第9話 母親を教えてもらった私

私が寝ている間、ウォッカさんは

ジェニ様の相手してくれている。


スコティさんはあっちにこっちに

走り回っている。


私はここで寝ている間にウォッカさんに

言われていることがある。


何故、そんな体で無理をしたら

いけないかわかるか?

何故中途半端に、ただ口だけで

「大丈夫」と言ってはいけないか

わかるか?と。


答えは「死ぬからだ」と。


じゃあ何故死んだらいけないか

わかるか?


答えは

「ジェニエーベルが1人になるからだ」

と。


勿論私はサンテミリオンから

小鳥でジェニエーベルを探すように

託された。しかし、私は

それよりも大事な、そう。

やらなければならない事がある。


娘を探す事。そしてこの腕で抱きしめる事。

それはどんなことよりも重要だ。

この大陸がどうなろうが、だ。


たまにこんなことを言うバカが居る。


目の前に親友の子供と自分の娘が瀕死だ。

しかし薬はある、一人分。

どっちに飲ますのか・・・と。


答えは簡単だ。娘に飲ます。


親友の子供に飲ますという偽善者が居る。

人々は感動するだろう。そう、人々は。

人間と言う生き物は、そういった

ことで自己満足をするのだ。


この人は聖女だ、聖人だ。と。

じゃあ、親友の子供に飲ませた本人は

聖女なのか。自分を聖女と言うのか。

絶対に言わない。


そいつはどちらかだ。

娘を犠牲にしてまで親友の子供を助けた

心の腐った人間か、

それとも。


親友の子供を犠牲にしてまで娘を助けた

心の腐った人間か。


人々は娘を救ったらどう思う?

「自分たちさえ助かればいいのか?」と。


それは「自分たちを犠牲にしてまで」

という感動を貰えなかったからだ。


人間はすぐに忘れる。一時の感動を

感じて。


しかし、娘を犠牲にしたものは

一生、死ぬまで後悔するだろう。

親友の子供を犠牲にした時も同じだ。


ならば、自分が本当に助けたい方を

助けるしかないのだ。

ほかの人間がどう思おうが。


私が本当に助けたいのは娘だ。

お前はどうなのだ、ミネルヴァ。


私は考えるフリをしている。

本心は決まっているのだ。

なにがあってもジェニ様を助けると。


そうか、そうなのだ。

助けていいのだ。ジェニ様を。

守るために私は死んだらいけないのだ。


「私は他の何かを犠牲にしてでも

 ジェニ様を守りたいです」と

私はウォッカさんに言った。


ウォッカさんは一言だけ。


「それが母親と言うものだ」と。


「お前はジェニエーベルの立派な

 母親になれる。それが多分、

 最後にサンテミリオンが託した

 モノではないのだろうか」と。


ウォッカさんは少し寂しそうに。


そうだ、私はサンテミリオン様を

知っている。他の誰よりも知っている。

アルザス様よりも私の方が知っていると

自信を持って言える。


その私が思うのだ。

サンテミリオン様はジェニ様を生かして

敵を討つために私に託したのではないと。


サンテミリオン様は私にジェニ様を

「気の向くままに」

生きて行けるように育ててくれと。


何故ならばサンテミリオン様も私の事を

誰よりも知っているからだ。


「私は立派な母親に、ジェニ様を育てる

 立派な母親になれるでしょうか」と

わたしはウォッカんさんに聞く。


わかるわけないだろう、と笑いながら

ウォッカさんは言うと、続けて


「そんなものは子供が決めるんだよ」と。


自分や他の人間が決めるものではない。

子供だけが決められるのだ、と。


まぁでも、と言うと

「これすら私の、私が娘に対して

 思っているだけの考えであって

 それが正解と言うモノではないよ」


私やお前がババァになって死ぬときに

娘が、子供が「ありがとう」と

言ってくれれば私達の勝ちだな。

と凄く可愛く笑ったウォッカさん。


因みに私は永遠の22歳なので

ババァにはならないがな!と

鼻息荒く言ったウォッカさん。


私は自分の夢を思い出した。

ただ、ダンナと子供と幸せに

笑いながら暮らす。


でも、病気があるので結婚なんて

出来ないと思った。

だって、悲しむから。苦労を掛けるから。


逃げるためにジェニ様に「かあさん」と

仕方なく呼ばせていた。

でもそれは私が

「私は母親になってはいけない」と

自分勝手に思っていたので

自分にうそをついて「仕方なく」と。


でもジェニ様は嫌がらず私を

「かあさん」と言ってくれていた。

街に入る時だけと言いながらも

色々な所で言ってくれた。


いいじゃないか、私が母親になっても。

私が病気や何かで死ぬときには

「ごめんなさい」と言おう。ジェニ様に。


ジェニ様は怒るかな。私が嘘をついて

「かあさん」と呼ばせたことを。


でも「ありがとう」と言わせれば

いいのだ。そう言わせるくらいに

私は母親に、サンテミリオン様に

負けないくらいのジェニ様にとっての

母親になればいいのだ。


そうだ、私は「母さん」になろう。

夢にまで見た「母さん」になろう。


そう思うと何か自分の気持ちが

緩やかになるのを感じた。


守らなければならないから、

守ることが当たり前というように。


私は薬を飲む。それは私の為でもあり

ジェニ様、いや私のユウキの為に。


ウォッカさんは優しく微笑む。

それは時に苛烈で、でも優しく,

女神のように。


あぁ、そうか、だからみんな

ウォッカ様の事を地母神と呼ぶのだ。


私は何故ウォッカ様がそう言われてるのか

知らない、という事を「知っている」。


スコティさんに聞いた。

「すぐ調子に乗るからにゃ」と。

皆もそう思っているのだろう。

私でも思ってしまったくらいだ。


私はそれを思い出して

ウォッカさんを見て笑う。

ウォッカさんは何か顔をゴシゴシしている。


「ま、まさかさっき盗み食いした

 果物の種が口元についているのかっ!」

と言いながら。






























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