Chapter 14-4
「
怪訝な表情でつぶやくカヴォロスの隣で、エルクが確認を取る。
「それは本当か」
「は、はい! 確かに、あのときの鬼の大将です! 間違いありません!!」
「一人なのか」
「ええ……! ですが凄まじい強さで、我々だけではどうにもならず……!!」
「ふむ……」
エルクは口元に手を当て、思案する。
「竜成殿、急ぎましょう。ベルカ、お二人とともに後から来い。頼むぞ」
「かしこまりました」
「あっ、エルクさん、待ってください!」
すぐに出立しようとしたエルクに、声をかけたのは結花だ。
「結花殿?」
「その……。確証はないんですけど、もしかしたらここにいる全員飛ばせるかもしれません」
「飛ばす……というのは、まさか」
結花は頷く。
「転移できると思います」
「本当ですか!?」
「はい。ただ、少し準備が必要なので、時間をもらえますか? その間、団員さんたちも休憩が必要でしょうし」
「わかりました。全員ご苦労! しばし休息とする!」
エルクの号令で、団員たちは馬から降りて休息を取り始めた。鍛えているとはいえ、超速で早馬を飛ばしてきたのだ。その疲労は測り知れない。木陰に腰を下ろす団員たちはみな、大きく息を吐いていた。
結花はそんな彼らから離れたところへ移動していった。カヴォロスはそんな彼女に付いていく。
「結花、本当にできるのか?」
「うん。転移自体は普通にできると思う。ただ、あの人数を全員は正直自信ないかも」
「そうか。なら、俺はサポートに回ろう」
「ふん、魔術に疎いお主がか?」
そこへアヴェンシルの声がかかる。彼女も結花の様子を見かねて付いてきてくれたのか。
「いや、これでもこの間、れっきとした魔法使いから手ほどきを受けたんだぞ」
「魔法使いから? ……まあよい。ならば手助けはお主に任せよう。勇者よ、こやつでは頼りないと思ったら妾に声をかけよ」
「はい、ありがとうございます!」
うむ、と頷き、アヴェンシルはキャンプの方へと戻っていった。
「それでお前、そもそも魔力の使い方わかるのか?」
「なんとなく、だけど」
「そうか、ならまずはそこからだな。目を閉じて集中しろ……」
カヴォロスは順を追って説明していく。結花は言われた通りに集中して、魔力の源泉を探っていく。
すると、結花の胸の辺りが白く輝きだした。早い。なんとなくわかると言っただけはある。
「よし、いいぞ。それがお前の魔力だ。あとはそれを全身に駆け巡らせるイメージで……」
頷く結花の体中に、光が拡散していき、輝きが収束する。
これで、全身を血液のように魔力が駆け巡るようになった。あとは指を動かすかのように感覚で魔力を操れるだろう。
それから幾度か転移魔術の練習をして、問題なさそうだというところで再び全員を集めた。
「それじゃあ、いきます」
結花は目を閉じて念じ始めた。転移する先をイメージしながら、必要な魔力を捻出している。ただ、この人数だ。自分一人が転移するよりも時間がかかる。
やがて、カヴォロスたち全員を囲むように光の円が出現する。その線から光の柱が立ち昇り、カヴォロスたちの視界がホワイトアウトする。
次の瞬間、カヴォロスたちの前には見知った景色が広がっていた。
「……成功か」
見回せば、全員がその場にいた。転移は誰一人欠けるようなこともなく成功していた。
「……でき、た……」
「結花!」
結花を見やれば、彼女はぐらりと揺れて倒れそうになる。カヴォロスはそれを慌てて抱き留める。
「竜成殿、あれを!」
そこへ、遠見の魔術で魔王城跡の方を見たであろうエルクが声を上げた。カヴォロスも目を凝らしてそちらを見やる。
そこでは、デビュルポーンと一人の鬼が戦っていた。
刃を交える両者だったが、デビュルポーンが大きく短剣を振り、鬼がそれをバックステップで避ける。
デビュルポーンはそれに合わせて後ろに退く。そして次の瞬間には、カヴォロスの隣まで飛びずさってきた。
「お帰んなせぇ、旦那!」
「デビュルポーン! 大丈夫か!?」
「別にどうってことはねぇさ。旦那の知り合いっしょ? なんとかしとくれ」
「ああ……。アヴェンシル、結花を頼む」
頷いたアヴェンシルに結花を任せると、カヴォロスは大きく息を吐いてから歩き出した。
その姿を認めてか、鬼はその場で佇んでいた。彼奴の姿がはっきり見えるようになってくると、それが誰か、はっきりとわかった。いや、もしかしたら鬼だと聞いたときから確信していたのかもしれない。
「よう。久し振りだな、大将」
「そうだな。なぜお前がここにいる?」
「あんたと同じさ。聖剣様の力のお導きってヤツだ」
「それで、この有様か?」
周囲を見渡せば、彼奴にやられたであろう団員たちが呻きながら倒れている姿が見えた。死んではいないが、よほどこっぴどく叩きのめされたと見える。
「あん? そりゃあこいつらが寄ってたかって斬りかかってくるからよ。……ま、いい稽古になったんじゃねぇか?」
「まったく、いきなりお前が出てきたらそりゃあそうだろう。ちゃんと説明しないからだ」
「はいはい、そいつは結構。それよりどうだい、大将。久し振りに一つ、手合わせといかねぇかい?」
「いいだろう。来い」
二人は腰を深く落とし、声を重ねる。
「扇空寺辰真、推して参る」「四魔神将カヴォロス、推して参る」
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