Chapter 14-5
それはもはや、子供が意地を張り合っているようにしか見えなかった。
とは、のちの女性陣からの評価である。
立ち上がる辰真の拳を受け、カヴォロスはよろめく。が、倒れる寸前で踏み止まり、なぜか笑い出す。
「く……はははは! はーっはっはっは!! まだまだ負けんぞ辰真ぁあ!!」
「か……はははは!! いいぜいいぜぇ!! やれるもんならやってみろやぁ!!」
互いに拳を振りかぶる。その身体はもうボロボロで、殴打の痕だらけである。息も絶え絶えな二人はふらつきながらも、どちらかが負けを認めるまで止めようとはしない。
周囲ではこれまたボロボロな騎士団員たちが、「そこだ!」「やれ!!」「いいぞ!!」などと囃し立てる。
「うわぁ……」
「阿呆よの」
その光景を横目に見る女性陣はドン引きだった。
ともかく、互いに振りかぶった拳を、つんのめりながらも振り抜く。それが互いの顔面にめり込むのは同時だった。いわゆるクロスカウンターのような形になったが、しかしこの場合、相手の勢いを利用しているのはどちらなのか。
答えはわからないまま、二人は同時にその場へ倒れ伏す。
「……まだ、負けたわけでは……!!」
「……立てんのか、大将……!」
立ち上がることができた方の勝ち、と思われたこの勝負だが、そこへ割って入ったのは結花だった。
ザン、と二人の間に聖剣が突き立てられる。
「いい加減にしないと、晩ご飯抜きだよ?」
「……はい」
「すんませんっした」
その圧に、カヴォロスも辰真も素直に聞き入れざるを得なかった。
結花は溜め息を一つ吐き、二人に肩を貸す。
「じゃあ終わりね。ほら、行くよ」
「ああ、悪いな」
「……嬢ちゃん、抱き着いていいか?」
「え、だ、だ、ダメで――」
「――てめぇ、なに言ってやがる」
「冗談だよ大将。そう怒んなって。誰も嫁さん寝取りゃしねぇよ」
「よ、よ、よ、嫁っ!?」
「違うわアホっ! ただの幼馴染みだっ!!」
カヴォロスの反応に、辰真も結花もドン引きだった。
「……嬢ちゃん、苦労してんな」
「はい……」
「なんの話だ?」
「さあて、なんだかな? それよりどうだい、大将。あんたの喧嘩、俺にも一枚噛ませてくれよ」
辰真の言葉に、カヴォロスは思案する。
彼は聖剣の導きでここに来たと言った。カヴォロスと同じなのだと。つまり、彼もまた転生してこの世界に復活したのだ。彼の言葉に邪気は感じない。彼は間違いなくカヴォロスと目的を同じにしているという確信があった。
即ち、勇者とともに戦い、この世界を救うという。
「俺が断れる立場じゃないさ。勇者はこいつなんだからな」
「そうかい。なら嬢ちゃん、俺もあんたらに付いていって構わねぇな?」
「え? は、はい。よろしくお願いします」
「そいつは結構。こっちこそよろしく頼むぜ」
こうして、一人の鬼が仲間に加わることとなったのだった。
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