Chapter 13-3
「嫌じゃ」
「そうか、ありがとう。本当に助かるよ。これからもよろしく――
……………………………………なんて?」
時は遡る。
※ ※ ※
「それでは、アヴェンシル様のご生還を祝って、かんぱーい!!」
デトの音頭で祝杯が上がる。グラスのぶつかる音が鳴り響き、村民たちはそれぞれ手にした酒を口にする。
そして食事を始める。料理を作ったのはそのほとんどがベルカだった。今も肉を焼くなど調理を続けている。
昨日まったく同じ光景を見たような気がするが、まあ気のせいだろうとカヴォロスは酒を呑む。しかしベルカが働き者すぎる。過労で倒れないか心配だが……特に動きが悪くなったりはしていないので今のところは大丈夫だろう。
ともかく、酒が美味い。昨日と同じ酒だが、勝利の美酒というべきか、戦いの後の酒は格別だった。カヴォロスは特別酒好きというわけでもないが、それでもこの酒の美味さはわかった。
そこへグラスを手にしたアヴェンシルがやってくる。彼女はカヴォロスの隣に座った。
「どうじゃ? 楽しんでおるか」
「アヴェンシル。ああ。特にこの酒は美味いな」
「そうか。それはよかった。……しかし、お主も変わったな」
「ん? そうか?」
アヴェンシルは頷く。
「少なくとも前までのお主なら、そうやって酒の味に唸るようなこともなかったであろうよ」
アヴェンシルは自分も酒を口にして、続ける。
「妾が勇者に負けてから、なにがあった。話せ」
その視線は刃物のように鋭利だった。
カヴォロスは酒の入ったグラスを置き、息を吐く。
「長くなるが、いいか」
「構わぬ」
ならば、とカヴォロスは話し始めた。カヴォロス自身も勇者ララファエルに敗れたこと。ララファエルはダルファザルクすら打ち破ったこと。
自身が宮木竜成として生まれ変わったこと。竜成としての記憶を持ちながら、再びカヴォロスとしてこの世界に戻ってきたこと。あの頃から既に500年の月日が流れていること。そして。
「女王エレイシアの手から逃れた俺たちは、魔王城跡に逃げ延びた。そしてララファエルの提案により、お前を復活させるべくこの里へとやってきたのだ」
「……ほう。それで?」
「ダルファザルク陛下がお前を目覚めさせ、あとはお前の見たままだ。この里を襲撃してきた彼奴らを退け、勝利した。これはその勝利の宴でもあるだろう」
「それはわかっておる。そういうことではないわ」
「……うん? つまり、どういうことだ?」
思わず首を傾げたカヴォロスに、アヴェンシルは鼻を鳴らした。
「ふん、その察しの悪さは変わっておらぬな。妾を目覚めさせて、なにをさせようと言うのだ?」
「あ、ああ。そういうことか。それはもちろん、お前を迎えに来たんだよ。俺たちと一緒にまた戦ってくれ、アヴェンシル」
「嫌じゃ」
「そうか、ありがとう。本当に助かるよ。これからもよろしく――……………………………………なんて?」
カヴォロスの表情は、中途半端に口角が上がったまま硬直した。
「だから嫌じゃと言うておる」
「な、なんでだ? 確かに、勇者とともに戦うのは不本意かもしれないけど、これは陛下だって……」
「違うわ
アヴェンシルの手には、氷でできた扇子があった。これを閉じたまま、カヴォロスの鼻先に突きつけてくる。
「かの四魔神将たるカヴォロスが、今や人との混ざりものじゃと? 落ちぶれたものじゃ。勇者がどうこうなどどうでもよい。先の戦いもなんじゃあの体たらくは。今のお主のような腑抜けになど、付いていく気は起きぬわ、たわけ!」
「なっ……!」
たじろぐカヴォロスは、そのまま固まる。
アヴェンシルの反対側、カヴォロスの右隣でそれまでの成り行きを静観していた結花が、ここでついに口を挟む。
「アヴェンシルさん、竜成君もあの時死にかけていたんです。そこまで言わなくても……」
「ふん、それこそ腑抜けだと言うのじゃ。天下の四魔神将ともあろう者が、あの程度の敵にやられるなど。しかもこやつは仮にも四魔神将最強と謳われておるのだ。これでは妾の名にも傷がつくというもの」
「あの――」
「――言いたいことはそれだけか?」
なおも擁護しようとしてくれる結花を遮り、カヴォロスは声を発した。
そしてグラスを勢いよく持ち上げ、中身を一気に飲み干す。
「そこまで言うなら、覚悟はいいな? これで決着を付けよう」
「望むところじゃ」
アヴェンシルもグラスの中身を飲み干した。そして同時に里長の名を呼ぶ。
「デトリクス殿!!」
「デトリクス!!」
二人の声が重なる。
「「ありったけの酒を持ってこい!!」」
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