想的で、緩やかで、
安らかな雰囲気の場所。
しかし、時たま焼け焦げた場所もある。
ジェニ様は私の事を
「かあさん」と呼んでいる。
部屋の中ではミネルヴァなのに。
多分約束を守ているのだろう。
私は立ち止まりジェニ様に言う。
・・・言ってしまった。
ジェニ様?「ミネルヴァ」と「かあさん」と
呼ぶのはどっちがいい?と。
ジェニ様は少し考えながら言う。
「かあさん」かなと。
何故かを聞く私。すると
「ミネルヴァ」って名前は長いから
言いにくいので「かあさん」なのだと。
「一文字しか変わらないのにね。
それもちっちゃい一文字よ。」と。
私は笑う。そして笑いながら涙が
こぼれるのを我慢した。
「でもウォッカも長い名前は
嫌いって言ってたよ」と
ジェニ様は頬を膨らませ言う。
じゃあジェニエーベル様はユウキ様ね。
ジェニエーベル様って名前は長いしね。
だから「ユウキ様」ね。
そうするとユウキ様は
「様はいらないよ。だって名前長くなるし」
と笑いながら言った。
そう言いながら散歩をする私達。
こんな時間が続けばいいな、と
私は心の底から思っている。
私はずるい。サンテミリオン様に
合わす顔がない。でも・・・。
そして一日が何となく終わる。
ユウキを寝かせて私は
薬を飲む。そして私も横になる。
しかし、寝る時に別な意味の
涙がこぼれる。私は後から気づく。
あの時に、言った言葉は多分
年相応ではなかったと。
でもそれすら気づかなくなるだろう。
そう思うと怖くなる。
次の日、スコティさんが頼みごとをしてきた。
見てほしいものがあると。
スコティさんに連れられて行った先は
昨日、ユウキと散歩した時に見かけた
焼け焦げた場所。
「なんで焼け焦げているかわかるかにゃ?」
とスコティさんは言う。
私は火事ですか?と言うと
スコティさんは首を振り言った。
ここはエアスト大陸と繋がっているにゃ。
エアスト大陸のある場所が燃えれば
ここも燃えるにゃ。
特に精霊が住むような所が燃えると
被害が甚大にゃ。
つながっているから精霊使いは精霊を呼べる。
でもつながっているのは魔方陣を介して
じゃないにゃ。
魔方陣は只の風洞にゃ。行きやすく
精霊使いがしているだけにゃ。
向うにいる精霊は、まだいいにゃ。
でもこっちの精霊は召喚される事に
少し抵抗があるにゃ。
自分たちが知らない所で何かが
起こるだけで、ここも何かが起こるにゃ。
いい迷惑にゃ。
と言うと突然「にゃ」言葉が消える。
人は、人間はただそこだけ。
目の前の事しか見ない。
自分たちがした事が、見えない所で
色々な所に影響を及ぼしている事を
知らない。というか、わからない。
何故ならば自分と言うモノが
中心だからだ。
人間は目で世界を見る。しかし
己は鏡でなければ見えない。
だから勘違いをする。
自分を中心に世界が動いていると。
それが集まるとどうなる?
争いが起こる。何故ならば
自分が中心だからだ。
自分が見えていない為に自分を
理想と勘違いしている。
自分の考えこそが理想だと
他者を否定する。
よく考えてみろ、人間だけだ。
同族で争うのは。否定するのは。
ある男が言った。
「俺のいた世界は人間しかいない」と。
私は聞いた。
では争いはないのか。と。
その男は言った。「争いだらけだ」と。
人間はどの世界に居てもそうなのだ。
自分以外を否定する。
人間と言うモノを理解が出来ない。
だから私達は人間を「悪魔」と呼ぶ。
その男に私は言った。
「お前の世界は悪魔が闊歩する世界なのだな」
と。するとその者は否定はしなかった。
しかし「いい悪魔もいるんだぜ?」とも
言っていたがな。
お前たちがバカノラと言う大地。
あそこは元々精霊の里の一部だった。
というよりも大部分だった。
あまりにも被害がひどく、私が
ドルイダスに言い、そこを切り離した。
広い大地なのに人間は見向きもしない。
何故ならば何もないからだ。
何もないから見向きもしない。
自分が生きている間に自分が
恩恵を受けないからだ。
もう存在こそが呪いだ、人間は。
100年も生きられないのは。
創造神とは言われているが「アレ」は
人間と言う存在が生まれた後に
誕生している。何故か。
人間の、人間が手に負えない時、
自分が手に負えない時にすがるモノ。
自分以外の人間にはすがらない。
何故ならば自分が一番優れていて
自分より劣っている者に
縋りたくはない。
だから自分の中にしかいないモノに
すがる。それが具現化した存在。
その集合体がエアストだ。
先ほど言った男はこの話を聞いた時に
「まさに自己中心ならぬ自己中神だな」と。
言いえて妙だった。
私はその男を気に入った。
その悪魔しかいない世界から来た男を。
その異世界からきた悪魔を。
お前は人間に縋った。神ではなく。
まぁ、魔族になった人間だがな。
だから生きた。生き延びた。
だから子供は助かった。
私の元に来るのです。
このエルピスの元に。
「だそうだにゃ」とスコティさんは
言う。・・・元に戻った。
ユウキはキョトンとしている。
しかし続けて言う。
「人間って悪魔なの?」と。
私は否定が出来なかった。
そして言ってしまう。
「そうかもしれませんね」と。
「僕はみんなと仲良くなりたいな」
とユウキは言った。
私は思った。いや、心に誓った。
その思いが変わる事のない様に
育てようと。
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