Chapter 18-2

「なにを、してるんだ、お前……!」


 カヴォロスの問いに、こちらを向いた結花の目は虚ろだった。あれは、まさか。


「信徒狩りは終わりました。信奉者のいない聖剣の担い手など、操るのはたやすいものです」


 それは、玉座に座するエレイシアの声だった。その声に反応するかのように、結花はエレイシアの前に立つ。そしてカヴォロスたちへと剣を向けてくる。


「さあ、かわいい小娘。私の前に魔王の首を差し出しなさい」


 頷き、結花は聖剣を高く掲げる。すると彼女の周囲に無数の聖剣が現れた。それは独りでに動き、宙に浮かぶと、切っ先をカヴォロスたちに向けて飛来してきた――!


「はあっ!!」


 それを防いだのはアヴェンシルが展開した氷の壁だ。剣は壁にぶつかり爆散する。爆発した冷気が靄となってその場を覆い尽くす。白く覆い隠された視界の中で、しかし確実に次の一手は動いていた。


「おおおおらあっ!!」


 炎を纏い、結花の眼前へと躍り出たグラファムントが拳を振るう。これを背後に跳躍して避ける結花だったが、そこへ更に辰真が斬りかかる。

 体勢を崩した結花にこれを避ける術はないと思われたが、新たに現れた無数の聖剣が結束し、円を描くように回転して盾を形成する。辰真の刀はこれによって阻まれてしまった。


「ちっ……!!」

「避けろぉ!!」


 思わず舌打ちする辰真に、グラファムントが声を飛ばす。

 辰真の頭上から、彼を串刺しにすべく聖剣の雨が降る。グラファムントまで巻き添えにしようとしたそれを、彼らは後退しつつ回避。しかしそのままダルファザルクの元まで押し返されてしまう。


 なんだ、あの力は。あんなものを結花が持っていただと。

 カヴォロスは動けず、ただ瞠目していた。


「――勇者には、もっとも多感で感受性豊かな年頃の女性が選ばれる。それが勇者の持つ特殊な感応力につながりやすいからです。そしてそれを効率よく選定するため、一つの血族が聖剣に隷属された」

「なぜそんなことをお前が知っている……!!」


 エレイシアの声が遠くから届く。不思議と染み入るように響く彼女の言葉は続く。


「それは私の眼が、すべてを見通す千里眼だからです」


 千里眼。そうか、それで彼女はこちらの動向をすべて見ていたのか。内通者などいなかった。すべては女王エレイシアと、『黒翼機関』の掌の上だったというわけだ。


「私はこの眼で神の姿を見ました。あんなものは、在ってはならない。あれはただの機械――システムです。魔族を敵として定め、信仰を集めることでより効率よく聖剣の力を高める。ただそれだけのために作られたシステムに過ぎない。あんなものは神ではない」


 だから、この世界に新たな神を降ろし、今なる神を討つ。

 そのために。


「我が前にその首を差し出し、贄となりなさい。魔王ダルファザルク」

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