Chapter15 魔龍族の長としての務め
Chapter 15-1
聖剣。それは神話の時代、神によって造られたと云われる。聖剣は世界が危機に瀕したとき、異世界より勇者を召喚し、ともに人類の敵を討つ。そうしてこの世界には平穏と安寧がもたらされてきた。
また、聖剣に選ばれたのはいずれもうら若き乙女であったという。穢れなき聖女のみが聖剣を持つに相応しいとされているが、なぜなのかはどんな歴史書を紐解いても記されてはいない。
なんにせよ、聖剣は神の化身・代行者として信仰されてきた。王国各地には教会が設置されており、そこで教えを説いている。
「……お、お助けを……聖騎士様……!」
そして、今でこそ聖騎士とは王の元に集う者たちであるが、元来は勇者とともに人類の敵と戦った者たちを指す。新たな勇者が召喚されれば、彼女を旗印として戦う。それは現在に於いても変わらぬ共通認識であった。
「恨んでもらって構わない。世界の真の平穏の礎となってくれ」
神父の首を刎ねる。鮮血をまき散らして宙を舞った頭部が、教会の床に落ちると同時に、首から下の胴体も倒れた。
剣を振り、血を払って鞘に戻す。頬に飛んだ血を拭うと、聖騎士ミハイルは引き結んでいた表情を緩めた。
しんと静まり返った礼拝堂に立っているのは彼だけだ。周囲には、血を流して倒れ伏す信徒たちの姿があった。いずれも、もう動くことはない。
「終わったのか、シュラ――いや、今はミハイルと呼んだ方がいいか」
「シュラで構いませんよ、シロッコ」
そこへ現れたのは、東洋人然とした青年――シロッコだった。
『黒翼機関』。この国を建国より裏から支えてきた暗部組織だ。彼らはそのエキスパート――幹部のような存在である。
「随分と手傷を負いましたね。任務の方はいかがでしたか」
「失敗だ。四魔神将カヴォロスと、復活したアヴェンシルによってな」
「……そうでしたか。あちらもやはり、侮れない実力をお持ちのようですね」
シロッコが頷く。
ミハイル――シュラはその表情をほんのわずかに曇らせた。決して侮っていたわけではない。しかし、このシロッコと痛み分けるほどの強さを持つ。それが四魔神将。そして魔王軍最強と名高い男の実力なのか。
「しかし、こんなところまでお前が出張る必要があるか? あちこち飛び回るな。探すのが面倒だ」
「これは申し訳ございません。どうにも、現場主義なものでして」
シュラは苦笑いを浮かべる。シロッコは肩を竦めて息を吐くだけだ。
エキスパート内でも統括的な立場であるシュラだが、彼には直属の部下というものがいない。強いて言えば、シロッコのような他のエキスパートたちなのだが、シュラ自身はあくまで同僚という感覚でいる。
「ですが困りましたね。勇者がまだ生きているとなると、我らの目的が果たせません。我らが王にして神。ロキ様がこの世界に君臨されるためには、他の神の存在はどうしても邪魔になる」
「だからこうして、勇者の暗殺を企て、各地の教会を潰して回っているんだろう? 改まってどうした」
「ええ。せっかくですから、そちらで聞き耳を立てている方にも聞いていただこうと思いましてね」
シュラの言葉にシロッコが振り返る。礼拝堂の出入り口から舌打ちの音が聞こえ、何者かが走り去っていった。
「……追わんのか」
「ええ。少しはあちらにも情報を流しておかなければ、フェアではありませんからね」
「必要はないと思うがな」
「ですがあなたも、目的を打ち明けてきたんでしょう?」
「……知っていたのか」
「いえ。ただ、痛み分けとなればあなたならそうするのではないかと」
「……ヤツの実力に敬意を表した。それだけだ」
嘆息するシロッコは、それにと続ける。
「真の目的は口にしていない」
「ええ、それは上々。私もそこまでは伝える必要はないと思います」
「ああ。聖剣を破壊し――」
シュラは言葉を継ぐ。
「――魔王を生贄に、我らが王をこの世界に再誕させる、というね」
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