109.《葬斂》
【replay/repentance】
――それは三年前。たぶんとてもよく晴れた、最後の日のことでした。
わたしはつめたい《棺》の中。
それは、わたしにとっての終わりの日。
あなたにとっての、終わりの日――
『儂は、誤ちを犯したのだ』
暗い、暗い、床のあちこちにものが
開けはなした天井の入り口――
けれど、それらの一切とは何らの関係もなく。
わたしはそこを、「暗い」と感じていました。
『誤ちの末にお前を造り上げた。儂の後悔と、弱さがお前を造った。それは決してお前の
――おじーちゃん。
――
『だから、なのだ。お前にはこの新しい土地で、儂の過ちに縛られることのない、新しい役割を得てほしい。我が二人目の孫娘――』
その理由を、わたしは知っています。
もう、ぜんぶ知ってるの――おじーちゃん。
これがあなたにとっての、弔いの儀式なのだということを。わたしは、
『L-Ⅹ――我が手が生み落とした最後の《
その言葉を終わりに。歩み寄って――操作盤のスイッチを押す。
棺を閉じる鋼鉄の蓋が、軋む音を立てながら下りてゆく。
やめて、と訴えたかった。
おいていかないで、と呼びたかった。
だって、
(わたしは――)
だってわたしは、まだ頑張れる。まだ研ぎ澄ませる。
もっともっと自分を高めて、ユイリィ・クォーツはあなたに与えられた
あなたがわたしに託した祈りを。
あなたの孫娘の再現を。
あなたの願いを――叶えますから。
――ああ、
わたしはその願いに応えます。あなたの願いに応えます。約束します、必ずです。
必ずそれを果たします。応えてみせます。応えます。応えられるんです必ずです。
二人目なんて言わないで。わたしは二人目なんかじゃありません。だってわたしは一人目です。そのための機体です。わたしはそのための性能を備えた人形です。そうなるようにあなたが作り上げた人形です、そうでしょう? ねえ、そうですよね?
だからお願いします。あと少しの時間、あと少しの研鑽さえあればきっと。わたしはできます。もっともっと自分を研ぎ澄ませます。変えられます。わたしを。わたしのすべてを。あなたの願いに届くように――!
だから
――ねえ、そんな顔しないで。お願いだから悲しまないで。泣かないで。
だから――
(
おねがいします。
どうか、そんな目でわたしを見ないで。
(おじーちゃん――)
できそこないを見る目で 見ないで
――わたしを
………………………。
………………………………………。
それは弔いの儀式でした。
四年前、まだわたしが生まれてさえいなかった頃に、ひとりで死んでしまった彼女のための。
彼の、たったひとりの孫娘。
ユイリィ・アストレアのための、それは弔いの儀式でした。
そう。だから、わたしはここでおしまい。
わたしはここで眠り、そして次に目覚める日には、新たな
それは、わたしを閉ざす鋼鉄の
それは彼女のための弔い。
わたしを終わらせる弔い。
わたしは失敗作の、不完全な、役割ひとつ果たせなかったできそこないの人形。どこまでいってもつくりものの
そう、見放され、告げられた――
それは、三年前の終わりの日。
今はもういない彼女のための、
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