エピローグ

 集中治療室で治療を受けた青年が、今は病室のベッドの上で横たわっていた。

 意識はまだ戻らない。まだ予断を許さない状態だが、かたわらで見守る女性は、彼が目覚めることを信じていた。


 夜明けが近付いていた。

 外は白み、空気が澄んでいく。

 それに呼応するかのように、青年の手指が微かに動いた。


「ん……」


 青年の意識が戻る。女性が立ち上がり、青年の名を呼ぶ。


「……ここ、は」


 どこかわからない、という青年に、女性が病院だと告げる。前日のサークルの飲み会で飲み過ぎて、急性アルコール中毒でここに救急搬送されたのだと。

 ……そういえばそうだった。もう、記憶の彼方過ぎて完全に忘れていた。

 お前は覚えてるか? 向こうの世界での戦いを。


 青年は女性に視線を向ける。女性の姿は記憶にある通りだった。向こうで共に戦っていた時よりも大人びて、立派な女性に成長している。


「悪い、遅くなった」

「3年待ったよ。もう、待たせすぎだよ。おかえり、竜成君」

「……ただいま、結花」


 結花は大粒の涙を流しながら、そっと竜成を抱き締める。

 竜成はそれに応えるように、彼女の背を優しく叩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【長編】黒曜の聖騎士【完結済】 椰子カナタ @mahonotamago

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