悪役令嬢のお父様は商魂逞しい
アウレリアの父視点。書く予定が皆無でしたが、ある日、頭の中で急に動き出しやがりまして。
*****
ミヒャエリス国の貴族子女が通う国立学園の卒業式とそれに類する行事が行われるその日、王宮の大広間に国の重鎮が集まり決算会議が行われていた。
決算会議はあと少しで終わろうとしていたのだが、王宮の侍従長が慌てた様子で駆け込んで来た。
「陛下、会議中に失礼します。至急の案件です」
「至急? 何があった」
会議を中断させるほどの要件という事で皆目を瞠り、その動向を見守る。
侍従長は国王ファビアンに近付き、耳打ちする。声は抑えていたが、国王の右隣の位置に座してやり取りを間近で見る事になったクルーガー公爵ルドルフには、二人のやり取りがはっきり聞こえた。
「神殿より入電が」
「神殿から?」
ミヒャエリス国において神殿は女神ヴァールを祀る神殿を指し、入電は神殿の巫女が女神からのお告げなどを受けた時にもたらされる電信を意味した。
侍従長は頷いて、その電信が記された小ぶりの巻物を開いた。
「読み上げます。『女神ヴァールの降臨。場所はクルーガー公爵邸。現在地は学園のパーティー会場』です」
女神ヴァールが自分の邸に降臨されたという報告に、ルドルフは内心驚き目を瞬く。
同時に、自邸と学園のパーティー会場という点と線が結ばれた事でルドルフの中で閃くのは、第一王子オスワルドと愛娘のアウレリアの婚約関連だ。
女神ヴァールが動くのは契約に関する事だけなので、女神の現在地を考えると十中八九これだろうとルドルフが思考を巡らせた時、国王ファビアンがガタリと音を立てて席を立った。
「緊急事態につき、会議を一時中断する」
国王ファビアンはそう宣言し、大広間の出入り口へと向かった。その後に付き従うような形で近衛騎士が動くのを視界に捉えながらルドルフも、後を追うべく腰を上げた。
ルドルフにはこれから起こる騒動が手に取るようにわかっていたが、アウレリアの父として事の顛末を見届ける権利があったからだ。
「女神ヴァールが学園の卒業パーティーの会場へご降臨あそばせでございます」
大広間を出た時、状況が読めずにいた他の面々に、端的に説明する侍従長の声が背後から響いた。
瞬間、女神ヴァールの降臨に
経緯が何であれ、この国では女神の降臨は
◆
「皆に告げる。契約の女神ヴァールは契約を軽く見る愚か者オスワルドの立太子を認めない。後継者の変更が為されなければ次代からはこの国への加護は無いものと心得よ」
それを眺めながら、ルドルフは思った。
(いつ来るかと待ち構えていたんだがなぁ……)
ルドルフは、アウレリアとの婚約が決まった時からオスワルドを未来の義理の息子として、時には助言もし、見守ってきた。
しかし、半年ほど前に愛娘から婚約解消の相談を受けた事で、オスワルドにミヒャエリスの次期王としての自覚が足りていない事がわかり色々と失望した。
将来のパートナーとして信頼関係が築けていないオスワルドとアウレリアの間柄には、ルドルフも親として懸念を
こちらとしてはさっさと解消して次を探したかったが、すんなりと話が進まなかったのは、王室側が難色を示していたからだ。
婚約解消の主な原因がオスワルドにあっても、アウレリア以外にミヒャエリス国の王妃として相応しい令嬢がいないという現実があった。
国によって、王妃となるべき人物像は異なる。
外見の美しさや優雅さのみを最も重視する国があれば、知力や魔力の強さを重視する国があるように、商人の国ミヒャエリスの王妃として適していたのがアウレリアだった。
女神ヴァールが
そして──女神からの暖かな祝福を身に受けながらルドルフは思った。
(予定より慰謝料がっぽりいけそうだな!)
公爵という地位にはいても、貴族というより商人としての性分が強いお国柄ゆえの思考だった。
*****
決算会議には王弟殿下を含めた王位継承権を持つ人が多数揃っていたので、オスワルドの廃嫡が決まった後に緊急会議が行われ(前話のざっくり話し合い)、アウレリアの女王就任が決定。
婚約関係のあれこれも、細かいところの折衝は後日に詰める事になったもののオスワルドがやらかしているので概ね100%オスワルド有責で慰謝料がっぽりという感じで話がついた。
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