Chapter 15-3

「……なるほど。わかりました。ご報告感謝いたします、デビュルポーン殿」

「ああ。こいつは真面目に、急がないといけないかもねぇ」


 結花の言を受けて、カヴォロスたちはエルクがいる作戦室へ向かった。魔王城跡は突貫ではあるものの復旧が進んでおり、この作戦室もその一環として設えられたものだ。

 とはいえ扉などはなく、あくまで簡素な造りである。ゆえに漏れ出る声から、中に誰がいるのかは容易に推察できた。


 中を見やれば想像通り、エルクと、彼と言葉を交わすデビュルポーンの姿があった。

 カヴォロスが入室すると、それに気付いたエルクが顔を上げる。


「竜成殿、丁度よいところに。実はお伝えしたいお話が」

「済まないが、先にこちらの話を聞いてくれるか。緊急事態かもしれん」


 カヴォロスの声に、エルクは表情を引き締める。


「どうされましたか」

「それが――」

「――伝令!!」


 カヴォロスが口を開いたと同時、一人の騎士が作戦室前に駆けてきた。

 彼はカヴォロスたちの姿を認めると、続ける。


「皆様お集りでしたか! 緊急事態です!!」

「申し訳ございません、竜成殿。先によろしいですか。――なにがあった」

「はっ! 南よりこちらに向かってきている、武装した一団を確認いたしました!! 魔族だと思われます!!」


 この言葉に、カヴォロスたちは一様に目を見開いた。

 その中で一人、エルクが冷静に口を開く。


「数は」

「およそ100!」

「100か……」


 数の上ではこちらとほぼ同等のようだ。しかし相手は魔族。油断はできない。そしてその集団は恐らく、結花の言っていた者たちなのだろう。


 ややあって、エルクが声を張る。


「全員へ通達! 戦闘準備!」

「はっ!」


 再び駆けていく騎士を見送り、カヴォロスはエルクを振り返る。


「勝算はあるのか」

「数の上で互角ならばあるいは、といったところでしょうが……。もしご助力いただけるのであれば、戦闘にはならないかもしれません」

「ほう?」

「相手が魔族ならば、竜成殿たちのお姿を認めていただければ少なくとも話し合いの余地はあるかと」


 それは確かに一理ある。中にはデトリクスやグルジファルドのような生き残りもいるだろう。彼らがカヴォロスの姿を見れば、敵対行動はしてこないかもしれない。


 だが一抹の不安はある。生き残りだからこそ、カヴォロスたち四魔神将――ひいては魔王ダルファザルクに敗戦の責があると考えているものたちがいたら。


 いや。カヴォロスは首を横に振る。だからこそだ。だからこそ、四魔神将と呼ばれる前は龍魔族の長であった自分が、その恨みつらみをすべて受け止めなければ。かつて捨てたもの。今こそその務めを果たそう。


「行こう。俺が前に出る」

「あ、竜成君」


 勇んで作戦室を出ようとしたカヴォロスに声をかけてきたのは結花だ。

 振り返ると、彼女は落ち着き払った表情でこう言うのだった。


「多分……大丈夫だと思う」

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