Chapter 16-3
「だったらどうする、カヴォロスの旦那」
デビュルポーンの言葉にカヴォロスは歯噛みする。
まさか。ともに四魔神将と呼ばれたほどの男が、内通者だと――!?
「なぜだ! 貴様も勇者の元で戦うべくこの世界に蘇ったのではないのか!?」
「んー。勘違いしてるとこ悪いんだけど、俺、別に勇者に負けたわけじゃないんだわ」
「……どういうことだ」
肩を竦めるデビュルポーンはこう続ける。
彼曰く、勇者ララファエルと四魔神将デビュルポーンの戦いは、彼が負けたことにして回避されたのだと。
そして500年間、彼は裏の世界で生きてきた。『黒翼機関』の一員として。
「……そうか。今それを明かした理由はなんだ」
「機関の騎士様たちの温情ってヤツさ。俺の素性を明かして公平に行こうってね。ま、いつにするかは俺の方で決めさせてもらったよぉ。一番効き目がありそうな時を、ね」
カヴォロスは拳を構えて深く腰を落とす。対するデビュルポーンもナイフを構える。
「貴様はここで殺す。四魔神将の面汚しめ」
「言ってくれるねぇ。上等じゃない。あんたとは一回やり合ってみたかったのよね」
「抜かせ。四魔神将カヴォロス、推して参る――」
「――お待ちください!」
カヴォロスが足を踏み出そうとしたその時だった。
エルクが声を上げ、それを制止してきたのだ。
「止めるな、エルク! こいつは――」
「――我々の味方です!」
「……は?」
「えっ?」
カヴォロスと結花はデビュルポーンを見やった。
すると彼はナイフを仕舞い、「種明かしが早いよぉ」などと嘯く。
「つまり、今のは……」
「ちょっとした芝居さぁ。ま、俺が『黒翼機関』のもんだってことは事実だけどね」
「何?」
「怖い顔しなさんな。俺はあちらさんから送り込まれた刺客だが、今はもう完全にこっち側さ。新しい刺客が送り込まれたみたいだからねぇ」
新しい刺客。それはいったい。
「どうやら、別の内通者がいるようです」
続いて口を開いたのはエルクだった。彼の言葉にカヴォロスと結花は瞠目する。
「それが誰なのか、何人いるのかはわかりません。しかしデビュルポーン殿によれば、あちらに渡していない情報が知られていた」
「例えば辰真の旦那なんかがそうさ。あの人のことは伏せといたはずなんだがねぇ。どっから漏れたんだか」
デビュルポーンは肩を竦め、エルクは顔を伏せて首を横に振った。
辰真の存在は切り札の一つになりえるはずだった。それが彼奴らに知られているとなると、彼に頼った戦術は使いにくくなる。
「そうか……。今は気を付けるしかないな。それで、さっきの小芝居はなんだったんだ?」
「あんた、人の言うことを素直に信じすぎるところがあるだろう。そいつを理解してほしくて一芝居打ったってわけ。だから俺の言うことあんまり信じるんじゃねぇぞ」
「……肝に銘じよう」
さすがは500年前からの同僚。痛いところを突いてくる。
「では結花殿、ロキという存在について改めて伺っておきたいのですが、よろしいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ありがとうございます。ロキというのは、結花殿の世界の神話にある神の名でお間違いありませんね?」
「はい。北欧神話っていう……とても寒い北国に伝わっている神話です。その中に出てくる、悪戯好きの神の名前がロキです」
様々な厄介事をもたらす、いわゆるトリックスターの役割を持ち、その名は閉ざす者、終わらせる者の意味があるという。
「『黒翼機関』にも、その存在について知っているヤツはほとんどいない。というか、あの時女王エレイシアがその名を口にするまで、誰からもその名を聞いた覚えはないね」
「本当か、デビュルポーン」
「ああ。だから俺は、その存在が実在することすら怪しいと思ってるよ」
「……しかし、その存在のために実際に信徒狩りは行われている」
ロキ降臨のためという名目で行われている信徒狩り。それは仮にロキという存在のためでなくとも、聖剣の信仰を否定するものだ。この世界において絶対の教えとして広まっているそれを否定することは、人類の否定にも繋がる。
それがおそらく、彼奴らの最大の目的。人類の存在を否定し、魔族のための世界を作ること。
「行こう。ロキという存在がどうであれ、ヤツらの暴挙を許すわけにはいかないだろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます