Chapter19 そして、絶望と希望の行く末に
Chapter 19-1
カヴォロスが目を覚ますと、そこは何もない真っ白な空間だった。
「ようやく目が覚めたのね」
「お前は……!」
声に顔を上げると、そこには勇者ララファエル・オルグラッドの姿があった。結花の身体を借りているわけではない。かつてのララそのものの姿でだ。
「ララ! 見ないと思っていたら、こんなところに……! ところで、ここはどこだ?」
「……あなた、竜成と混ざったせいでバカになってない?」
「なっ、なっとらんわ! それより、本当にここはどこなんだ。まさか、あの世か?」
周囲を見回しながら問うカヴォロスの言葉に、どこからかククク、という笑い声が聞こえる。
白い世界の奥から現れたのは、洋物の喪服に身を包んだ妙齢の女性だった。
「ここは『輪廻の境界』、正確にはそことお前たちの世界の狭間だよ」
「赤羽、サツキ」
「覚えていてくれて光栄だよ、宮木竜成。いや、四魔神将カヴォロスと呼んだ方が嬉しいかな?」
「どちらでも構わんが……。つまり、俺は……。俺たちは、死んだのか」
ふむ、とサツキは笑みを消す。指を鳴らすと、この世界の中に結花、ダルファザルク、アヴェンシル、デビュルポーン、グラファムント、辰真の身体が投げ出される。
ややあって彼らは目を覚まし、身を起こす。
「ここは……」
「……サツキ。お前がいるってこたぁ、俺たちは」
ダルファザルクたちが戸惑いを見せる中、サツキの姿を認めた辰真が己の身に起こっていることを察した様子だった。
だが彼の言葉に、サツキは首を横に振る。
「まだ死んだわけではないさ。間一髪だったがね。お前たちの身体は一時的にこの空間へ隔離させてもらった。お前たちには選ぶ権利がある。このまま死を受け入れるか、元の世界に戻るか」
「戻るさ。エレイシアの暴挙をこれ以上許すわけにはいかない」
カヴォロスは立ち上がり、他の者たちもそれに続く。
うむ、と頷くサツキだったが、そのかたわらで俯いていたララがポツリとつぶやく。
「……でも、それが正しいのかしら」
「ララ?」
「女王エレイシアのやろうとしていることは確かに、人類を滅ぼすかもしれない。でも、彼女は魔族のための世界を作ろうとしている。それは本当に間違っているのかしら」
「――間違っているのだ、勇者よ」
ララの言葉を即座に否定したのは、他でもない魔王ダルファザルクその人だった。
「我もかつては魔族の世を作ろうとした身。だからこそわかる。その戦いに果てはないのだ、勇者よ。たとえどちらかがどちらかを根絶やしにしたところで、だ。争いは必ず、残された者たちの間で起こる。だから間違っているのだ。どちらかを滅ぼそうとすることなど、最初から、な」
ダルファザルクの瞳がララを射抜く。彼の言葉と視線を真正面から受けて、ララは大きく息を吐く。
「……そうね。あなたにそれを言われたら、返す言葉もないわ」
「……俺は魔王様のご意思に従うのみ。その中で強い敵と戦えりゃあ文句は何もねぇ!」とグラファムント。
「お、気が合うじゃねぇか。鬼なんてもんはただそれだけの存在よ。こまけぇこたぁ知ったこっちゃねぇぜ」と辰真。
「
「ま、乗りかかった舟なんでねぇ。最後までお付き合いしまさぁ」とデビュルポーン。
「私たちを助けてくれた人たちが、あそこにはたくさんいます。私はその人たちを見捨てたくない」
「それに、あそこには友もいる。そいつが人間と魔族の共存を願ってるんだ。俺がそれを叶えてやらなくてどうする」
「結花、カヴォロス……」
ララは目を伏せる。その口元にはかすかに笑みが湛えられていた。
「話はまとまったな? では、お前たちをあちらの世界に送還するとしよう。心の準備はいいな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます