第2話 二人を抱え走る私

転移した場所。塔の中間のように

上と下にいく階段がある。

塔と言うからには上だ!と思った。


が、なんと下へ行く階段の方に

血痕が続いている。

残念な自分の頬を叩き下へ向かう。


魔獣が出てくるかもしれないと

杖を構えるが全く出てこない。


サンテミリオン様が転移してから

多分4時間ほどは立っている。

死んでいるのかもしれないと思うが

それはない!と。


そう思いたいからだ。私が。

私がそう思うからまだ大丈夫と。


私は兎に角、階段を降りる。

そして降りる事・・・

どれだけかはわからない。が、


突然扉が現れる。

ほんの少し開いていた。隙間に

ジェニエーベル様がいつも持っていた、

大切に持っていたおもちゃの扇。


ジェニエーベル様は弓使いだ。

弓の加護を受けている。しかし、

母様のようになりたいと、いつも

おもちゃの扇でサンテミリオン様の

真似をしていた。


私は根性を出す。病弱と噂の、

その噂を流した本人が力を込めて

扉を開ける。


中から声が聞こえる。

「何度も言いますが私だけでは

 無理なのです」と言う声。


と同時に泣き声がする。

ジェニエーベル様の泣き声だ。


「そんなはずはない!お前だ!

 お前がエンドを封印している!」

と太く、上ずった声。


「早く封印を解け!」とも言っている。


私は頭が入る隙間まで開ける。

中を見ると・・・。


蹴られたのか、お腹を押さえて

ジェニエーベル様がうずくまって

泣いている。


その先には腕を引っぱられ

血まみれのサンテミリオン様が居た。


「頭が入ったら体も入る!」と

猫耳族が言っていた事を私も言う。


その声が聞こえたのか全員が

私を見る。


「ミネルヴァ、お腹痛い。助けて。」と

泣きながら私を見て

ジェニエーベル様が言う。


「うるさい!うるさいうるさい!」

とアルザス様は言うと、なんと

ジェニエーベルを蹴りつける。


私の中の、私の頭の中の何かが

「プチッ」と音がした。


「てめえ!私のジェニ様に何をする!

 蹴るんじゃねえ!」と大声を出して

杖に魔力をありったけ込めた。


それを見てサンテミリオン様は

持っていた扇をクルッと回転させ

私に先端を向けた。


黒ずんだ杖が綺麗な黄色に変わる。


サンテミリオン様を見るとすでに

アルザス様に掴まれている手だけが

上に伸び、体全体が力なく床に倒れている。


「あら、早かった・・・わね。

 そ、それで、こ・・そよ。

 撃っ・・・・ちゃ・・・え。」

と言うと微笑んでいる。


私は極級魔法陣を描き、詠唱する。

多少省略して詠唱速度を上げる。


フレームス・エト・フーダ!


炎と雷光が合わさりながら

アルザス様へ向かう。直撃。


「立ってるし!さすが王様!」と

撃ち終わると同時に私は走る。


極級魔方陣の残影を使い

中級魔法のロックスピアを放つ。


それがアルザス王の腕に当たり

サンテミリオン様の腕が落ちる。


私は滑り込みながらサンテミリオン様を

抱えると目の前にあるアルザス様の

体に向かい初級魔法陣を描き

上級魔法を放つ。


ランス・デ・ローチ!


そのアンバランスな魔方陣と魔法により

その場で暴発する。


私はサンテミリオン様に覆いかぶさり

爆風を、当たらないようにする。

背中が焼ける様に痛い。が、


「ジェニ様はもっと痛いんだよ!」と

自分自身に言い聞かせる。


アルザス様は結構な距離に吹っ飛ぶ。

私はサンテミリオン様を抱え、そして

ジェニエーベル様の所へ行く。


「ジェニ様!立つのです!ここから

 逃げます!」と言う私。


「痛いよ、立てないよ。」と泣いている。

そりゃそうだ、まだ4歳だ。しかし


「立つのです!ジェニエーベル!

 あなたが母様を守らないで誰が守る

 のですか!立ちなさい!」と私。


「ミネルヴァが言うなら立って母様を

 守る。」とヨロヨロと頑張って

起き上がるジェニエーベル様。


「それでこそよ、ジェニ様」と私は笑う。

「あら、私のい・・・う事は

 聞か・・ないのに・・・ね」と

サンテミリオン様が笑いながら言う。


よく見るとサンテミリオン様の血が

止まっていた・・・。が、考えが

回らない私は「逃げます」と言う。


ジェニエーベル様は私の手を握り

一生懸命に走っている。泣きながら。


「病弱のくせに。がんばっちゃって」と

サンテミリオン様は言う。それは、

先ほどと違い少ししっかりした口調で。


そして後方に向けて扇を使い

魔法防御、いや魔法障壁を張る。


ディフェーサ・コンフ


「ごめんねぇ、ミネルヴァ。今は

 これが限界っぽいわ。本当は

 ベルフェット使いたかったけど」

と笑う。そして言う。


「もう一人で走れるわ。」と言うと

私の手を振りほどき自分で走ろうとする。


「走れてないし!ふら付いてるし!」と

思わず言ってしまうが、私は

ジェニーベル様を今度は抱える。


サンテミリオン様に合わせながら逃げる。

よく見ると傷が・・・塞がりつつあった。

すでに血は流れていない。


少し歩調がよくなるとサンテミリオン様は

「私ね、魔族なのよ。てへぺろ」と言う。


「そういった事はいいから!逃げますよ!」

と私は言う。


「ジェニエーベルも魔族かもしれない」

と少し寂しげに言われた私。


「もうどうでもいいですから!後から

 ゆっくり聞きますから!」と私は

後ろに向かって適当に魔法を放つ。


「うがっ」と言う声がした。

当たるもんだな・・・と、

思ってしまった私。


「今更ですが!

 帰るのはどうするんですか!」と

私は聞く。


「もう少ししたら階段の踊り場が

 あります。そこで魔方陣を描きます。」

とサンテミリオン様は言う。


その場所に着くと何と自身の手首を

扇の鋭利な部分で斬った。


血が流れる。それをまき散らす

サンテミリオン様。


もう何が何だかわからずに

ジェニエーベル様を抱きしめた。


一時するとそこに魔方陣が浮かび上がる。

「じゃあ、帰りましょう。」と

頭をクラっとさせて

サンテミリオン様が言った。



もうわけわかんなかったけど

3人で飛び込んだ。






 












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る