61.招かれてトリンデン邸、四泊五日の《お泊り会》です!・⑤


 《遊隼館》本邸。

 トリンデン卿の執務室で上等のソファに腰を下ろして、ユイリィは対面のトリンデン卿と向き合っていた。


「前提として。《L-Ⅵ》メルリィ・キータイトは、決して直接戦闘に秀でた機体ではありません」


 こちらも貴族の邸宅らしい優美なデザインのソファに深く腰を沈めたトリンデン卿の後ろには、護衛騎士のトーマと、トリンデン家に仕える執事の長――家令スチュアートのパーシュバルが控えている。


 応接のローテーブルにはパーシュバルが淹れた二人分の紅茶が甘い香気を含んだ湯気をくゆらせ、ユイリィと男達の間に、うっすらとした白い隔てを形作っていた。


「可変フレームと高速形成外皮スキンを柱とする擬態装備、探査への欺瞞に重きを置いた装備編成の《L-Ⅵ》は通常のLフレームと比して素体の剛性を欠き、兵装も乏しいのが実情です。

 純粋な兵装のみに絞った場合、メルリィ・キータイトの標準装備は左腕の《閃掌光撃レイバレット=フィスト》――純粋魔力の熱衝撃砲、これのみです。《L-Ⅵメルリィ》搭載のPLAF近接契法兵装-C型は霊素、いわゆる純粋魔力の圧閉率を変えることで閃光による目くらましとしても用途を持ちますが、十分な破壊力を有する熱衝撃波の射程は、おおよそ二メートル以内の近距離に限られます」


 の打撃を与えうる有効射程まで枠を広げても、その射程はせいぜい三メートルから四メートルの範疇。元より閃掌光撃レイバレット=フィストは、近接戦闘での運用を想定された契法兵装だ。


 それでも、同系統の兵装の範疇においては――L-Ⅵメルリィ搭載型であるC型は、ユイリィの知識データベースにある限り最も有効射程の広い型である。


「連盟で襲撃されたときに見た聖霊銀ミスリルの刃、あれは君がいうところの『兵装』にはあたらないと?」


「あれは本来『擬態』に用いる流体聖霊銀ミスリルの転用ないし拡張運用と見るべきでしょう。兵装として見た場合、あの聖霊銀刃ミスリルブレードは極めて不安定、のみならず複数の弱点を抱えてもいます」


「ほぅ」


 弱点、の一言を聞いて関心をそそられたか、トリンデン卿の眉が大きく跳ねる。


「その弱点とは?」


「まず第一に、有効な打撃点が極小領域に限定されること。聖霊銀刃ミスリルブレードの硬化は疑似魔術構成の形成に伴う『固定』に過ぎず、鋼の刀身を切断した『本体』は、切断面を形成する疑似魔術構成へと通したであるということ、です」


「……魔力刃か」


 その言葉に、ユイリィは「はい」と首肯する。


「件の切断力を実現しているのは、きわめて細く限定された『線』の領域です。正確に刃筋を立て、限られた有効切断面に『当てる』ことをしない限り、あの聖霊銀刃ミスリルブレードは硬化形成に支えられただけの鈍器です」


「その点においては普通の剣とさして変わらないということか。しかし、魔術構成に支えられた構造ということは、そのへ魔力を流すことも理屈のうえでは可能なはずだが。それに関してはどうか?」


「理論上は可能です。が、あのサイズの刀身へ切断面と同等の霊素を充填するには、出力の基盤となる契法晶駆動基の出力が不足します」


 無論――これは言うまでもなく、ユイリィが現時点で保有する《L-Ⅵ》のカタログスペックから見た場合の試算ではあるが。


「構造上、あの機構は圧閉装置や導線切替スイッチの備えがありません。瞬間的かつ離散的デジタルな大出力の発揮は現実的でなく、強行できたとしても駆動基の側がもちません」


 男達からの異論はなかった。

 自分たちの手にある情報ではれ以上の検証が叶わず、あとは信用するしかないという判断であろうか。あるいは、早くも次回接触時の対抗策を模索し始めているか。


「次に。聖霊銀刃ミスリルブレードの形成は外部への疑似魔術構成、すなわち《機甲人形オートマタ》の動力源を担う疑似霊脈網群デミ・レイラインの外部拡張によって行われます。

 これは性質において通常魔術を構成する魔術構成と同一の性質を持ち、また魔術構成のそれと比べです」


「脆弱と言ったが、その断定の根拠を聞かせてもらうことは?」


「可能です。前提として、わたし達のような《機甲人形オートマタ》は魔術を構成する機能を持ちません」


 その根本的な原因は、今もって明らかではないという。だが、有力な仮説はあった。

 魔術――及びそれに代表される『魔法』を操るにおいて、《機甲人形オートマタ》が備えた疑似霊脈網群デミ・レイラインは十分な『密度』を備えていないのだ、と。


「疑似魔術構成は『魔術構成』の密度へ至らず、ゆえに同等以上の純粋魔力ないしは魔術構成の展開によって攪乱かくらんが可能です。一定強度以上の《対魔法キャンセラー》展開、ないし魔術構成の『干渉』を発生し得るならば、メルリィの聖霊銀刃ミスリルブレード閃掌光撃レイバレット=フィスト以外の手段でも破壊が可能です」


「魔術か……」


 ユイリィが説明を終えた後も、トリンデン卿はしばしの間、角ばった顎を撫でながら黙考を続けていたが。

 やがて、静かに切り出した。


「多層魔術領域の研究分野に、ひとつ興味深い仮説がある。我々が『魔法』と総称する複数の魔術体系は、そのひとつひとつがにおいて構成されるものであり、それら領域レイヤーのパターンは魔術系統の数だけ存在するのだというものだ」


 ユイリィは疑問を表わす形で眉をひそめる。

 その仕草を見たトリンデン卿はふと苦笑を広げ、言葉を続ける。


「我々が《霊脈レイライン》と呼称する総体は、領域レイヤーごとに存在する霊脈が――それら多層の『霊脈群』が重なりあった状態での『観測結果』に過ぎない、ということらしい。

 そして我々の操る魔術とは、系統ごとに要請される複数領域レイヤーへ魔術構成を展開・霊脈接続を行うことによって形成されるものであり、仮に表面上の現象が同一であったとしても、そのひとつひとつはまったくのだという――そういった主旨の仮説だそうだ」


「異なる……」


「『ここに、パルプ紙のように薄い、透明のガラス板を十枚重ねたものがある。そしてこの十枚のうち一枚だけ、炎の絵が描かれたものがあるとする』」


 トリンデン卿は気取った口ぶりで言う。


「『この時、重なった十枚のうち何枚目のガラスに絵が描かれていたとしても、我々の目に映るものはである』――という理屈らしい。どうにも回りくどくてかなわんが」


「……疑似霊脈網群デミ・レイラインは人工物であるがゆえに、のみでその総体が構成されています」


 ぽつりと、ひとりごちるように、ユイリィ。


「ゆえに機甲人形オートマタは、『未観測領域の霊脈』を欠く、ということでしょうか」


「うむ、そういうことだろうね。この世界を構成する『すべてのガラス板』の正確な枚数を、我々は未だ知り得ていないのだ、という理屈だ」


 トリンデン卿は首肯し、あらためてユイリィを見据えた。


「ユイリィ・クォーツ、もうひとつ確認させてもらいたいのだが」


「何でしょうか」


「人間に擬態して接近するかの《人形》を、予防的に『人形』と判別することはできないものか? これが叶えば、かの刺客への対応も大きく変わるのだが」


「至難であると判断します」


 ユイリィは首を横に振る。

 『不可能』と断言しなかったのは、単なる正確性の問題以上のものではない。


「《L-Ⅵ》の擬態機構は、国外のみならず国内でも、諜報のための運用がなされる想定で設計されていました。それは《L-Ⅵ》の擬態機構が、他の《人形》による観測が周辺に存在することを前提において、その機能を発揮する想定のものであったということです」


 つまるところ《L-Ⅵ》の機体へ搭載された擬態は、ユイリィのような他の《人形》が搭載する観測機構を欺瞞する、そのための性能を備えたものでもある。


「Lナンバーはもともと静音性が高いシリーズでもあります。これに観測欺瞞まで加わると――生体情報バイタル観測や、駆動音などの聴音観測パッシブで《L-Ⅵ》を人間と見分けることは、観測特化を前提とした機体でもない限り非常な困難が予想されます」


「通常の警戒での識別が困難であろうことは了解した。だがそうしたものとは別に、ほかに何か、人間と人形を識別する手段はないものだろうか」


 諦め悪く、なおも突っ込んでくるトリンデン卿。ユイリィは黙考した。


「……機体重量までは、さすがに誤魔化せない。けれど」


 《機甲人形》は、雑に言えば『金属の塊』だ。同等の体格の人間と比べた場合、その重量はおよその場合、人のそれを大きく上回る。

 トリンデン卿は噴き出した。


「はぁっはっはっははは! なるほど体重、体重か! いやいや確かにそれは然りだ。では家の者達には今日からしばらくの間、毎日朝晩体重計に乗ってもらうことにでもしてみようか!」


「女性達は嫌がるでしょうな」


 大笑する主人を諫めるように、パーシュバルがさりげなく口を挟む。

 トーマも首肯した。


「そも、日常的に入れ替わりと潜伏を続ける必要もあちらには御座いません。ただただ、閣下が家政婦たちから無用の不興を買うだけかと」


「それもまた然り、だ! 騎士として女性への礼を失するわけにもゆかぬ。実にままならんものだ!」


 なお声を大にして、はっはと笑うトリンデン卿。

 その間にユイリィは、彼の後ろに控える二人の従者へちらと見遣る――どちらも、何を訊ねてくるというでもない。


「わたしが話せることはこの程度かと。他に何か確認は?」


「確認――確認か。うむ、そうだな」


 僅かの間、黙考するように目を伏せてから。トリンデン卿は伺うようにユイリィを一瞥した。


「メルリィ・キータイトに関することではないが、訊かせていただいても?」


「どうぞ」


「では、遠慮なく」


 トリンデン卿は居住まいを正し――その逞しい面差しに、不意に刃物のような鋭い笑みを閃かせた。


「ユイリィ・クォーツ。君は私のことが嫌いかな?」


「質問の意味するところが不明です」


 ユイリィの回答は素早く、端的だった。

 男はそれを、人形らしからぬ韜晦とうかいと受け取ったのかもしれなかった。


「では言い直そう。君は私を、『敵』と見做してはいるのではないか?」


「質問の意味するところが不明です」


 口調も、抑揚すらも最前とまったく同一の返答は、冷ややかな温度をしていた。

 トリンデン卿は「困った」とでもいうような大仰さで、肩をすくめる


「ユイリィ・クォーツ。どうにも我々の間にはある種の誤解がわだかまっていると感じる。たとえば、そう――」


 トリンデン卿は指摘する。


「私がランディ少年とその友人達を、現在の状況へ巻き込んだのではないか、という類の誤解だ」


「……………………」


 ユイリィは男の言葉に眉ひとつ動かすことをしなかったが。そこにさえ何らかの意図を見出したとでもいうように、トリンデン卿は嘆く素振りでかぶりを振った。


「もしそうであれば、誓ってそれは誤解なのだ。いや、確かに何かしらの形で君との接点を得ようという目論見はあったし、そのために君の気を引くも撒いてみせた」


 ――故に私は、君ののことも存じている。


 ――L-Ⅹ《ユイリィ・クォーツ》、貴女のことも

 

「だが、今日の一連の事態は私の想定の外にあった。敢えて我が身の至らなさを晒すならば、ダモット・マクベイン叔父は完全に私の上を行ったのだということだ。――繰り返しになるが、ユイリィ・クォーツ。かの少年少女を我が家の恥に巻き込んでしまったことは、私にとって痛恨の極みなのだ」


