Chapter 14-3

 翌朝、目覚めたカヴォロスはテントを出た。

 なぜかやたらと女性陣から罵倒される夢を見た気がするのだが、よく思い出せなかった。


 まだ起きるには早い時間だ。カヴォロスの隣で寝ていたベルカも、隣のテントの二人も、まだ起こす必要はないだろう。

 見張りにはエルクが就いていた。彼の元に歩み寄りながら、声をかける。


「おはよう、エルク」

「ああ、竜成殿。おはようございます。まだ寝ていてもらって大丈夫ですよ」

「いや、もう目が冴えちまってな。隣、いいか?」

「ええ、どうぞ」


 カヴォロスは腰を下ろし、二人で焚火を囲む。

 こうしていると、エルクに初めて出会ったときのことを思い出す。


「……なあ、エルク。お前は本当に、女王と戦えるのか?」


 バチバチと、焚火のはじける音だけが響く。

 やがて、エルクは焚火を見つめたまま口を開いた。


「……正直に言えば、迷いはあります。疑問も消えません。陛下がなぜあのような暴挙に及んだのか。陛下を操る黒幕がいるのではないか。と」

「……ロキ」


 あのとき、エレイシアが口にした、かつての夫の名。その男が、彼女を操り乱心させたのか――?


「陛下はあのとき、かつての夫とおっしゃいましたね。ですが、陛下には夫はいらっしゃいません。今も昔も、そのような関係になる人物には少なくとも私には心当たりがないのです」

「ロキという名に聞き覚えは?」


 エルクは首を横に振る。デビュルポーンでさえ、その男の名を知らなかった。となると、それはやはり北欧神話に登場する神の名なのか? ……いや、それはさすがに飛躍しすぎだろう。


「そのロキという男について、調べる必要がありそうだな」

「ええ。戻ったらすぐ、調査隊を結成しましょう」

「ああ。隊長はデビュルポーンに任せよう」

「それは心強い」


 斥候として諜報活動に長ける彼だ。武力においても相当な戦力となるだろう。


 その後はエルクと今後について話している内に、結花たちが起きてくる。カヴォロスたちは話を切り上げ、朝食の準備を始めた。


 食事を終えると、早速出発となった。洞窟の外は相変わらずすさまじい吹雪であったが、アヴェンシルの結界により格段に下山は楽だった。

 そうして無事に山を降りる。死の山と呼ばれるこの場所で、誰も死人がでなかったというのは奇跡に近い。アヴェンシルには感謝してもしきれなかった。


 だが、山を降りたときには既に、夜になっていた。この辺りは雪も多いので、麓から少し離れたところでキャンプを張ることにする。


「団長ーーーー!!」


 そんな折だ。彼方から聞こえてきたのは、こちらを呼ぶ声と馬の駆ける足音だった。

 錬鉄騎士団の団員たちだ。彼らはカヴォロスたちの元まで駆けてくると、慌てた様子で口を開く。


「どうした。なにかあったのか」

「団長、急いで帰還を! 魔王城跡に、鬼が!!」


 その言葉に、カヴォロスは眉をひそめた。


「あの、辰真という鬼が攻め込んできたのです!!」

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