Chapter 18-3

「贄……!?」

「……貴殿の話、興味深く聞かせてもらった。我は常々、聖剣というものの存在について疑念を抱いていた。然るにあれは、人類の滅びを防ぐという機能に特化した装置。そこに意思などなく、ただ目的を遂行するために持ち主を選び、我らの魂を隷属して利用するだけの絡繰」


 ダルファザルクの言葉に、エレイシアは頷く。


「その通りです。この世界は、その絡繰に操られて存続しているだけに過ぎません。ですから私は、この世界に意思ある神を、魔の王を降ろします。それなるはロキ。別世界の神話の神であり、神話の中では滅びたとされていましたが、彼は現代まで生き残っていました。そして別世界におけるわたくしの夫となったのです」


 別世界のエレイシア。彼女の持つ千里眼は、そこまで見通すことができるということなのか。


「この世界には彼が必要です。魔王ダルファザルク、あなたの持つ魔力は彼の降臨に最も適している。さあ、大人しくその首を捧げなさい。今のあなたたちに、この小娘を倒すことはできません」


 結花が剣を構える。


「……それはできぬ、と言ったら?」

「……無駄なことを」


 エレイシアは手を横に振った。それが合図となってか、結花が動く。

 彼女は周囲に無数の聖剣を展開しつつ、ダルファザルクへと肉薄する。対してグラファムント、遅れてカヴォロスが立ちはだかるが、結花の剣さばきは彼らより速く、そして力強かった。

 一瞬で斬り伏せられた二人を眼中に留めることもなく、結花はダルファザルクへと斬りかかる。


 これを止めたのは、ダルファザルク自身とアヴェンシルだった。彼らは杖で聖剣と切り結ぶと、魔力を放出。炎と氷が溶けることなく交わり、結花を閉じ込める牢となった。氷漬けになった結花の意識がなくなった、今が好機。


「デビュルポーン!」

「……あいよっ!」


 ダルファザルクの声に、伏せっていたはずのデビュルポーンが動き出し、結花の背後から斬りかかる。が、それは叶わずデビュルポーンは攻撃を止めて飛び退く。

 そこへ突き刺さったのは、頭上から落ちてきた聖剣だった。あれは彼女の意識がなくなったとしても操作できるのか。

 幾本もの聖剣が結花の周囲に落下する。これに弾き飛ばされるダルファザルクとアヴェンシル。炎と氷の牢から解放され、結花はその内の一本を手に取る。その切っ先をダルファザルクへ向けると、大きく振りかぶる。


 だがここで、その戦いを後目に駆け出している男の姿があった。辰真だ。彼は一人、エレイシアの首を狙って駆け出しており、完全に結花の死角となったそこで必勝の一手を打とうとしていた。


 飛び上がった辰真が繰り出したのは、上段からの斬り下ろし。これを玉座に座したままのエレイシアが避ける術はない。

 ――ないはずだった。


 突如として飛び込んできた二本の聖剣が、刀身を重ねて盾となったのだ。これに阻まれた辰真が動きを止めたその瞬間、もう一振りの聖剣が現れて彼の腹部を穿った。


「今の彼女には、360度隙はありませんよ」


 倒れ伏した辰真を、エレイシアは冷ややかに見下ろす。


 これで全員が聖剣の前に倒れた。あっという間の出来事だった。ララでさえ、ここまで聖剣の力を使いこなせていなかっただろう。

 結花は改めて剣を振りかぶる。カヴォロスはそれを見て、必死に身体を動かそうとする。が、シロッコとの戦いで傷付いていた身体は、既に満身創痍だった。


「結花……! やめろ……!! やめろおおおおおおおっ!!」


 カヴォロスの叫びもむなしく、聖剣がダルファザルクの胸を貫いた。

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