Chapter 17-4

 名乗りを上げた二人の姿に、カヴォロスの直感が働く。ここが、死地。

 自然と体は前に出ていた。その隣に並び立つ男がいることも、肌で感じることができた。


「四魔神将カヴォロス」

「扇空寺組頭領、扇空寺辰真」


 二人の声が重なる。


「推して参る」


 激突。


 その衝撃が城の壁を揺らし、結花たちの足元をぐらつかせる。


「結花! 先に行け!!」

「で、でも!」

「心配するな! 必ず後から行く!」

「……わ、わかった!」


 カヴォロスの指示に、結花はデビュルポーンとアルフォスらを伴い、カヴォロスたちの脇を抜けて先へと向かった。


 それを見送ると、カヴォロスは競り合う相手となったシロッコに問う。


「止めなくてよかったのか……!?」

「心配はいらん……! 王妃様はあんな小娘に負けるような方ではない」


 シロッコの言葉に、辰真が声を上げる。


「そいつは結構。だがよ、あんまりあの嬢ちゃんを舐めないほうがいいぜ」

「であれば、あなたがたを倒して我らが戻るのみ!」


 シュラは剣を振り抜き、辰真を弾き飛ばそうとする。が、それを押し留めることが可能なのが、この辰真という鬼の持つ膂力である。


「さすがですね、扇空寺の鬼……!」

「そいつはどうも。てめぇさん、こっちのことをよく知ってるみてぇだな」

「ええ……! それはもう!!」


 シュラは続いて、背の翼をはためかせる。この突風に、辰真の身体が吹き飛ばされる。


「うおっとぉ!」

「辰真!」

「よそ見をしている場合か?」


 同じくカヴォロスと競り合っていたシロッコが、剣を振り抜こうとする。カヴォロスはこれに踏ん張りを効かせて耐えるが、その隙にシロッコは再び剣を振り上げていた。


「甘いな」

「くっ……!!」


 そして振り下ろされた剣を、カヴォロスは両腕をクロスさせて防ぐ。その剣戟の重さに弾き飛ばされるカヴォロスだったが、瞬時に翼を展開して体勢を立て直す。


「その羽はずるくねぇか、大将」

「言ってる場合か! お前も出し惜しみするなよ!」

「……上等!」


 二人は再び床を蹴り、互いの敵と交錯する。

 カヴォロスはシロッコに向かって真っ直ぐに跳躍。叩き付けるように拳を振るう。これを撃ち払うように、シロッコは剣を横薙ぎに振るい、両者は再度激突する。

 しかし今度は、カヴォロスはその衝撃に逆らわずに弾き飛ばされることを選択。宙に舞うと、反動を利用して反転、翼をはためかせて蹴り穿つ。

 これをシロッコは大剣の刀身をかざして防御。あまりの威力に身体が後ろに圧されていくが、床を滑りながらもシロッコは渾身の蹴りを受け切ってみせる。


 カヴォロスは内心で舌を巻く。やはりこの男、できるな。

 床に降り立つと同時、回し蹴りを放つ。これを身を逸らして避けるシロッコへ、更に逆の足で蹴脚を仕掛ける。体勢を崩したシロッコは蹴り飛ばされるが、しかし刀身を当てて防御に成功していた。

 床を転がるシロッコへ、カヴォロスは猛追する。立ち上がろうとした彼奴へ見舞うのは、渾身の掌底だ。


「ぐぉおおおおっ……!!」


 これを左肩口に受けた彼奴は、為す術もなく後方へと吹き飛ばされる。砕けた鎧の欠片を辺りに飛び散らせながら、宙を舞って床に叩き付けられる。


「これであいこだな」

「貴様……!!」


 肩を押さえながら、シロッコは翼をはためかせて体勢を整える。

 彼奴は両手で剣を持つと、それを大上段に構えた。あれがヤツの必殺の構えか。ならば。


 カヴォロスは鎧に魔力を通す。すると鎧は外れ、カヴォロスの腕に集約されていく。


「『ガラティーン・レプリカ』」

「『王竜剣』」


 二つの最強剣が重なり、とてつもない衝撃が城を揺らした。

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