「ではトリンデン卿。わたしからもひとつ確認をさせてください」


「何なりと」


「あなたは自分の命を狙う刺客が《機甲人形オートマタ》であることを、あらかじめ知っていたのではありませんか?」


 雨だれのように、しんと沈黙が落ちる。

 いつしかカップの紅茶は冷めきり、薄く立ち昇る湯気もひっそりと絶えていた。


「知っていた訳ではない、という答えは、やはり不誠実なのだろうね」


 男は息をつき、そんな言葉で詰問の正しさを認めたようだった。


「確かに、それが起きうる可能性を予期していた。ゆえにこそ、私は君との接触を目論んだ」


 そうだろう。目的の主眼がユイリィとの接触にあったというのなら、その動機は――彼にユイリィとの接触を決意せしめたものは、果たして何だったか。


「その根拠は、我々が掴んだ情報にある。我が叔父ダモット・マクベインは、ガルク・トゥバスの密使とひそかに接触しているのだ」


 ユイリィという、《機甲人形オートマタ》の存在を彼に意識せしめたものは、果たして何だったか。


「――そう、君が生まれた祖国とだ。

 大陸より渡り来た彼らが従える《機甲人形オートマタ》、事ここに及んで、それがダモット・マクベイン叔父の尖兵として差し向けられる可能性は、確度の高低によらず無視できるものではなかった」


「真実、意図するところはそこにあったと? 連盟の決定に横車を押して公家の馬車を迎えに出したことも、ランディちゃん達が見つけた未踏遺跡の発見を殊更に褒め上げてみせたことも、すべて」


「それは違う」


 男は首を横に振る。


「決して、そればかりが理由ではなかった――と、そう言いたいところだが。

 しかし、君からすればその弁明も詮無いことだろう。私がどれほど抗弁したところで、現状が現状だ、そのまま信用できるものではあるまい」


 太い眉をいくぶん下げて力のない笑みを広げる男の姿は、飼い主に叱られてしょぼくれた大型犬の様を思わせた。

 その弱々しさに同情し、ほだされる者も、少なくはないのだろう――恐らくは。


「だが、これだけは誓って確約しよう。今の私が第一に求めるもの、それはあの少年少女達の安全、彼ら彼女らを無事に家へと帰すことであると。

 それこそが、今の私が果たすべき第一の――私と我がトリンデン家の名誉にかけて果たさねばならぬ誓いオーダーであると、そう信じている」


「……………………」


 ユイリィは静かに息をついてみせる。

 人形ドールである彼女にとって、その呼吸そのものはさほどの意味を持たない。それはこの場の沈黙に区切りをつけることを、形として周囲へ示すための所作だった。


「最前の質問に回答を。わたしは現在のトリンデン卿に対し、との認識を抱いてはいません」


 感情の薄い、無風の水面のような声が答える。


「ユイリィ・クォーツの『敵』は、命令オーダーの遂行を阻むもの――仮にこの先あなたがその立場に立つことがあったなら、その時にこそ現状の評価をあらためることとなりますが」


 ――真偽を問うことに意味はない。今のユイリィ・クォーツは、それを検証する術を持たない。

 確かにユイリィは、彼が自らの侍従たちへ、トリンデン卿自身の安全を度外視してでもランディ達を――ユイリィもその数に入れた六名を護れと命じる声を、聞いてはいる。

 だが、それが意図してユイリィにために発せられたものである可能性は棄却できない。

 その言葉が心からの真実である可能性を棄却し得ないのと、同じように――だ。


(――ここまで、かな)


