Chapter 16-2

「竜成殿」

「どうした、エルク」


 会議を終え、それぞれが作戦室を出て行く中、エルクが声をかけてくる。


「少しお時間よろしいですか」

「ああ、いいぞ。まだなにか話があるのか?」


 エルクは頷き、結花にも声をかける。


「結花殿もよろしいですか?」

「え? は、はい」


 少し戸惑いを見せる結花を伴い、カヴォロスとエルクは連れ立って城を出た。

 ここからはエルクが先導し、城を離れて森の中に入っていく。


 こうしてこの森を三人で歩くのは久しぶりだ。あの日、竜成がカヴォロスとして転生してきた時、エルクと出会わなければどうなっていたことか。


 そういえばあの時、結花は自分が高校生だと話していた。大学生だった竜成とは3年くらいの月日の差があるのだが、これはおそらく聖剣の勇者としての適齢期が18歳くらいであるためなのではないか。思えばララも、召喚されたばかりの頃はそれくらいの年端もいかない少女だった。


 しかし妙な部分もある。結花が聖剣の勇者として、高3の時にこの世界で召喚されていたことなど、竜成は知らなかった。

 それはもちろん、当時はそんな話を聞かされても信じられないだろうから、言わなかったということもあるだろう。だが結花が召喚されてから早2か月。それだけの期間、結花は元の世界から消えていたことになるはずだ。そんな記憶は竜成にはない。ない――はずだ。


 違和感。その正体を探ろうと、記憶を辿る。するとどうだろう。竜成が高校三年生だった当時の記憶が酷くぼんやりしている。そしてなにより、ずっとかたわらにいたはずの結花の姿を、鮮明に思い出すことができない。


「竜成殿、結花殿。こちらです」


 エルクの声に、物思いにふけっていたカヴォロスはハッとする。

 そこはあの日、カヴォロスたちがキャンプを敷いた場所だった。


「それで、こんなところまで連れてきてどうした?」


 わざわざこんなところまで連れてくるくらいだ。あの場では話しにくいことなのだろう。


「今回の情報、デビュルポーン殿ら調査隊の尽力により入手することができました。しかしデビュルポーン殿曰く、その情報は敢えて掴ませられた可能性が高い」

「罠、ということか」

「ええ。ですが、信徒狩りは実際に行われている。止めなければならないことに間違いはありません。しかし我らの行動は彼奴らへ筒抜けになっているでしょう」


 思えば確かに妙だった。『黒翼機関』のエキスパート・シロッコ。彼奴の目的は聖剣の勇者を暗殺することだった。そのために彼奴は魔狼族の里を襲撃してきたわけだが、なぜ彼奴はあそこに勇者がいることがわかったのだ。


「それって、もしかして……」


 結花も同じことを思ったのか、声を上げる。

 カヴォロスとエルクは頷き合う。


「内通者がいる可能性が高い」


 そう口にしたのはエルクだ。内通者。いったい誰が。


「ま、そう考えるのが妥当っちゃ妥当だねぇ」


 その声は、木陰から聞こえた。

 声の主が姿を現す。浅黒い肌をした優男は、どこか気だるそうにカヴォロスたちの前に歩み出る。


「まさか……! デビュルポーン、貴様……!!」


 彼が内通者なのか。

 デビュルポーンは身構えるカヴォロスたちを前に、口の端を釣り上げた。

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