紫の国 ミネルヴァの章~ミネルヴァの日記より~

erst-vodka

第1話 サンテミリオン様を追う私

私は今日も薬を飲む。

流行り病。数年前に駆逐された病。

でも私のモノは変異種なのか薬は効いていない。


サンテミリオン様がいつも心配する。

でも私は、いつも笑顔で「大丈夫」と言う。

だからこそ、心配してるのかもしれないけど。


なので私は病弱なフリをする。

時には風邪を、時には腹痛を。


サンテミリオン様はいつも私を傍に置く。

御子息のジェニエーベル様が私に

なついてくれているのもある。しかし、


この病が移ったら・・・と心配になる。

とりあえず、私の周りでは似た症状を

訴える者は、今のところはいない。


この病を発症して2年。

最初はほんの少しの物忘れと、

ほんの少しの言葉使い。


本当にまれだが、自分の発する言葉で

それを聞く者達が「キョトン」とする。


でも大丈夫。進行は本当に緩やかだ。

薬が効いているんだと思っている。


だって、それは本当にまれだからだ。

今日もサンテミリオン様に呼ばれる。

そして公園に行く。


ジェニエーベル様のお気に入りの公園。

それと、サンテミリオン様が公務に疲れ

ゆっくりしたい時にはいつもここ。


今日も今日とて愚痴を言う。

「あの神官め、今度会ったら蹴る」と。

私の前でしか出さない表情と言葉。


私はいつも「まぁまぁ」と始める。

もうそれが決まりのように。

そしていつも、話の途中で、

ジェニエーベル様が私の所へきて言う。


「ボール遊びしようよ。話、つまらない」と

頬を膨らませ裾を引っぱる。


私とジェニエーベル様はボールを蹴ったり

投げたりする。時折サンテミリオン様が

御子息に手を振る。


それに気づいたジェニ様も笑いながら手を振る。

凄く素敵で憧れる風景。

でも私は、私には無理だろうと思っている。


私も結婚してこんな風に出来たら。

子供に手を振って笑い合えたら。


だから私はジェニエーベル様を時折

そう、二人になった時だけ「ジェニ様」

と呼ぶ。自分の子供のように。


これは私とジェニエーベル様の二人の

秘密だ。なんかそれが嬉しいのだ、私は。


サンテミリオン様の気が晴れたのか

王城へ帰る。


私はその後決まって魔法の訓練をする。

私は扇使いのサンテミリオン様と違い

純粋に攻撃魔法、杖使いの魔導士だ。


私は極級魔法を使える。

しかし、書物には「神式魔法」という

今では誰も使えなくなった魔法がある。

勿論私も使えない。


でもそれを研究する。何故って?

それはもう、私が魔導士だからだ。


撃ってみたいじゃないか!幻の魔法を。

食通が未知なる物を食べたくなるのと同じだ。

・・・と思う。多分。


サンテミリオン様から頂いた杖。

非常に高価でいいモノだ。

この世に3本もないという杖。


多分、ギンコで作られた杖。

もうこの世にギンコの樹木はない。

あまりにも激レアすぎて私は

コレに偽装魔法を掛けてもらっている。


もちろんサンテミリオン様に。

掛けてもらった時に不貞腐れていた。


「いいじゃん、別に」と少し頬を膨らます

サンテミリオン様はちょっと可愛かった。


杖としての威力は落ちるが

それでも結構な、うん。火力を出す。


いいのか、私みたいな者が使って。

とは、思うが貰ったモノは仕方がない。

存分に使い潰してやる。なんて。


そしていつもと同じ事を繰り返す。

多分明日も、明後日も。

穏やかな日が続けばいいな。


しかし、その思いは叶わなかった。

私は非番だったが緊急事態が

起こっていると分かった。


初めて起こるその現象。

聞いていた現象。


サンテミリオン様から頂いた赤い

ネックレスが振動し音を発していた

からだ。


私は杖を持ち、城へと入った。

城内が、兵士達が慌てふためいている。


「アルザス様がご乱心した!」と。

サンテミリオン様を連れて朝方に

アルブの塔へ向かったと。

ジェニエーベル様も一緒だと言う。


アルブの塔。

魔王エンドを封印している塔。

行けるのは王族の血、いや

サンテミリオン様の血が必要だ。


私にだけ教えてくれた秘密。

5年前にエンドを封印した時、

取引により鍵にされていると。


さらなる情報が飛び込む。

それとは別に青の国が大軍を率いて

この国に向かっていると。


混乱に合わせたような動き。


まずはサンテミリオン様を追うと

私は決める。


しかしどこから行けるのか、

アルブの塔への道は何処にあるのか

私は知らない。


混乱に乗じて寝室へ入る。探す。

ジェニエーベル様の部屋に入る。探す。


こうなったら!と思い王の執務室に入る。

何もない。魔法の痕跡も、そう言った扉も。


私は考えた。朝方・・・。

別室の食事をする所へ入る。

机の上に割れたグラスと

血が飛び散った後。そして床にも。


割れたグラスはサンテミリオン様の

所で割れている。そしてグラスは

王の、アルザス様のグラス。


多分、投げつけたのだろう。何故。

口論となり乱心したのか。

血を見て乱心したのか。


どちらでいいが床にある結構な量の

血を見て私は直感した。

「剣で斬っている」と。


私は冷静に床の血を見る。観察する。

これだ。これが扉だ。と分かった。

魔力の渦がある。本当に小さな、

そして今にも閉じそうな。


「いけるかどうか、わかんないけど

 行けると思え!私」と独り言を

言いながら、その血の上に飛び乗る!


・・・・行けなかった。

何だろう。この私の格好は。

と思っていると・・・。


血の中へ吸い込まれ。そして、うん。

転移した。
























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