 言葉を切り、状況に踏ん切りをつけて。ユイリィはソファから腰を上げた。

 彼女がそうすることを、引き留める声はなかったが、


「もう行ってもいい? はやくランディちゃん達のところに戻りたいの」


「ああ。長く時間を取らせて済まなかったね」


 トリンデン卿もソファから立ち上がり、握手を求めて手を差し伸べてきた。

 ユイリィは数秒ほど立ち尽くして、そのてのひらを見下ろしていたが――やがて自分の手を伸ばし、男の手を取った。


「協力に心より感謝する。ありがとう」


 男はおおらかな笑みでもって礼を述べた。

 ユイリィは無言の目礼でもって、それに応えた。



 案内を申し出る家令スチュアートの勧めを辞して、ユイリィは一人で館の廊下を進んでいた。


 別邸までの道を辿るのに、さほどの時間はかからなかった。

 ランディ達が案内されたという別邸はトリンデン卿の執務室から見える位置にあったし、そこまでの道筋もおよそ事前にを済ませている。


 ユイリィはトリンデン卿の執務室へ移動する間、ランディ達の足音や話し声を常に観測し続けていた。別邸へ行くのはその際の移動経路を辿ればいい。

 正確にルートを追うため一旦玄関ホールへ戻らなければならないのは多少の遠回りだが、そこは確実性を担保するために必要なコストだ。


 中庭を横目に渡り廊下を抜けて、別館へ。

 幸い、玄関の鍵はかかっていなかった。


 ランディ達がいるのは三階の一室。誰かが――聞こえた声や前後のやり取りからして、エイミーだったろう――バルコニーへ続く窓を開けて外に出てくれたこともあり、場所は特定できていた。


 目的の部屋の前まで辿り着き、ドアノブに手を伸ばそうとする。

 と、その直前、内側から扉が開いた。


 扉の向こうに人がいるとは思わなかったのだろう。軽く目を瞠った二人のメイドへ、ユイリィはそっと道を譲る。

 若いメイド達は感謝を示す所作で深く頭を下げると、しずしずとした足取りで退室していった。


「……………………」


 ――タイミングを見誤った。今の遭遇は、屋敷のメイド相手だからよかったが。


 ノイズの除去は手間だし、解除に伴う懸念もないではないが、やはり『観測』の手数を絞るのはよくない。少なくとも、当面の間は。

 優先順位を整理しながら、ユイリィは入れ替わりで入室し、後ろ手に扉を閉める。


「ただいま、みん――」


「ユイリィおねえちゃん!」


 ――な。

 と、笑顔で言い終えるより早く、わっと子供達が寄って来た。


 手を引かれ、背中を押され、お菓子と紅茶が一式乗った応接のソファセットのところまで連れてゆかれてしまうユイリィ。

 訳が分からず目を白黒させるしかない彼女を、くるりと振り返ったランディが見上げてくる。


「ユイリィおねえちゃん聞いて! ぼく達もしかしたらだけど、すごいことわかっちゃったかもしれない!!」


「? ?? ランディちゃん、わかったって何が」


「あいつのいどころよ! 連盟で襲って来たフードの刺客!」


「えっ?」


 疑問符を浮かべるユイリィへ、喚くように答えたのはラフィだった。

 ランディもラフィも興奮に頬を上気させて、少なくとも彼らの瞳には、強烈な確信が伺えた。

 エイミーもリテークも、真剣なまなざしでユイリィを見上げて――いや、若干訂正、リテークだけはいつもと変わらず、焦点のよく分からないぼんやりした顔つきだったけれど。


 唯一、ソファに腰を下ろしたままのユーティスが、頭痛を堪えるような顔で眉間にしわを寄せていた。


 そうした全員の表情をひととおり確かめてから、ユイリィはあらためてランディを見る。


「ねえランディちゃん、それっていったいどういうこと?」


「……ユイリィおねえちゃん。落ち着いて聞いてね」


「うん」


 素直に頷くユイリィへ、ランディは声を潜め、背伸びして顔を寄せてくる。


「もしかしたらだけど、あのフードのひと……もう、かもしれないんだ……!」


 ――おどろおどろしく。

 重々しく低めた声で告げる、ランディの言葉に、


「……えっ?」


 ユイリィは呆けたように、かろうじてそう返すのが精一杯だった。

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