Chapter 17-3
手数で攻めるエルクと、それを圧倒的な膂力で受け切るボルドー。
二人の戦いは一見、拮抗しているように思える。
「どうした。息が上がってきているぞ、騎士エルク」
「貴公はもっと身体を動かしてはどうだ?」
しかし手数の多い分、疲労が蓄積しているのはエルクの方だった。
エルクの繰り出す攻撃が一つも必殺につながっていないのも大きい。その証拠に、ボルドーは今立っている位置から一歩も動いていない。
このままでは、体力をすり減らしたところを狙われ、やられる。
思考を巡らせながら、しかし攻撃の手を止めるわけにもいかない。ボルドーの手にした戦斧。あれはまさしく必殺の武器だ。彼の膂力から振り抜かれるそれは、それだけで必殺必中の技となりえる。
彼ほどの剛腕なれば、当たれば強いのではない。当たるから強いのだ。
しかして、ボルドーの纏う紫色の鎧はエルクの想像以上に手ごわい。横薙ぎに振るう剣も、下から斬り上げる剣も、上から振り下ろす剣さえその鎧が受け切ってしまう。これほど堅牢な鎧は重量も相当なはずだが、ボルドーはその膂力を以ってしなやかに巨躯を動かす。
この攻撃力と防御力。まったく隙が見えない。
「……なぜ竜成殿たちを見逃した」
「なに、上には騎士ミハイルたちがいる。私が手を出さぬとも片付けてくれるであろうさ。それに、私が与えられた命は、貴様を倒すことのみ!」
競り合う腕を振り抜かれ、エルクはたまらず弾き飛ばされてしまう。
しまった――!
床を転がるエルクは受け身を取ると、体勢を立て直して弓を構えるがもう遅い。
ボルドーは戦斧を振りかぶると、それを床へ向けて叩き付けた。すると雷鳴のような轟音とともに、床がひび割れ隆起するではないか。
この衝撃によってエルクは動けず、隆起する床に跳ね飛ばされ中空を舞う。
「ぐは……っ!!」
そして床に叩き付けられたエルクは、血を吐き倒れ伏してしまう。
「終わりだ。さて、見せていただこうか。貴様の中にいるかつての魔王とやらを」
倒れたエルクの元に歩み寄り、ボルドーが戦斧を振り上げる。
――いいだろう。我が姿、その眼に焼き付けるがいい。
瞬間、光が瞬いた。これにはエルクもボルドーも目を瞑り、両腕で顔を覆わざるを得ない。
「――大丈夫か、我が子孫よ」
「あなた、は……」
そして光が収まり、目を開けると、そこには絶世の美貌を持つ黒髪の青年の姿があった。
「ぬうんっ!!」
彼に向け、ボルドーは容赦なく戦斧を振るう。いや、それはもしかしたら、彼の姿を見た瞬間に覚えた畏怖からくる行動だったのかもしれない。
「グラファムント!!」
「……御意」
そしてその戦斧を軽々と受け止める者の姿があった。
ボルドーと同じかそれ以上の巨躯、燃え上がるような赤い肌を持つその男は、片腕でそれを受け止め離さない。
「……四魔神将グラファムント、ここに」
「よし。貴公はそのままそやつの相手をせよ」
「……御意」
赤い肌の男――四魔神将グラファムントの身体から、上昇気流が巻き起こり、逆巻く炎が彼の身を包んでいく。そしてその身体は肥大し、明らかにボルドーを上回る巨躯と化した。
「さぁ……! 始めようではないか……!! 俺と貴様の一世一代の決闘ってヤツをよぉ!!」
グラファムントは戦斧を掴んでいる腕を振りかぶる。それによってボルドーの身体が浮き上がり、あろうことか振り回されるではないか。
「今だ。行くぞ、我が子孫よ」
「は、はい!」
そしてエルクは、黒髪の美男子――魔王ダルファザルクに手を引かれてその場を後にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます