第3話 驚くことしかできない私

着いた先は謁見の広間。

「王妃様!それに王子様も!」と

黒い鎧の騎士が言う。


「ミネルヴァもいたか!王はどうした?

 一緒じゃないのか」と薄紫の鎧を

着た女性が言う。


「メルト!それにフミージャ。止めてくれ。

 アルザス王を!」


何があったと二人は私に聞いた。

「そんなバカな!」とメルトは言うと

王妃を見る。そして絶句する。


私とサンテミリオン様の服は血で真っ赤だ。

「大丈夫なのですか!」と

フミージャは言ったが


「王は、アルザス様はもう自我を保っていません。

 残念ながら」とサンテミリオン様は言う。


王妃は事の成り行きを話した。

朝食の時に起こったことを。


「確かに王は苦悩していた。悩みすぎていた。

 素晴らしい理想。でも、私は言ってしまった。」

と話を始める。


アルザスはいつも食事時に平和とは何か、

何故手を取り合う事が出来ないのだ、と。

朝から少しお酒が入り、さらに

強い口調で各国の対応を嘆いていた。


私は言ってしまった。

それは人間が居るからよ。と。


何故その時にそういった事を言ったのか。

私にもわからない。それは多分、

私が魔族だからかもしれない。


全員が絶句する。そして

「そ、そんなバカな。魔族なんて

 この世にはいませんよ。」とメルト。


私は驚くと同時に少し納得をしてしまった。

あの治癒能力。おかしいほどの力。


「そう、だからその魔族の血で

 魔王エンドを復活させ、人間を滅ぼす。

 そこから再生させる」と後ろから

アルザス様が言う。


私は杖を構える。


「だから無理なのです。私の血では。

 ただアルブの塔への門を開くだけです」と

悲しそうにサンテミリオン様は言う。


後何が必要なのだ!早く言え!と剣を向ける。


「おいおい、こりゃ尋常じゃねえな」と

剣を構え、私達の前に出るメルト。


そこに声が響く。

「青の国の軍勢が既に城の外まで!」と。


その声を聴くと

「ルナティアめ、連続短距離転移まで使って。

 相当お怒りだな。しかし、何故わかった。

 王がエンドを復活させ様としている事を」

とサンテミリオン様は言う。


早すぎる。連続短距離転移を使ったとしても

あの距離をたったの半日かからずに。

それに大軍勢を。

人間のできる芸当ではない・・・。と

杖を構えながら私は思った。


「とりあえず王を抑えるぞ」とフミージャは

言うとメルトと王に向かっていく。


「先に安全な場所へ」とメルトは私に言い

なにかあったら西門へ行け!馬車を準備

している!とも続けた。


私と王妃、王子はそこを任せ、先の広間へ

行くとそこには多くの人が居た。


「もう、城の中も外も大混乱だぜ」と

吸血族のボルドーは言う。


「早くどこかへ避難するのです。

 相手は本気のルナティアです。私達は

 蹂躙される!」とサンテミリオン様は言う。


しかし全員が口をそろえて言う。

皆やる気だ!住民たちも戦うと言っている。と。


「わかっていない。たとえこの場に

 ルナティアが居ないとしても、敵わない。

 ・・・でも。なんとかする者はいる。」


「残っているのはどれくらい?」と

サンテミリオン様が聞くと、ボルドーは


「城に2000,外に2万ほどだ。まぁ

 外の半分は住民だがな」と答えた。


「王は抑えた!」とメルトとフミージャ。

とりあえず括りつけておいた!とも言う。


その場にいた全員がいきり立っている。

その時に城に強い衝撃が起こる。

更にもう一度。


「な、なんだ!敵の攻撃か!」と全員が

一転して慌て始める。


「ルナティアがぶっ放したんだろう。

 あの女狐が・・・」とサンテミリオン様。


「待ってください!皇女はここにはいないと。

 どこから撃ってきてるのですか!」と

私は驚きながら言う。


「それはもう、あっちの首都からよ」と。

更にもう一度城全体が揺れ、崩落が起きる。


全員に衝撃が走る。


サンテミリオン様は何かを考えている。

ずっと考えている。そして

すぐ戻ります。というと王妃の部屋に行く。


何かあったらいけないと私はジェニ様を

抱えながら後をついて行く。


部屋に入ると何故かジェニエーベル様の

髪の毛を1本抜く・・・。


サンテミリオン様は飼っている小鳥の

籠を開ける。小鳥が指に乗ると器用に足に

抜いた髪の毛を結び、小さな魔方陣を描いた。


そしてベランダへ出ると小鳥を離す。

「これ位なら気づかれないはず。お願い」と。


小鳥が飛ぶ方を見続ける。

見えなくなるまで。


そして振り向くと私に言ってきた。


貴方はジェニエーベルと今すぐに

城の外へ。メルトが準備している馬車で

逃げなさい。


バカノラの方へ。どことは残念ながら

言えません。絶対にその方角へ逃げるのです。

必ず助けが来ます。そう信じるのです。


私は驚き、ぞっとした。

どの国にも属さない。国の名前ではない。

只の大地の名前。何もない大地。

どの国も見放す大地。各国を追いやられた

無頼漢や犯罪者たちが最後に行く場所。


サンテミリオン様は私からジェニ様を

抱きとる。


強く抱きしめ頬と頬を合わし

「ジェニエーベル。私の可愛い子。

 強く生きるのです。困難をおそれず

 信念をもって生きるのです」と。


一時して私に言う。

「ミネルヴァ、今まで楽しかったわ。

 この子をお願い」と。


私にはまったく意味が解らなかった。

お別れの言葉の意味を解りたくなかった。


「ルナティアは多分、今頃はへとへとよ。

 ざまぁみろだ。今なら城を出れるはずです」

そう言って突然、私に向かって短距離転移の

魔法を放つ。



















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